Scope of This Article
本稿で行うのは、一回の業務停止損害の具体化です
停止条件を定める
止まる業務、停止時間、影響範囲、正常化までの条件を明示します。
損失を分解する
逸失利益、固定費の空転、復旧費用、不良、遅延などを積み上げます。
対策費と比較する
回避できる損失と、導入費・運用費を同じ案件の中で比較します。
本稿で算出するのは一回あたりの損害額です。 その金額をVoLL、年間期待損失、ROIへ変換する方法は、 「何も起こらない価値を可視化する」──VoLLという考え方で扱います。
Function / Duration / Scope / Recovery
1. 事故の種類より先に、何が何時間止まるかを確認する
「停電が起きた」「ランサムウェアに感染した」という事実だけでは、 経営上の損失を算定できません。 同じ一時間の停止でも、停止した対象が照明なのか、製造ラインなのか、 WMS、認証基盤、決済、診療機能なのかによって影響は大きく変わります。
停止した機能
生産、出荷、受注、決済、認証、顧客対応など、売上や契約履行に関係する機能を特定します。
実際の停止時間
電気やシステムが戻った時刻ではなく、業務が通常の処理能力へ戻った時刻までを確認します。
影響範囲
一つの装置、工程、拠点、取引先、地域へ、停止がどこまで波及したかを整理します。
正常化の条件
再起動だけでなく、データ整合、品質確認、滞留処理、在庫照合、顧客連絡まで含めます。
影響範囲は事故後に初めて決まるものではありません。特にサイバーインシデントでは、 接続範囲、管理者権限、保持データ、共通基盤の構成によって、一つの侵入や停止がどこまで届くかが変わります。 この上流設計は、一つ侵入されても、すべてへ届かない構造をどう作るかで扱います。
Direct Loss / Recovery Cost / Secondary Impact
2. 一回の業務停止損害を、四つに分けて積み上げる
失われた利益と処理能力
停止中に処理できなかった生産、出荷、受注、診療、決済などを、売上ではなく可能な限り粗利益や付加価値で評価します。
固定費の空転と品質損失
停止中の人件費、設備費、再立上げ、仕掛品、不良、廃棄、再加工などを計上します。
復旧対応費用
社内対応、外注、代替設備、フォレンジック、データ復旧、輸送、臨時要員など、正常化に必要な費用です。
遅延と二次的影響
納期遅延、違約金、取引先対応、顧客離れ、信用低下などです。金額化が難しい項目は、無理に一つの数字へ押し込まず別記します。
Different Causes, Common Management Questions
3. 停電とランサムウェアは、同じ事故ではない
停電は電源供給や電源品質の問題であり、 ランサムウェアは認証、端末、サーバー、データ、ネットワークなどのサイバーインシデントです。 必要な予防策と復旧手順を共通化することはできません。
一方、経営が把握すべき損失の入口には共通項があります。 どの業務が止まり、停止がどこまで広がり、正常化まで何時間または何日を要し、 その間にどの費用と機会損失が発生したかという点です。
POWER INTERRUPTION
停電・瞬低・瞬停
電源イベントが短くても、装置の再起動、工程の再同期、安全確認によって業務停止が長期化することがあります。
CYBER INCIDENT
ランサムウェア
システムを起動できても、安全確認、データ復旧、認証再構築、取引先対応によって事業復旧が長期化することがあります。
ランサムウェア等では、遮断が正しくても、その結果として業務が止まります。 防げなかった後に、何を止め、何を残し、どの順序で戻すかは、 損害額を左右する停止時間と正常化条件そのものです。
Business Interruption Loss Simulation
4. 業務停止損害額シミュレーションで、前提と結果を共有する
業務停止損害額シミュレーションは、 停止時間、事業規模、従業員数、影響率、復旧費用などを入力し、 一回の停止による損害を試算するためのものです。
主な入力項目
- 業種、売上高、従業員数
- 停止した業務と影響率
- 停止時間と発生回数
- 復旧費用、外注費、品質損失
- 遅延、違約金、サイバー対応費用
確認できること
- 一回あたりの業務停止損害
- 損失を構成する費用の内訳
- 対策前後の損害額の差
- 対策費との比較
- 関係者と共有する前提条件
※試算結果は入力条件に依存します。確定損害額や将来の損失を保証するものではありません。
Illustrative Scenario / Reproducible Calculation
5. 一時間の停止でも、損失は電気料金の問題では終わらない
