1. 背景:長期停電で顕在化した「バッテリー切れ」の停止
総務省資料では、災害時に防災行政無線設備が使用不可となった要因として、非常用電源装置のバッテリー切れが中心であることが示されています。 長期停電下では「非常用電源がある=安心」という前提が成立しにくく、電源の持続性と保守性が論点になります。
災害時における情報通信の確保に関する調査 -市町村防災行政無線を中心として-(総務省):
https://www.soumu.go.jp/main_content/000721641.pdf2. 争点:親局が稼働しても住民に届かない「中継局リスク」
防災行政無線は、親局(統制局)が稼働していれば一律に伝達できる仕組みではありません。 中継局・子局が点在し、中継が途切れれば住民への伝達が断たれます。 したがって、設計・更新・予算の中心は、親局ではなく末端・中継の継続性へ移す必要があります。
参考(消防庁):災害情報伝達手段の耐災害性(停電耐性・復旧速度等)
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-95/03/shiryou3-4.pdf3. 山間部の前提:停電より先に「アクセス不能」が起きます
山間部・孤立可能性地域では、道路寸断、豪雨、落石、積雪等により、保守員や燃料を搬入できない状況が発生し得ます。 その前提に立てば、「発電機を持っていく」「燃料を補給する」モデルは、そもそも成立しない場合があります。
したがって中継局は、止まったら直すのではなく、止まらない前提で設計する必要があります。
4. 提言:中継局の電源自律化を“標準モデル”へ
本稿が提言する解は、中継局を電源自律化し、長期停電・アクセス不能下でも通信を維持する設計です。 方式は一つに限定せず、LPガス発電+燃料貯蔵、燃料電池、蓄電池主体の長時間バックアップ、太陽光併用等を 地域条件に応じて選定します。
不便益(工学的定義)
系統依存を切ることは、平時の運用においては「便利」ではありません。 しかし非常時には、系統が断たれても自律運転し、通信を“つなぎ続ける”ことができます。 災害対応では、この構造が要件になります。
方式を限定しない(政策上の合理性)
自治体の地理条件、アクセス条件、燃料調達、保守体制は地域ごとに異なります。 方式を一つに限定せず、「電源自律化」という要件を標準化したうえで、方式は選定可能とする方が合意形成が進みます。
実装例(現地連続運用):熊本県五木村
当社導入事例として、五木村の中継局における電源自律化の実装(停電・道路寸断を前提とした設計)をご参照ください。 「実装→運用」の事実が、制度設計における説得力の核になります。
停電・道路寸断でも通信を止めない:防災行政無線中継局のオフグリッド実装【五木村】
https://www.ieee802.co.jp/cases/case-003-ituki.php5. 制度設計(予算化・標準化)へ:要件化の論点
本提言を制度設計に接続するため、論点は次の3つに整理できます。いずれも、更新・強靱化事業の枠組みに落とし込みやすい単位です。
- 対象地域の定義:山間部・孤立可能性地域(アクセス不能が先行し得る地域)を明確化します。
- 中継局の電源自律化を要件化:方式は地域条件で選定しつつ、要件として標準化します。
- 評価軸を運用費まで拡張:燃料・出動・復旧・復旧遅延の社会コストまで含めて評価します。
一次ソース(引用・参照)
- 総務省(PDF): https://www.soumu.go.jp/main_content/000721641.pdf
- 総務省消防庁(PDF): https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-95/03/shiryou3-4.pdf
- 当社導入事例(五木村): https://www.ieee802.co.jp/cases/case-003-ituki.php
※本稿は実務設計の観点から論点を整理したものであり、制度適用・要件化の最終判断は、各所管・各自治体の方針に従ってください。
よくある質問(FAQ)
行政の稟議・要件整理で詰まりやすい点を、整理しました。
なぜ『親局が稼働していても住民に届かない』のですか?
『バッテリー切れ』が中心課題だと言える根拠はありますか?
『電源自律化』とは具体的に何を指しますか?
発電機や燃料備蓄では代替できませんか?
不便益とは何ですか?
制度設計(予算化・標準化)では、どこを要件化すべきですか?
まとめ:山間部の標準は「止まったら直す」から「止まらない」へ
- 長期停電では、非常用電源があってもバッテリー切れで停止し得ます。
- 親局が稼働しても、中継局・子局が止まれば住民に届きません(中継局リスク)。
- 山間部・孤立可能性地域では、燃料・人の搬入ができない前提を置く必要があります。
- 中継局の電源自律化(方式は選定可能)を不便益として制度化・標準化することが合理的です。