ポータブル電源は「非常用家電」から「防災インフラ」へ
停電・災害対策として、ポータブル電源や 可搬型UPSが広く認知されるようになりました。 各種調査では、2023年11月のBCN調査で所有率4.7%、2024年7月にJ-CASTニュースが紹介したJackery調査で保有率8.2%、2025年1月のウェザーニュース調査で約4人に1人が所持とされています。さらにNIQ/GfK Japanによる家電量販店データでは、2024年4〜11月の販売数量が前年同期比90%増となりました。調査対象や手法は異なるものの、カテゴリー認知と普及が進んできたことが読み取れます。
市場認知・普及の参照
- 株式会社BCN(2023年11月):所有率4.7% ↗
- J-CASTニュース/Jackery調査(2024年7月):認知度76%・保有率8.2% ↗
- ウェザーニュース(2025年1月):約4人に1人が所持 ↗
- NIQ/GfK Japan(2024年12月):2024年4〜11月の販売数量は前年同期比90%増 ↗
※調査対象・調査方法が異なるため、数値を単純比較するものではありません。
防災用品として普及するほど、次に問われるのは「その電源を防災インフラとして置き続けられるか」です。 非常時に電気を取り出せても、平時の充電・保管中に火災リスクを増やしたり、リコール時に対象個体を追跡できなければ、防災資産としての信頼性は下がります。
火災事故、リコール、法制度、サプライチェーン、保管・回収まで含む実務は、 「ポータブル電源・大容量蓄電池の調達・運用・保管に関する実務Q&A」 で確認できます。この記事では、その前段となる「どの電池方式を選ぶか」に絞ります。
リチウムの強みは「軽さ」と「急速充電」
リチウムイオン電池の強みは明快です。高いエネルギー密度によって、同じ蓄電量でも小型・軽量にしやすく、急速充電も設計しやすい。 モバイル機器、ドローン、電動工具、EVのように、軽さ・小ささ・充電時間が直接価値になる用途では大きな利点です。
防災・BCPでは、この強みを自分の運用で本当に使うかを先に確認します。
- 人が頻繁に持ち運ぶため、重量削減が重要か
- 短時間で再充電し、繰り返し使う必要があるか
- 長期間、倉庫・避難所・設備室で待機させるか
- 平時から常時接続し、UPSとして使うか
- 医療・通信・避難所など、事故時の二次影響が大きい場所に置くか
急速充電が要らないなら、電池はリチウム以外が合理的
軽量性や急速充電を必要とする用途では、リチウムイオン電池を選ぶ理由があります。 一方、長期保管、常時接続、屋内備蓄を中心とする防災・BCP用途では、その利点を使わない場合があります。 その場合は、AGMなど他の電池方式も含め、事故時の挙動、保守、交換、回収まで管理しやすい方式を選ぶ方が合理的です。
高性能な電池ほど、監視と制御が前提になる
リチウムイオン電池は、過充電・過放電・過電流・内部短絡・温度上昇などを監視・制御する BMSを前提に成立する高性能な電池です。 実務では、セル電圧、温度、電流、セル間バランス、異常時遮断、診断・記録などを組み合わせます。
- セル電圧の監視
- 温度センサーによる監視
- 過電流・短絡保護
- セル間のバランス制御
- 異常時の遮断・診断・ログ
防災用途では、BMSがあることだけを安全性の答えにせず、セル、電池パック、充電器、インバーター、筐体、製造ロット、使用環境まで一つのシステムとして確認します。 可搬用途では、落下、振動、衝撃、高温保管なども現実の運用条件になります。
UN38.3と製品安全の違いは、認証・試験を調達判断へ使う際の前提として別記事で確認できます。
AGMを防災・BCP用途で選ぶ合理性
当社の可搬型UPSが採用する AGMバッテリー(VRLA/AGM)は、電解液をガラスマットに保持する密閉型鉛蓄電池です。 UPS、通信インフラ、非常用設備など、長期間待機し、必要なときに動くことが求められる分野で使われてきました。
