SCM / Factory Automation

自動化の次に来る盲点——理論値サイクルタイムを守る「制御・通信電源」の設計

自動化が進むほど差が出るのは、設備そのものではなく「稼働の安定」です。
本稿では、理論値サイクルタイム(TCT)を揺らす盲点である制御・通信レイヤーの瞬低・瞬断対策として、 回路単位でソフトランディング時間を確保する設計のポイントを整理します。

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自動化の次に来る盲点——「停止のばらつき」がTCTを揺らす

工場・物流・リサイクルを全国ネットワークで回し、ロボットや無人搬送、ソーターなどの 自動化と物流品質を武器にする企業ほど、競争力の差は「設備の有無」ではなく「稼働の安定」に現れます。

特に、理論値サイクルタイム(TCT)を基準に生産性を管理している現場では、 停止の回数や停止時間だけでなく、復旧に要する時間の“ばらつき”がKPIを大きく揺らします。
止まること自体よりも、「止まり方」と「戻り方」が不安定だと、 理論値に合わせて組んだ工程計画・物流計画が一気に崩れてしまうからです。

ある食品容器メーカーA社では、主要工場で無人搬送車や産業用ロボットを導入し、 小型箱詰めロボットの検証も進めながら、TCTを新たに算出して目標化しました。 その結果、生産性向上と、TCTに基づく継続的な改善を実現しています。
物流面でも、ソーターシステムによる出荷自動化や入出荷場所の集約により配送効率を高め、 配送計画時間に対して高い物流品質を維持しています。

この運用は、言い換えると「止まらない仕組み」が前提です。
では、その前提を崩す“単一障害点”はどこに潜んでいるのでしょうか。

盲点は装置本体ではなく「制御・通信レイヤー」

多くの現場で盲点になりがちなのが、成形機やソーターなどの自動化を実現する装置本体そのものではなく、
PLC・HMI・産業PC、ソーター制御、WMS端末、無線LAN、ネットワークラック(スイッチ/ルーター) といった「制御・通信レイヤー」です。

瞬低・瞬断・短時間停電でここが落ちると、ライン停止や搬送詰まりだけでは終わりません。
端末ログイン、通信再確立、セッション復旧、データ整合の確認が連鎖し、 現場全体の「止まり方」が悪化します。 結果として、TCTに対する実サイクルのギャップが広がり、 物流では配送タイミングの精度が崩れて回復コスト(人員増、再計画、追加便)が膨らみます。
自動化が進むほど、この影響は増幅されます。

[商用電源 / 受変電盤] ──▶ [Personal Energy® 無瞬停UPS]
                             │
                             ├──▶[制御盤(PLC/I/O電源/ロボットコントローラ)]
                             │
                             └──▶[通信ラック(産業PC・WMS端末・ネットワーク機器)]
図1:制御・通信レイヤーが単一障害点になりやすい構造(イメージ)

「既にUPSはある」——それでも復旧が毎回違う理由

「既に汎用UPSは入っている」という声も多く聞かれます。 実際、装置ベンダー推奨としてUPSが設置されているケースは少なくありません。

ここでの論点は、「UPSがあるかどうか」ではなく、「操業要件として必要なバックアップ時間を満たしているか」です。
汎用UPSは“安全に止める”ことを主目的に選定されることが多く、 負荷増やバッテリー劣化で実効時間が短くなりやすいという特性があります。

その結果、停電時に

といった二択に追い込まれ、復旧時間のばらつきと機器寿命の悪化を招きます。
現場でよく聞く「UPSは付いているのに、なぜか復旧が毎回違う」という現象は、 この構造に起因していることが少なくありません。

回路(コンセント)単位で「ソフトランディング時間」を“稼ぐ”


[回路A:20A] ──▶[長時間対応 無瞬停UPS(Personal Energy®)]──▶[ソーター制御盤+WCSサーバ]
[回路B:20A] ──▶[長時間対応 無瞬停UPS(Personal Energy®)]──▶[WMS端末+無線AP(音声ピッキング)]
[回路C:20A] ──▶[長時間対応 無瞬停UPS(Personal Energy®)]──▶[画像検査・ラベラー・計量機器]
                              │ 
          [安全停止・段階停止用の時間を“買う”]
図2:回路単位でのUPS重点配備とソフトランディング(イメージ)

