Ⅰ.本稿の立場と前提条件

「マイクログリッド」や「スマートグリッド」という言葉は、すでに広く認知されています。
しかし、それぞれがどのような制御構造を持つシステムなのかについては、 必ずしも十分に理解されているとは言えません。

本稿では、「次世代」と呼ばれるエネルギーシステムを、

システム工学的に見て、「安定し、拡張可能で、実装と運用が合理的」 かどうか
という点に絞り、マイクログリッド/スマートグリッド/オフグリッドを評価します。

Ⅱ.エネルギーシステムを評価するための軸

エネルギーシステムを工学的に評価する際、重要になるのは次の点です。

  1. 制御点はどこに存在するか
  2. 同期を前提としているか
  3. 外部依存変数はいくつあるか
  4. 障害発生時の影響は局所か全体か
  5. 人的介入はどの程度必要か

エネルギーの「量」や「価格」は結果です。
それを決めているのは制御構造です。

したがって、本稿ではマイクログリッド/スマートグリッド/オフグリッドを、
制御構造の違いとして整理し直すことを目的とします。

Ⅲ.マイクログリッドの構造的特徴

マイクログリッドとは、一定のエリア内に存在する発電設備・蓄電設備・需要設備をまとめ、
局所的な電力網として運用する仕組みです。

一般的な構成は次のようになります。

  • 平常時は既存の電力系統と連系して運用する
  • 必要に応じて系統から切り離される
  • アイランドモード(自律運転)に移行する

ここで重要なのは、マイクログリッドが「平常」と「非常」を切り替える設計思想を前提としている点です。
平常時は中央系に同期し、非常時のみ例外的に独立する。
制度設計としてはわかりやすく、受け入れられやすい構造と言えます。

しかし、制御構造として見ると、この前提はいくつかの矛盾を抱えています。
次節では、その矛盾点を整理します。

Ⅳ.マイクログリッドが抱える構造的矛盾

1.同期前提の問題

マイクログリッドが系統と同期している限り、
周波数・電圧・需給バランスの最終的な制御点は、外部の中央系に残り続けます

アイランド化はあくまで例外処理であり、日常運用における主制御ではありません。
これは言い換えると、 「自律運転が可能であること」と「自律的に設計されていること」は別の概念であるということです。

2.スケールと複雑性の問題

マイクログリッドは、エリアを拡張すればするほど、

  • 制御対象が増え
  • 相互依存関係が増大し
  • 最適制御が複雑化します

その結果として、より高度な中央制御が必要となり、
構造は再び集中化へと回帰していきます。
これは分散システムにおける典型的なトレードオフであり、
「分散しているようで、実際には中央制御への依存度が増す」という矛盾を生みます。

3.境界条件の非技術性

マイクログリッドの境界は、多くの場合、

  • 行政区分
  • 事業主体
  • 補助制度

といった政治・経済的な単位に基づいて設定されます。
これは必ずしも技術的な最適性に基づく境界ではありません。

その結果、システムとしては構造的な歪みが生じます。
「制御すべき単位」と「制度上区切られている単位」が一致しないためです。

Ⅴ.スマートグリッド/スマートメーターの語彙的問題

スマートグリッドやスマートメーターという言葉は、本来、
制御理論・情報理論に基づく技術概念です。

しかし現実には、

  • スマートグリッド = 次世代インフラ
  • スマートメーター = 高度な管理装置

といった、抽象度の高いイメージワードとして流通してしまっています。

スマートメーターは本来、

  • 計測
  • 通信
  • 制御

を担う制御系のエージェントであるべきです。
ところが現実には、その多くが「課金計量装置」としてのみ運用されているのが実態です。

これは技術が足りないからではありません。
語彙の意味が拡張されたのではなく、希薄化された結果です。
こうした語彙の希薄化が、構造の議論をますます困難にしています。

Ⅵ.「全体誤解」が生む市場の歪み

制御構造の議論が十分に共有されないまま、

  • 機器
  • 制度
  • 補助金

が先行すると、実装は部分最適に流れやすくなります。

その結果、次のような状態が生まれます。

  1. 個別要素は高度化している
  2. 全体としての制御は単純化されない
  3. 障害時の挙動が不透明になる

これは特定の企業や主体の問題ではありません。
設計思想が共有されないまま市場形成だけが進んだ結果として起きている現象です。

Ⅵ’.観測と実装に基づく検証

ここまで述べてきた構造的な問題は、後付けの理論ではありません。
当社は2010年の時点でスマートメーターを自社開発し、市場に流通させたうえで、
全国規模での実測データを取得してきました。

その過程で、次のような点を理論ではなく実データとして確認しています。

  • 需要の時間的な偏在
  • 価格シグナルに対する応答の限界
  • 中央制御による需給調整の構造的な制約

その結果として、 スマートメーターやスマートグリッドは制御要素としては有効だが、主体電源を持たない限り、制御は常に外部依存になるという結論に至りました。

この観測結果を踏まえ、当社は2011年より、
自律・分散・非同期で動作するオフグリッドシステムの開発・製造・販売を開始しています。

重要なのは、このオフグリッドシステムが単なる非常用設備ではなく、
継続運用され、その運用データ自体が再び設計にフィードバックされ続けているという点です。
観測 → 検証 → 実装 → 運用 → 再設計という工学的プロセスを経て、
オフグリッドという構造が、結果として最適解に収束してきたと考えています。

Ⅶ.オフグリッドの位置づけ――自律・分散・非同期という条件

ここで、あらためて本稿におけるオフグリッドを定義します。

オフグリッドとは、外部同期や中央制御を前提とせず、制御をシステム内部に内在化した、自律分散エネルギーシステムである。

オフグリッドの特徴は、次のように整理できます。

  • 制御点が明確で、局所的であること
  • 他の系との同期を前提としないこと
  • 障害は局所で完結し、全体へ波及しにくいこと
  • 拡張がほぼ線形に行えること
  • 運用が単純で、人的介入の要件が明確であること

これは理念ではなく、システムとして安定するための条件を満たしているという事実です。
つまりオフグリッドは、「こうあってほしい」という願望ではなく、
制御構造として見たときに自然と残っていく構造だと言えます。

Ⅷ.結論――オフグリッドは代替案ではなく、自然に残る構造

オフグリッドは、マイクログリッドやスマートグリッドの「代替案」ではありません。
また、それらが成立するための下位概念でもありません。

エネルギーシステムを制御構造として評価したとき、
外部依存を最小化し、自律・分散・非同期で完結する構造が、
最も安定し、拡張しやすく、運用も合理的であるという結論に自然と到達します。

その条件を満たす構造として、最後まで残るのがオフグリッドです。
言い換えれば、オフグリッドは「思想として選ばれる」のではなく、「最適解として残る」構造なのだと、私たちは考えています。

次回予告:設計原理から具体的な構成へ

次回は、本稿で整理した設計原理を、どのような構成要素と制御方式で実装してきたのか。
当社のオフグリッド専用機「パーソナルエナジー」の技術構成を、具体例を交えながら解説します。