AGMを比較候補に残す理由は、単に「燃えにくい」という一語ではありません。 防災では、異常時の挙動を予測しやすく、保守・交換・回収まで運用へ落とし込みやすいことが重要です。
- UPS・通信設備・非常用電源で長年の運用実績がある
- 長期待機・常時接続を前提とした運用を組みやすい
- 交換時期を決め、保守・交換を計画しやすい
- 回収・リサイクルを既存の運用へ組み込みやすい
もちろん、AGMも管理不要ではありません。過充電、短絡、高温を避け、充電条件、設置環境、点検、交換周期を管理する必要があります。 本稿でいう「燃えない電源」は、絶対に事故を起こさないという意味ではなく、防災設備として事故時の影響を管理しやすい方式を選ぶという設計思想です。
電池方式だけで防災電源は完成しない
BCP電源では、電池の安全性と同時に、停電時に必要な負荷へ途切れず電気を届けられるかを確認します。 PLC、サーバー、ネットワーク機器、医療ICT端末などは、短い瞬断でも停止し、復旧に長い時間を要することがあります。
双方向インバーターは、充電(AC→DC)と給電(DC→AC)を統合して制御し、平時から非常時まで同じ電源経路を使う設計を可能にします。 ただし、双方向インバーターを搭載していること自体が0ms切替を保証するわけではありません。
瞬停・瞬低で停止する負荷を守る場合は、 0ms切替・純正弦波・「止めない時間」の設計 で切替性能を確認します。
防災・BCP電源の選定チェックリスト
用途
- 急速充電は必要か
- 軽量・小型化は必要か
- 長期保管か、平時から常時接続か
- 事故時に周囲へ与える影響は大きいか
電池と安全設計
- 電池の種類と構造が明示されているか
- 温度・過電流・短絡への保護方針があるか
- 点検・交換条件が明確か
- リコール時に対象個体を追跡できるか
停電時の継続性能
- 必要な切替時間を満たすか
- 出力波形・電圧・周波数が負荷に合うか
- 突入電流を含めて負荷を支えられるか
- 必要な保持時間を確保できるか
調達後
- 事故・リコール情報を継続確認できるか
- 使用停止時の代替電源を確保できるか
- 異常品を安全に隔離できるか
- 回収・再資源化・廃棄まで決められるか
防災電源のゴールは、平時に安全に備え、停電時に必要な機器を確実に使い続け、更新・回収まで管理できることです。 そのゴールに対して、必要な電池方式と電源方式を選びます。
調達・リコール・規格を確認する
この記事で電池方式の判断軸を確認した後は、候補製品の調達、保管、事故情報、規格、回収条件を具体化します。
Procurement / Operation / Recall
調達・運用・保管を実務へ落とす
火災事故・リコール・法制度・サプライチェーンを踏まえ、安全性と持続可能性を重視した調達・運用判断を確認します。
Ownership Risk
事故増加と回収制度の変化を確認する
リチウムイオン電池事故、回収・再資源化、越境ECを含む2026年の所有リスクを確認します。
Certification
UN38.3と製品安全を分けて確認する
輸送試験と、製品全体の品質・安全性を同じ意味で扱わないための判断材料です。
Public Procurement
公共調達・重要インフラの安全要求を確認する
蓄電池調達をClass / Gradeや設置環境別要件から判断する考え方を確認します。
防災インフラは、平時から安全に使える電源でつくる
ポータブル電源が防災インフラになるほど、選定基準は「非常時に電気が出るか」だけでは足りません。 平時に安全に保管・常時接続でき、停電時に必要な負荷を継続し、点検・交換・回収まで管理できることが必要です。
リチウムイオン電池は、軽量・小型・急速充電が必要な用途で大きな価値があります。 急速充電や軽量性が要らない防災・BCP用途では、AGMなどリチウム以外の方式も含めて選ぶことが合理的です。
参考資料
候補製品の調達・保管・リコール条件を確認する
電池方式を決めた後は、実際に導入する製品について、火災・リコール情報、保管、運用、使用停止、代替、回収まで確認します。