製造業・物流業を想定し、次の条件で試算します。年間総実労働時間は、 この例を再計算するための仮定値として1,879時間/人・年を置きます。 業界平均として固定する値ではなく、実案件では自社の勤務実績やシミュレーターの産業区分プリセットを確認します。
年間売上高
20億円
従業員数
50名
年間総実労働時間
1,879時間/人・年
影響人数
50名(100%)
影響時間
1時間
復旧・再起動等の対応費
30万円/回
| 人時売上高(RPLH) | 2,000,000,000円 ÷(1,879時間 × 50人) ≒ 21,287.92円/人時 |
|---|---|
| 機会損失 | 21,287.92円 × 1時間 × 50人 ≒ 1,064,396円 |
| 復旧・再起動等の対応費 | 300,000円 |
| 一回あたりの試算損害 | 1,064,396円 + 300,000円 = 1,364,396円 |
当社VoLLシミュレーターでは、 人時売上高(RPLH)=年間売上高÷(年間労働時間×従業員数)、 機会損失=RPLH×停止時間×影響人数とし、復旧・違約・品質・サイバー等の費用を円/回で加算します。 本例では小数点以下を最終損害額で円単位に丸めています。
「一回の停電で投資回収」という表現は、すべての設備や事業に共通する結論ではありません。 一回の回避損失が対策費を上回る条件が存在するかを、自社の停止条件と対策効果で確認するという意味です。
From Loss Amount to VoLL
6. 算出した損害額を、比較可能な投資指標へ変える
一回の損害額が分かると、対策費との比較を始められます。 さらに、停電による損失を未供給電力量で割ってVoLLへ変換し、 発生頻度を掛けて年間期待損失を算出すると、 複数の対策案を同じ前提で比較しやすくなります。
VoLL・年間期待損失・ROI
「何も起こらない価値を可視化する」──VoLLという考え方
一回の停止損害を円/kWhまたは円/MWhへ変換し、発生頻度と対策効果を加えて投資の優先順位を整理します。
Prevention / Continuity / Recovery / Risk Transfer
7. 対策は、目的の異なる機能を組み合わせる
UPS、発電機、バックアップ、サイバー監視、保険は代替関係ではありません。 それぞれが守る時間帯と機能が異なります。
発生を防ぐ
電源品質対策、設備保全、認証、脆弱性管理、監視などにより、事故の発生確率を下げます。
停止中も機能を残す
UPS、非常用電源、代替回線、手作業への切替えなどにより、停止範囲と停止時間を縮小します。
復旧を早める
バックアップ、代替機、復旧手順、訓練、外部支援契約などによって正常化までの時間を短縮します。
残余損失を移転する
保険は金銭的な補填手段ですが、停止した業務機能をその場で復旧するものではありません。
サイバーインシデントでは、被害の拡大を止める初動そのものが停止時間と復旧費用を左右します。 疑いを認知した後の遮断、第一報、証跡保全は、初動対応の記事で扱います。
Primary Data for Verification
8. シミュレーションの精度は、一次データで決まる
売上高や従業員数だけで損失を精密に算定することはできません。 試算を継続的な投資判断へ使うには、実際の障害と復旧の記録が必要です。
- 障害が始まった時刻と原因
- 電源、通信、サーバー、設備が技術的に復旧した時刻
- 業務処理量や品質が通常水準へ戻った時刻
- 停止した工程、システム、拠点、取引先
- 復旧に投入した人員、外注、代替設備、輸送費
- 不良、廃棄、再加工、滞留、遅延、顧客対応の記録
- 電圧、電流、電力、周波数、電源品質などのログ
Decision Flow
9. 損害額から対策判断までの流れ
-
1
守る業務を定める。 停止すると契約、売上、安全、公共サービスへ影響する機能を特定します。
-
2
一回の停止損害を算定する。 停止時間と損失内訳を、検証可能な前提で積み上げます。
-
3
対策による削減幅を置く。 発生頻度、停止時間、影響範囲、復旧費用のどれを減らすのかを明示します。
-
4
VoLLと年間期待損失へ進む。 異なる対策案を比較できる尺度へ変換します。
-
5
資本配分を判断する。 回避損失だけでなく、復旧能力、信用、将来の選択肢も含めて決定します。
最後に必要なのは、損害額を大きく見せることではなく、限られた資本をどこへ置くかを決めることです。 回避損失だけでなく復旧能力、信用、将来の選択肢まで含む資本配分は、 事業継続投資をCFOはどう評価するかへ接続します。
FAQ
よくある質問
シミュレーション結果は、実際の損害額を確定するものですか?
