はじめに

電気代が上がる理由を、燃料価格やJEPXだけで説明することはできなくなっています。 現在の電気料金には、発電・調達・送配電・制度維持・過去負担まで、複数の費用が積み上がっています。

いわば、今の電気料金は地下1階・地上4階建ての構造です。 1階には基本料金・電力量料金、2階には燃料費調整額、3階には容量市場拠出金、4階には再エネ賦課金があります。 さらに地下には、託送料金に含まれる廃炉・賠償負担金のような、過去の負担も存在します。

問題は、これらの多くが契約先を変えるだけでは消えないことです。

1. 電気料金は、地下1階・地上4階建てになった

これまで電気代は、単価に使用量を掛けたものとして理解されがちでした。 しかし実際には、複数の費目が階層的に積み上がっています。

階層 項目 性格 経営への影響
4階 再エネ賦課金 政策的な制度負担 全需要家に広く上乗せされ、2026年度は4.18円/kWh
3階 容量市場拠出金 将来の供給力を維持する費用 小売電気事業者等を通じて料金へ反映される
2階 燃料費調整額 国際燃料価格・為替リスク 燃料価格の上昇が数カ月遅れで料金へ波及する
1階 基本料金・電力量料金 契約電力・使用量・市場調達のベースコスト デマンドピークやJEPX価格の影響を受ける
地下1階 廃炉・賠償負担金 託送料金に含まれる過去負担 契約先を変えても避けにくい底流コスト

この構造を見ると、電気代が下がりにくい理由が分かります。 価格が上がっているのは1階だけではありません。 制度負担、調整額、インフラ維持費、過去負担まで、複数の階でコストが増えています。

2. 1階:基本料金・電力量料金は、JEPXとデマンドピークの影響を受ける

1階にあるのは、最も分かりやすい基本料金と電力量料金です。 しかし、この部分も単純な使用量だけでは決まりません。

基本料金は、契約電力や最大需要電力、つまりデマンドピークの影響を受けます。 一度のピークが、その後の固定費を押し上げることがあります。 また、電力量料金は、市場価格や調達構造の変化を受けます。

JEPX価格が高騰すれば、市場連動型は直接影響を受けます。 固定単価であっても、市場価格調整額、電源調達調整費、契約更新時の単価見直しとして、後から反映される可能性があります。

つまり、1階のコストを守るには、単価交渉だけでなく、デマンドピークを下げる必要があります。

3. 2階:燃料費調整額は、国際リスクが流れ込む階である

2階にあるのが、燃料費調整額です。 日本の電力は、LNG、石炭、石油などの輸入燃料の影響を受けます。 燃料価格や為替が変動すれば、その影響は数カ月遅れて電気料金に反映されます。

これは、需要家が直接コントロールしにくい外部リスクです。 契約先を変えても、燃料価格や為替の影響そのものを消すことはできません。

だからこそ、燃料費が上がったときに高い時間帯へ無防備に電力を使わないことが重要になります。 使用時間を均し、価格が高い時間帯への集中を避けることが、現実的なヘッジになります。

4. 3階:容量市場拠出金は、将来の供給力を維持する会費である

3階にあるのが、容量市場拠出金です。 これは、将来の供給力を確保するための費用です。 電気そのものではなく、将来も電気を使える状態を維持するためのインフラ会費に近い性格を持ちます。

容量市場は2024年度から実需給期間に入り、小売電気事業者等に容量拠出金が請求される仕組みが本格化しています。 この費用は、小売電気事業者を通じて、最終的には需要家の料金へ反映されます。

容量拠出金は、小売電気事業者等の需要実績や契約電力などを踏まえて算定されます。 そのため、ピーク時に大きな需要を作る使い方は、供給力確保の負担を大きくする方向に働きます。

ここでも鍵になるのは、ピークを作らないことです。

参考:電力広域的運営推進機関「容量市場 2024年4月分の容量拠出金算定諸元の公表について」
https://www.occto.or.jp/news/market-board_market_oshirase_2024_240620_youryoukyosyutukin_kouhyou.html

5. 4階:再エネ賦課金は、2026年度に4.18円/kWhへ上がる

4階にあるのが、再エネ賦課金です。 再エネ賦課金は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度などを支えるため、電気の使用量に応じて広く負担される費用です。

