白内障手術と電源品質:センチュリオンを止めないための電気インフラ設計
白内障手術の最上位機種として知られるアルコン社センチュリオン・ビジョンシステム。 術中の眼圧制御や流体バランスを維持するため、わずかな電源変動も許されません。 兵庫県の新長田眼科病院では、精密手術機器の電源を守るために 2022年6月、当社の可搬型大容量UPS「HPPHBB0101」を2台導入。 導入から3年以上、センチュリオンが一度も停止しない手術環境を実現しています。
“国内有数の眼科専門病院”がUPSを見直した理由
白内障手術は「短時間の日帰り手術」というイメージがありますが、実際には微細な流体制御と眼圧制御に支えられた高度な医療行為です。 センチュリオン・ビジョンシステムに代表される手術装置は、ポンプ、バルブ、センサー、制御コンピューターが協調して動作しており、 その心臓部である電源が乱されると、装置全体が安全側に停止するよう設計されています。
ここで問題になるのは「完全な停電」だけではありません。 数ミリ秒〜数百ミリ秒の瞬停、電圧が一時的に下がる瞬低、 雷や再投入時に発生するサージなど、いわゆる「ちょっとした電気の揺らぎ」も、 精密機器にとっては致命的なトリガーになり得ます。
2. センチュリオンと瞬停リスク:制御ループの「一瞬の途切れ」
センチュリオン・ビジョンシステムは、眼内圧の変動を高速に検知し、吸引・灌流のバランスを制御することで、 チャンバーの安定と手術の再現性を高める設計になっています。この制御ループは、連続した電源供給と内部リファレンス電圧を前提としており、 瞬停・瞬低による数十ミリ秒の乱れでも「内部リセット」「安全停止」「センサ読み値の異常」といった形で現れます。
- 雷雨時に発生した瞬停でセンチュリオンが再起動し、手術を中断せざるを得なかった。
- 病棟全体の系統切替に伴う瞬低で、センチュリオンだけがエラーを起こした。
- 復電時のサージで内部電源が保護動作に入り、一時的に装置が停止した。
多くの施設では、術者の経験と予備手順により安全は確保されていますが、 そもそも「止まるイベントを発生させない」電源設計に移行することで、 現場の心理的負担とリスクを大きく減らすことができます。
3. 手術室UPSの「バッテリー上がり」と隠れた単一障害点
多くの手術室では、センチュリオンや手術顕微鏡の前段に常時商用給電型のUPSが設置されています。 しかし、UPSのバッテリーは消耗品であり、交換や点検を怠ると 「瞬停発生時にまったくバックアップしない箱」へと変質してしまいます。
- バッテリー容量の低下で、瞬停時に数秒も持たず、装置が再起動してしまう。
- 定期的なテスト放電を行っておらず、「いざというときにバッテリーが空」であることに誰も気づいていない。
- UPS自体を単一障害点(SPOF)としてしまい、故障時に手術室全体が使えなくなる。
重要なのは、UPSを「置いたから安心」と考えないことです。 UPS自体を監視・点検の対象に含めること、 そしてUPSが動かないケースも想定して二重三重の退避手段を用意することが、 実務的なリスクマネジメントになります。
4.パーソナルエナジーが“止まらない手術室”を実現
精密医療機器を守る電源設計では、次の4つのポイントが鍵になります。
- 瞬停対策:0msに近い無瞬停切替が可能なUPSで、センチュリオン系統を保護する。
- サージ対策:雷・復電時のサージを分電盤レベルで吸収し、装置側には届かないようにする。
- クリーン電源生成:双方向インバーターでノイズの少ない正弦波電源を生成し、商用系統の乱れを遮断する。
- オフグリッド冗長化:商用電源と切り離されたバッテリー電源(オフグリッド)を「最後の砦」として用意する。
具体的には、センチュリオン・顕微鏡・関連IT機器をひとつの「クリーン電源系」に束ね、 その系統だけを双方向インバーター+バッテリーバンクで自立させる構成が考えられます。 商用電源は主にバッテリー充電に使い、瞬停やサージの影響はクリーン電源系の手前で吸収します。
さらに、可搬型UPSを組み合わせれば、病棟の改修工事や分電盤メンテナンス時にも、 白内障手術室だけを一時的に「オフグリッド化」して運用を継続する、といった柔軟な設計も可能になります。
5. 眼科クリニック・病院向け 電源安全チェックリスト
いきなり全体を入れ替える必要はありません。まずは「現状の見える化」から始めることが重要です。 次のような項目をチェックすると、リスクの所在が見えやすくなります。
- センチュリオン・顕微鏡・電子カルテが、どの分電盤・どの系統コンセントに接続されているか把握しているか。
- 手術室に設置されているUPSの台数・型番・バッテリー交換時期を、一覧表で管理できているか。
- 雷の多い地域で、分電盤レベルのサージ保護(SPD)が導入されているか。
- 停電・瞬停が発生した場合の「術中対応マニュアル」が紙または電子で整備されているか。
- 非常用電源(自家発電機・バッテリー電源)がある場合、白内障手術室がその供給範囲に含まれているか。
これらを棚卸ししたうえで、センチュリオン周辺だけを対象としたクリーン電源系の構築や、 小規模なオフグリッド電源の導入を検討すると、投資を抑えながら安全度を大きく引き上げることができます。
白内障手術が増える社会で、電源BCPは“医療品質”そのものになる
白内障は加齢に伴い発症率が上がり、80歳以上ではほぼ全員が罹患すると言われています。 そのため、国内では白内障手術件数が今後も確実に増加し、 「短時間・日帰り・高い再現性」が求められる医療行為として、設備側の安定性が以前にも増して重要になります。
この状況を踏まえると、電源の信頼性は医療のクオリティそのものと言っても過言ではありません。 手術装置の停止リスクを限りなくゼロに近づけるためには、 商用電源の揺らぎ・分電盤の系統切替・UPSバッテリーの劣化・雷サージといった “見えにくい電源リスク” を前提にした BCP(事業継続計画)が必要になります。
今後、白内障手術の増加とともに、電源品質をどこまで安定させられるかが、 手術室の安全性・効率性・術者の心理的負担に直結し、 医療現場全体の信頼性を左右する重要な設計要素となっていくでしょう。
FAQ:白内障手術と電源対策
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