確定するものではありません。入力した停止時間、売上高、従業員数、復旧費用などに基づく試算です。会計資料や障害記録によって前提を検証してください。
停電とランサムウェアを同じ方法で評価できますか?
原因と対策は別に扱います。ただし、停止機能、停止時間、影響範囲、復旧費用、逸失利益を整理するという損失評価の入口は共通します。
一回の停電で必ず対策費を回収できますか?
必ず回収できるわけではありません。停止条件、損失額、対策費、削減効果によって異なります。自社の条件で比較する必要があります。
1,364,396円はどのように計算していますか?
年間売上20億円、従業員50人、年間総実労働時間1,879時間/人・年、影響人数50人、停止1時間を前提に、 RPLHから機会損失1,064,396円を算出し、復旧・再起動等の対応費30万円を加算しています。年間総実労働時間はこの例の仮定値であり、実案件では自社条件へ置き換えます。
可搬型UPSはランサムウェア対策になりますか?
直接的なサイバー防御策ではありません。可搬型UPSは電源停止や瞬断に対する継続手段です。ランサムウェアにはバックアップ、認証、監視、復旧手順などが必要です。
Sources and Further Reading
参考資料
-
慧通信技術工業株式会社「VoLLシミュレーション(業務停止損害の試算:停電・ランサム等)」
RPLH、停止時間、影響人数、固定費加算による一回あたり業務停止損害の算定式。
-
慧通信技術工業株式会社「何も起こらない価値を可視化する──VoLLという考え方」
一回の停止損害を未供給電力量、発生頻度、対策効果へ接続し、VoLL・年間期待損失・ROIへ変換する方法。
-
JNSA「インシデント損害額 調査レポート」別紙「被害組織調査」
ランサムウェアを含む国内サイバー攻撃被害の損害額、対応工数、業務停止・利益喪失等を扱う調査。
- 総務省「サイバー攻撃を受けるとお金がかかる」
改訂履歴
Alternative Power / Business Continuity
電源品質に、
空白をつくらない。
停電、設備故障、浸水、法定点検、リコールなど、 既存の電源設備が使えない時間にも、 通信、医療ICT、制御、監視、受付などの 止めてはいけない機能は残ります。
代替電源は、施設全体を支えることが目的ではありません。 必要な負荷と継続時間を絞り、初動を無瞬断でつなぎ、 発電機、電源車、別系統、系統復旧など次の電源へ引き継ぐまでの 時間を確保するために使います。
停電時の切替時間
無瞬断・0秒切替
停電発生時も接続機器への給電を継続
非リチウム方式
AGM方式鉛蓄電池
長期保有と定期交換を前提とした産業用設計
TAIS登録番号
02272-000001
可搬型UPS HPPHBB0101
公的な技術評価
神戸発・優れた技術
慧通信技術工業株式会社の認定技術
※必要な容量、出力、運転時間、切替条件は、接続する機器、突入電流、 設置環境、充電方法、運用体制により異なります。 既存設備との役割分担、代替電源への切替、次の電源への引継ぎまで含めて設計します。