コールドストレージ×可搬型UPSで“止める・守る・再開する”を実装

停電やサイバー攻撃が発生したとき、「データを守る最後の砦」として機能するコールドストレージ。 仕入台帳・顧客マスタ・人事情報・税務データなど、アクセス頻度の低い重要データを、速度よりも保全性とコスト効率を優先して長期保存します。

1. コールドストレージとは何か

要点: アクセス頻度が低いデータを、速度より保全性と容量単価を優先して長期保存する方式。物理媒体(LTO・長期保存光ディスク)/クラウドのアーカイブ階層(S3 Glacier / Azure Archive / Coldline)を用いる。

ネットワークから切り離すエアギャップを採用し、ランサムウェア(二重脅迫含む)や内部犯行の同時暗号化・横展開を抑止。RTO/RPOに合わせてホット/ウォーム/コールドの階層を設計します。

2. 三段防御の設計原則:隔離・検疫・バックアップ

① 隔離(Air-Gap)

対象選定 → 書込み完了後に物理/論理切断。作業直前に 可搬型UPS を接続し、不意の停電から安全停止・媒体排出を確保。媒体はAES-256等で暗号化し、鍵は別媒体・別経路で管理します。

② 検疫(Integrity)

  • 書込み直後に SHA-256 などでハッシュ計算・保存台帳へ記録
  • 格納場所・想定寿命・担当・手順・鍵の所在・検証結果を一元管理
  • 四半期〜半期にサンプル復元し、劣化/齟齬を早期発見

③ バックアップ(Redundancy)

媒体×拠点×経路の三重分散でSPOFを回避(例:テープ+クラウド+オフサイト金庫)。緊急復旧は即時性の高い経路に寄せ、コールドはアーカイブ専任とします。

3. 可搬型UPSの役割と統合設計

可搬型UPSは、対象機器の近傍に持ち運び一時給電できるのが特長。NAS/小型サーバーを UPS 駆動で起動 → ネットワーク物理遮断のまま整合性検査 → 安全停止の順で運用すれば、停電・落雷・点検時でもデータ破損を防ぎつつ段階停止・再開が可能です。

オフグリッド電源との親和性が高く、発電機・太陽光・バッテリーバンクと連携して自律分散のデータ保管環境を構築できます。特集:オフグリッド

アクティブディフェンス設計

  • 異常再起動の検知に合わせて手動/遠隔OFFで即時物理遮断
  • 読み取り専用マウントを標準運用に
  • 年次の全手順演習で「実行できる文書」へ更新

4. DXとSPOF:集中化のリスクを超えて

DXは効率化を進める一方、ERP/ID基盤/共有ストレージ/CI/CDなどが単一点へ集中しSPOFが生まれやすくなります。対策は電源・通信・保管・運用手順・人員の意図的な分散ゼロトラスト。AI異常検知で微細な逸脱を早期捕捉し、鍵はローテーション計画を前提に管理します。

5. 導入シナリオとチェックリスト

シナリオA:法定保存データ

月1回以下の参照データを抽出 → 暗号化書込み → ハッシュ記録 → エアギャップ切断 → オフサイト保管 → 半期ごとのサンプル復元。

シナリオB:機密鍵・暗号資産

暗号化済み媒体を金庫保管、鍵は別拠点。UPS給電のまま安全停止し、読み取り専用で参照。

チェックリスト

  • データ分類(頻度・期間・秘匿・RTO/RPO)
  • 切替・復旧経路の明文化と手順書
  • UPS給電時間・点検周期・交換計画
  • 媒体暗号化・鍵分離・鍵ローテーション
  • ハッシュ/保存台帳/年次リストア演習
  • 媒体×拠点×経路の複線化(SPOF回避)
ランサムから企業データを守るコールドストレージ/ウォレットとは?
構成例:可搬型UPSでエアギャップ運用を安全停止

FAQ:コールドストレージと電源対策

コールドストレージの具体例を教えてください
クラウド型(AWS S3 Glacier、Google Coldline、Azure Archiveなど)や、物理型(磁気テープ、オフラインHDD/NAS)が代表的です。 停電・瞬停対策としては無停電電源装置(UPS)や双方向インバーターを組み合わせ、 オフグリッドでの一時運用が可能です。 さらにサージ対策(雷・復電時の過渡電圧保護)とネットワーク物理遮断(エアギャップ)を併用することで、 ランサム攻撃や電源障害に対する耐性が向上します。
ホットストレージとの違いは?
ホットストレージは即時アクセスを重視し、リアルタイム業務やAI処理に適しています。 一方、コールドストレージは低コストで長期保管を目的とし、オフラインまたはオフグリッド環境で運用。 瞬停対策・無停電電源装置・双方向インバーター・サージ対策を組み合わせることで、 安全にデータを復旧・読み出しできる設計となっています。

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