そこで効いてくるのが、制御・通信レイヤーを回路(コンセント)単位で再設計するアプローチです。
現場では20Aクラスの回路が使われていることも多く、 回路容量を前提に“必要な時間”を確保できる長時間UPSを、 KPIに直結するポイントへ重点配備します。

狙いは「長時間動かし続ける」ことではありません。停電や設備異常時に、

といったソフトランディング(安全停止・段階停止)の時間を“買う”ことにあります。

余裕があるからこそ、残量を残して計画停止でき、深放電前提の運用を避けられます。
これは既設UPSの消耗抑制にもつながり、ライフタイムサイクルコスト(LCC)を押し下げる、 わかりやすい財務効果になります。

財務視点で見れば、これはBCP保険というよりも「投資回収の保全」です。
自動化・合理化投資が大きいほど、制御・通信レイヤーの電源途絶が生む “稼働率の毀損”は、投資効率を直接押し下げます。
だからこそ、全体を過剰に二重化するのではなく、 KPIに直結するポイントだけを最小冗長で守るのが合理的と言えます。

現場で本当に効くのは「止めない」より「止まり方を制御する」

瞬低・瞬停で致命傷になりやすいのは、成形・搬送・検査・印字・計量・ラベラー・ソーターといった連続工程そのものに加え、 それを支える制御・通信です。
ここが落ちた瞬間に「復旧+品質確認+段取り替え」が雪だるま式に膨らみ、 止まる時間が長くなります。
これを「落とさない/安全停止できる」に変えるのが、電源レジリエンス設計の本質です。

たとえば物流では、停電時にWCSや自動化設備がWMSの指示を受けた状態で止まると、 復旧時に「モノとデータ」を合わせる作業が必ず発生します。
ソーター停止でコンベヤ上に商品が滞留すれば、 データ状態の巻き戻しやリジェクト処理、再投入と再指示が必要になります。
さらに複数設備があるほど、復旧は“川下から”という手順設計が効いてきます。

つまり、止まった後の復旧は技術だけでなく、手順と権限と連絡体制まで巻き込むテーマです。
だからこそ、そもそも「制御・通信を落とさない/落としても段階停止できる」状態を作る価値が大きいのです。

DX・AI活用の土台は「電源」と「通信」

緻密なSCM、AIによる需要予測、全国の情報連携は、すべてデータとネットワークに依存します。
平時の効率化だけでなく、災害時の状況把握、代替生産の手配、緊急連絡網の維持も同様です。

安定した電源・通信インフラはDXの前提条件であり、 制御・通信レイヤーの瞬断対策は“地味だが効く”投資領域と言えます。

進め方はシンプル(PoCで差が出る)

  1. 工場・センターで「落ちると連鎖する」制御・通信ポイントを10〜20点リスト化する
  2. 必要なソフトランディング時間(例:15分/60分/120分)を機器ごとに決める
  3. 回路単位の長時間UPSを重点配備し、PoCで復旧時間の短縮/ばらつき低減/UPS消耗の改善(LCC)を見える化する

TCTや物流KPIで成果を出している企業ほど、次の伸びしろは 「非計画停止の“止まり方”を設計する」ことにあります。
制御・通信レイヤーの電源レジリエンスは、まだ十分に語られていないテーマです。

自動化の次の一手として、まずは現場の回路負荷の棚卸し——
「どの20A回路に何を繋いでいるか」から始めてみてはいかがでしょうか。

自動化投資のリターンを、電源トラブルで失わないために。

制御・通信レイヤーの電源レジリエンス設計(重点ポイント抽出/必要時間設計/PoC設計)について、
現場条件に合わせた検討をご支援します。

可搬型UPSを使用した対策例を見る(製品サイトへ)

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