FAXを止めないことが、受注を止めないことになる
オリエンタルベーカリー様では、多数の取引先から注文を受け付ける受注センターを運用しています。 FAXは古い通信手段ではなく、取引先のシステム環境に左右されにくく、障害時にも残しやすい受注経路です。
ここで守るべきものは、単なる通信手段ではありません。 発注締切までに確定した注文を翌日の製造・出荷計画へ渡す、事業上の入力工程です。
その一方で、FAX受信は複合機だけでは成立しません。 FAXサーバー、ルーター、ONU、HUB、複合機、印刷機能、受信データの確認経路までが連続して動く必要があります。 どこか一つでも電源が落ちれば、受信機会の損失や確認遅延につながります。
守る対象は複合機ではない。
注文を受け取り、確認し、業務へ渡すまでの受注経路である。
中種法の熟成工程には、前日受注が必要
オリエンタルベーカリー様のパンづくりでは、中種法を採用しています。 小麦粉の一部に水とパン酵母を加えて中種をつくり、適切な温度と湿度を保ちながら数時間発酵させた後、残りの材料を加えて本生地へ進みます。
この熟成工程がある以上、注文を受けてから直ちに製造することはできません。 翌日の製造量、品種、出荷先を計画へ反映するには、定められた発注締切までに受注内容が確定している必要があります。
発注締切というリードタイムをお客様へ求めている以上、停電によってFAXを受信できず、注文そのものを失うことは許容できません。 これは受付の遅延ではなく、翌日の製造・出荷へ取り戻せない失注になり得ます。
前日受注は、翌日の製造を始めるための入力データである。
だから、受注経路の停止は製造工程の停止と同じ意味を持つ。
製造工程の参考: オリエンタルベーカリー採用サイト「パンができるまで」
既設UPSでは約10分という制約
従来のUPSは、瞬停や短時間停電を乗り切り、安全にシャットダウンする用途には有効です。 しかし、受注受付を継続するには、10分前後の保持時間では不足します。
長時間停電が発生した場合、既設UPSが先に停止すれば、FAXサーバーや通信機器が動いていても複合機が停止し、受信内容を確認できません。 逆に複合機だけを守っても、通信経路が落ちれば受信できません。
| 従来の考え方 | 本事例での見直し |
|---|---|
| 機器単体に小型UPSを付ける | 受注経路全体を一つの重要負荷として整理する |
| 数分間だけ保持する | 業務継続に必要な時間まで増設バッテリーで延長する |
| 停止後に現地確認する | 停電・電源イベントを通知し、初動を早める |
複合機の変動負荷・突入電流という難しさ
レーザー方式の複合機は、定着ヒーター、モーター、給紙機構が動くため、待機時と印刷時で消費電力が大きく変化します。 電源投入時や印刷開始時には、瞬間的に大きな突入電流が発生します。
一般的な小型UPSでは、この瞬間的な電流上昇を過負荷として検知し、機器を守るために出力を停止する場合があります。 UPSが故障したのではなく、保護動作によって止まるため、定常時の消費電力だけで容量を決めると設計が成立しません。
- 突入電流を過負荷として検知
- 印刷開始時に出力停止
- FAX受信中の印刷が中断
- 保持時間計算と実運用が一致しない
- 急峻な負荷変動へ追従する
- 複合機と通信機器を同時に保護する
- 無瞬断で系統を維持する
- 必要時間まで蓄電容量を増設できる
複合機、FAXサーバー、通信経路を一つの系統として守る
本事例では、複合機だけをバックアップするのではなく、FAXを受信し、保存し、印刷し、担当者が確認できるまでの電源経路を整理しました。
通信回線 ↓ ONU・ルーター・HUB ↓ FAXサーバー ↓ 複合機・印刷 ↓ 受注内容の確認・業務処理
サーバーだけ、複合機だけ、通信機器だけを個別に守ると、どこかに電源の単一点障害が残ります。 電源BCPでは、機器の台数ではなく、業務が成立する経路を基準に保護範囲を決めます。
双方向インバーターとホットスワップ電池