経済産業省は、2026年度の再エネ賦課金単価を1kWhあたり4.18円と公表しています。 適用期間は2026年5月検針分から2027年4月検針分までです。

4.18円/kWhという単価は、使用量が大きい企業にとって無視できない水準です。 しかも、これは市場連動型か固定単価かにかかわらず、基本的に電気を使えば発生する制度コストです。

再エネ賦課金は、契約交渉だけでは消えません。だからこそ、使用量とピークの両方を管理する必要があります。

参考:経済産業省「FIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します」
https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260319004/20260319004.html

6. 地下1階:廃炉・賠償負担金は、託送料金に含まれる底流コストである

電気料金には、見えにくい底流コストもあります。 その一つが、託送料金に含まれる賠償負担金や廃炉円滑化負担金です。

賠償負担金は、福島第一原子力発電所事故以前から備えておくべきであった原子力損害の賠償費用を、長期にわたり回収するためのものです。 廃炉円滑化負担金は、原子力発電所の廃炉に伴う費用を分割計上する性格を持ちます。

これらは需要家が個別に交渉して消せるものではありません。 契約先を変えても、託送料金を通じて電気料金の底流に残る費用です。

だからこそ、制御不能な負担が増えるほど、経営は制御可能なデマンドと使用時間に集中する必要があります。

参考:資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/pricing/

7. 経営が制御できるのは、ピークと使用時間である

地下1階・地上4階建てのコスト構造を見ると、経営として制御できる領域と、制御できない領域が明確になります。

  • 再エネ賦課金、廃炉・賠償負担金のような制度コストは、個社では避けにくい
  • 燃料費調整額は、国際燃料価格や為替の影響を受ける
  • JEPX価格は、市場構造や需給、入札行動に左右される
  • しかし、デマンドピークと使用時間は、自社の運用で変えられる

外部コストを止めることはできません。 しかし、高い時間帯にどの設備を動かすか、どの工程をずらすか、どのピークを削るかは、自社で決めることができます。

電気料金の多層化に対する経営の答えは、契約先探しではなく、ピークと時間の制御です。

8. ロードファクター防衛策へつなげる

電気料金が地下1階・地上4階建てになった今、成り行きで電気を使うことは、複数の階層でコストを膨らませることを意味します。 一方で、デマンドピークを下げ、使用時間を均し、ロードファクターを改善すれば、基本料金、調達単価、契約更新時の評価に対して防衛線を張ることができます。

詳しくは、前回の記事 電力高騰をヘッジする、損しないためのロードファクター防衛策 で整理しています。

重要なのは、電力会社を責めることではありません。 電力会社から見て供給しやすい需要家になることです。 そのためには、電気の使い方を測り、ピークを特定し、負荷を均す必要があります。

まとめ:4階建てコストを前に、立ち尽くすか、制御するか

電気代は、単価と使用量だけで決まる時代ではありません。 JEPX、燃料費調整、容量市場、再エネ賦課金、廃炉・賠償負担金が重なり、地下1階・地上4階建ての多層コストになっています。

このうち、多くは個社では止められない外部要因です。 しかし、デマンドピークと使用時間は変えられます。 高い時間帯を避け、負荷を均し、ロードファクターを改善することは、電気料金の多層化に対する現実的な防衛策です。

廃炉・賠償負担金のような費用があるということは、燃料価格が一時的に下がっても、電気料金にはゼロにならない固定的な底流コストが残るということです。 これは政策的・制度的に組み込まれた負担であり、契約先を変えるだけでは逃げられません。

だからこそ、経営は制御できない費用に反応するだけでなく、制御できる部分で勝つ必要があります。 地下1階の過去負担や、4階の賦課金のような政策コストが増え続けるほど、デマンドピークとロードファクターの改善が利益を守るための実務になります。

御社の電気代は、今や地下1階・地上4階建ての巨大なコストの塊です。 市場の言い値でこのビルを維持し続けるのか。 それとも、1階から3階の建物のサイズ、つまりデマンドピークを縮小し、住む時間帯、つまりロードファクターを最適化するのか。 その判断が、今求められています。

Smart Meterで電力の使われ方を測り、デマンドとロードファクターを磨き上げること。 それが、制御不能な制度コストの時代に、経営が自律性を取り戻すための出発点です。

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