概要:止められない「電気」と「通信」
熊本県の山深い南部、球磨郡五木村は人口1,000人に満たない小さな村です。 山岳地帯に囲まれ、災害時には道路の寸断や孤立が起きやすい——この地理条件そのものがリスクになります。
こうした地域で「最後の通信」を担うのが、防災行政無線の中継局です。 平時は静かでも、停電・寸断の局面で通信が止まれば、地域の安全は一気に失われます。 したがって守るべきは、電気そのものだけではなく、通信が継続して使える状態です。
本事例では、防災行政無線のデジタル化工事に合わせて、従来の電力網依存ではなく、 分散・自律・非同期を実装したオフグリッド電源「パーソナルエナジー」を採用。 太陽光を主電源とし、蓄電池へ常時充放電しながら、中継局設備と空調へ電力を供給する構成を実装しました。
前提:山間部の中継局が抱える条件
- 停電時に送電の復旧まで時間がかかる(または復旧が読めない)
- 道路寸断・降雨・落石などで、保守や搬入が困難になる
- 設備は無人運用が基本で、現地作業を前提にできない
- 「普段は静か」だが、「いざという時に止まれない」
- 人口・経済基盤が小さいほど、中央インフラ依存がリスクとして顕在化しやすい
経緯:設置完了直後に豪雨災害が起きた
本設備は2020年6月20日に現地設置が完了し、試運用が終わった矢先に、 令和2年7月豪雨(九州南部豪雨)が発生しました。 熊本県内では人的被害が発生し、球磨川流域を中心にインフラの寸断が広がりました。
五木村の防災無線局に至る保守用道路も、土砂崩れによって遮断される事態となっています。 この条件下で重要だったのは、「現地に行けない」状況でも、通信インフラが止まらないこと。 オフグリッド電源は、まさにこの“現実”の中で意味を持ちます。
構成:パーソナルエナジー(自律・分散・非同期)
このオフグリッドシステムは、単に「系統電力から切り離した」だけの設備ではありません。 自律・分散・非同期を実装したPersonal Energy® JIZAIとして、 太陽光発電の入力を起点に、蓄電池へ常時充放電制御を行いながら、 中継局内の設備および空調機器に電力を供給しています。
電気定格としては、交流出力は定格6000W(100–120VAC範囲)の連続運用に対応し、 蓄電池はオリビン酸リン酸鉄リチウムイオン(公称51.2V)、 バッテリー容量は19.2kWh(定格)/17.6kWh(実効)のレンジで、 負荷側の条件に合わせた「止めない運用」を成立させます。
公開仕様(機器構成・設計要件)
本ページは行政・公共用途の導入検討に役立つよう、公開可能な範囲で仕様を整理しています。 具体的な仕様確定は、現場条件(負荷・運用・保守・想定停電)を踏まえて個別に設計いたします。
| 用途 | 防災行政無線デジタル化中継局向けオフグリッド電源システム |
|---|---|
| Personal Energy JIZAI オフグリッド型独立電源システム | JIZAI-PV2.5-4,INV6.4,DC4.8,LIB19.6 |
| 外装 | SUS304 IP55屋外キャビネット |
| 外部交流入力 | AC85〜265V(連続)/47〜63Hz |
| 交流入力電流/電力 | 14.2/8.2A(入力)/最大入力電力 1497W |
| PV入力(DC) | 公称320VDC(入力電圧範囲:150–400VDC ±3%)/最大入力電力:10kW(合算) |
| AC出力 | 定格:6000W / 6000VA、120VAC(出力電圧範囲:100–120VAC ±3%)、50/60Hz |
| 蓄電池 | 公称電圧 51.2V/定格容量 19.2kWh(モジュール単位 1.2kWh 24Ah typ.)/実効 17.6kWh(モジュール単位 1.1kWh 22Ah) |
| 充放電(例) | 最大充電電流 100.0A/最大放電電流 130A/充電時間 おおよそ4h |
| 想定運用 | 無人運用/遠隔監視(詳細設定は非公開) |
無人運用が前提のオフグリッド設備は「止めない」ことと同時に「安全に止まる」ことが重要です。 ELB等の保護機器が複数段階で組み込まれています。
夜間や悪天候時の継続運用はバッテリーで担保します。 パーソナルエナジーは他所では10年以上の運用実績があります。
慧通信技術工業製リアルタイムOS:JIZAI搭載BMS。オフグリッドシステム全体を制御。
低照度でも発電が得やすいCIGSモジュールを採用。
防災行政無線は、県および市町村が地域防災計画に基づき、防災・応急救助・災害復旧に用いる無線局です。 近年の大規模災害を受け、画像伝送・データ伝送など多様化するニーズへの対応としてデジタル方式の導入が進んでいます。
施工:工事前から稼働確認まで
本件は、設置完了(2020年6月20日)直後に豪雨災害が発生し、 道路寸断・停電下でも運用が継続された事実によって、 「止めない」設計の価値がそのまま実証されています。
- 搬入(運搬・段取り)
- 据付(配置・固定)
- 配線(接続・防水・アース)
- 試験(絶縁・通電・計測・運用確認)
- 稼働(状態表示・記録)
導入後:得られた効果(レジリエンスと自治)
太陽光を主電源とすることで、従来必要だった電気料金が不要に。 維持費の構造が変わり、継続性が増します。
道路や送電線が寸断される状況でも、電力供給が途絶えず、防災無線局の運用が継続されています。
中央の大きな仕組みが止まると同時に停止するのではなく、 小さな単位で完結できる冗長性を積み上げる——分散型インフラの実装です。
- 中央依存の限界:便利さは、切断と同時に停止するリスクでもある
- 主語を取り戻す技術:コスト削減ではなく、地域が自分たちの安全を支える選択
- 自治力の強化:通信が途絶えないことが、安全確保と救助活動の円滑化に直結する
関連記事・相談窓口
不便益とは、不便になることではありません。便利さの中で失われた主語を回復することです。 オフグリッドは、その主語を社会インフラの中で実装する技術です。
中継局・監視設備・通信設備など、止められない負荷に対して、必要最小限で「止めない」構成をご提案します。 まずは現場条件(負荷、運用、保守、想定停電)を整理しましょう。