採用した可搬型UPSは、双方向インバーターによって急激な負荷変動へ追従し、複合機を含む受注系統へ安定した交流電力を供給します。 停電時は系統を無瞬断で維持し、増設バッテリーによって保持時間を延長します。
バッテリーはホットスワップに対応しているため、業務を停止させずに蓄電容量を追加・交換できます。 停電時間が長引く場合にも、受注業務を継続しながら運用を維持できる構成です。
突入電流と印刷時の負荷変動を含め、複合機へ安定した電力を供給します。
停電・瞬停時にも、FAXサーバーと通信経路を切らずに維持します。
必要な運用時間に応じて増設バッテリーを追加し、停止せずに交換できます。
停電通知と初動対応
電源が切り替わっても、停電の発生を把握できなければ、長時間化したときの対応が遅れます。 本事例では、停電や電源イベントをメールで通知し、担当者が状況を把握できる運用を組み合わせています。
可搬型UPSは単に時間を稼ぐ装置ではありません。 停止を防ぎながら、担当者が状況を判断し、必要な対応を行うまでの時間を確保する設備です。
このUPS導入事例が示すこと
本事例のポイントは、複合機へ大容量UPSを接続したことではありません。 受注業務を構成する機器と通信経路を洗い出し、変動負荷、必要保持時間、通知、保守を一つの電源系統として設計したことにあります。
- 食品・物流の受注センター
- 医療機関・薬局のFAX受付
- 自治体・防災拠点の連絡系統
- ホテル・施設の予約受付
- 障害時に紙運用へ切り替える業務
- 複合機の定常負荷と突入電流
- FAXサーバー・通信機器の全経路
- 必要な連続運用時間
- 停電時の通知先と対応手順
- 設置場所・温度・保守条件
UPSの容量を選ぶ前に、
停電時にも残すべき業務経路を決める。
導入概要・関連記事・相談窓口
| 導入先 | オリエンタルベーカリー株式会社 |
|---|---|
| 対象業務 | 翌日の製造・出荷へつなぐ前日受注業務 |
| 製造上の前提 | 中種法による数時間の発酵・熟成工程があるため、発注締切までの受注確定が必要 |
| 保護対象 | 複合機、FAXサーバー、ネットワーク機器 |
| 従来課題 | 既設UPSでは保持時間が約10分、複合機の変動負荷・突入電流への対応が必要 |
| 導入方式 | 双方向インバーター方式の可搬型UPS+増設バッテリー |
| 運用 | 無瞬断給電、ホットスワップ、停電・イベント通知 |
| 目的 | 停電時にも前日受注を失わず、翌日の製造・出荷計画へ確実につなぐ |
FAQ / Operational Decision
複合機・FAX受注センターのUPSでよくある確認事項
複合機やレーザープリンターを一般的なUPSへ接続すると、なぜ停止することがありますか?
定着ヒーターやモーターの起動時に大きな突入電流が発生し、UPSが過負荷として保護停止する場合があるためです。本事例では、変動負荷へ追従できる双方向インバーター方式を採用しました。
既設UPSをすべて撤去した事例ですか?
重要なのは機器の置き換えそのものではなく、FAXサーバー、複合機、通信機器を含む受注経路全体を守ることです。既設構成と必要保持時間を確認し、負荷側と上流側の役割を整理して構成します。
停電時にどの程度の時間を保持できますか?
保持時間は接続負荷と増設バッテリー数で決まります。本事例では、既設UPSで約10分だった制約を見直し、ホットスワップ可能な増設バッテリーにより長時間運用できる構成としました。
なぜFAXによる前日受注を止められないのですか?
中種法では、小麦粉の一部、水、パン酵母で中種を作り、数時間の発酵・熟成工程を経てから本生地を製造します。翌日の製造・出荷計画へ反映するには受注締切までの注文確定が必要であり、FAX受信停止は単なる受付遅延ではなく失注につながるためです。
Decision / Conversion / SiteSpec V6
UPS容量ではなく、「停電時にも残すべき受注業務」から電源構成を決める
複合機の定格と突入電流、FAXサーバー、ONU・ルーター・HUB、必要保持時間、受注締切、停電時の通知・初動まで確認し、 受注業務が成立する経路を基準にUPSと増設バッテリーの構成を整理します。