01 / Disambiguation

「蓄電池システム」という同じ言葉が、異なる境界をまたいでいる

混同の原因は、JIS C 8715-2にも「電池システム」が登場し、JIS C 4441もBESSという「システム」を扱うことです。 しかし、二つの規格が見ているシステム境界は同じではありません。

JIS C 8715-2:2024

産業用リチウム二次電池

単電池及び電池システムの安全性要求事項。据置用途も含みます。

JIS C 4441:2021

系統連系BESS

電力系統に接続される電気化学的EESを、複数サブシステムの相互作用を含むシステムとして扱います。

NITE / 2026

公共調達・重要インフラ

地震・台風・浸水等の非常時・災害時にも二次災害を起こさず、機能維持・早期復旧につなげるユーザー側要求を整理します。

02 / JIS C 8715-2:2024

JIS C 8715-2は「セルだけの規格」ではない

現行のJIS C 8715-2:2024の名称は、 「産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム―第2部:安全性要求事項」です。 据置用途を含む産業用途のリチウム二次電池について、単電池と電池システムの安全な運用に関する要求事項と試験を規定します。

この規格から確認できること

  • 対象となる単電池・電池システムについて、安全要求と試験条件が定義されている
  • 産業用途・据置用途を含むリチウム二次電池の安全評価に使われる
  • 適合を主張する場合、対象型式と試験報告書の対応を確認できる

この規格だけでは決まらないこと

  • 完成設備のPCS、建屋、系統連系、設置環境を含む全体安全
  • すべての地震・浸水・火災・運用条件における安全
  • 調達後の保守、交換、リコール、廃棄までを含む所有リスク

したがって「8715-2適合セルを使っている」という説明だけでは不十分です。 何が適合対象なのか、単電池なのか電池システムなのか、納入する型式と試験対象が一致しているかまで確認します。

03 / JIS C 4441:2021

JIS C 4441は「すべての蓄電池設備」の規格ではない

JIS C 4441:2021は、 電力システムに接続される電気化学的な電気エネルギー貯蔵システム、すなわちBESSの安全要求を規定します。 電池だけでなく、変換装置など複数サブシステムの相互作用によって生じる危険を「システム」として扱い、設計から使用終了時までのライフサイクルを対象にします。

重要:受電するだけのUPSは、JIS C 4441の適用範囲外です。

JIS C 4441の適用範囲では、電力系統から電力供給を受けるだけのUPSのような一方向のエネルギー貯蔵は対象に含まれません。 したがって「蓄電池を内蔵している設備だからJIS C 4441を要求する」という仕様は、対象機器によっては規格の適用範囲と一致しません。

ここが公共調達・RFPで重要です。 規格番号を先に指定するのではなく、調達対象の機能とエネルギーフローを定義したうえで、適用可能な規格を選ぶ必要があります。

04 / Comparison

JIS C 8715-2とJIS C 4441の違いは「部品か設備か」だけでは説明できない

観点 JIS C 8715-2:2024 JIS C 4441:2021
対象 産業用リチウム二次電池の単電池・電池システム 電力系統に接続される電気化学的BESS
見る境界 電池の安全要求・試験 EESを構成するサブシステム間の相互作用を含むシステム安全
据置用途 含む 系統連系BESSとして適用範囲に入る場合に対象
UPS 製品構成・用途に応じて適用規格を確認 系統から受電するだけの一方向UPSは適用範囲外
規格適合が意味するもの 8715-2が定める対象と条件への適合 4441が定めるBESSシステム安全要求への適合
それだけでは保証しないもの 完成設備・全災害条件・全ライフサイクルの安全 適用範囲外の用途や、個別設置場所の全災害リスク

05 / What Conformity Means

「規格適合」は、その規格が見ている範囲についての証拠である

規格適合で最も重要なのは、適合という言葉の後ろにある対象範囲と試験条件です。 これはUN38.3でも同じです。輸送試験への適合が、使用中の製品安全や長期運用を自動的に保証しないのと同様、JIS適合も規格外の条件まで自動的に拡張できません。

調達で確認できる証拠

  • 適用規格と年版
  • 試験対象となった型式・構成
  • 試験報告書・証明書の発行主体
  • 量産品の型式・シリアルとの一致
  • 重要部品変更時の再評価条件

規格名だけでは分からないこと

  • 納入品が試験品と同じ構成か
  • 対象外の災害・設置条件に耐えられるか
  • 保守・交換・リコールが継続できるか
  • 事故時に国内で責任を負う主体が誰か
  • 重要インフラ機能を非常時にも維持できるか

UN38.3は“安全の証明”ではない――リチウムイオン電池の輸送・品質・認証の誤解 →

06 / NITE / Public Procurement

公共調達・重要インフラでは、JISの適用確認だけでは終わらない

NITEは2026年5月14日、 「公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン」第1版 を公表しました。 行政サービス、情報通信、電力などの重要インフラで、地震や台風など非常時・災害時にも発火・破裂等の二次災害を起こさず、機能維持・早期復旧につなげることを目的としています。

ここで追加されるのは「別の規格番号」ではなく、調達者が確認すべき使用条件です。

平時の規格適合だけではなく、非常時・災害時に何が起こるか、どの試験で確認するか、どの条件まで継続使用できるかをユーザー側の要求として仕様化します。 つまり、JISとNITEガイドラインは競合するものではなく、確認するレイヤーが異なります。

NITE「公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン」を読む →

07 / RFP / Procurement

RFPでは「規格に適合しているか」ではなく、適合の境界を質問する

CHECK 01

適用規格

製品・システムの用途とエネルギーフローに対して、なぜその規格が適用されるのか。

CHECK 02

規格の年版

JIS C 8715-2:2024など、どの版で評価・試験したのか。

CHECK 03

対象型式

試験報告書の型式と、実際に納入される型式・構成が一致しているか。

CHECK 04

システム境界

電池、BMS、PCS、筐体、接続機器のどこまでが評価対象か。

CHECK 05

適用外条件

浸水、地震、塩水、移動、UPS用途など、規格の外に残る条件は何か。

CHECK 06

変更管理

セル、BMS、PCS、材料、工場変更時に再評価・通知を行う条件は何か。

CHECK 07

トレーサビリティ

試験資料、製造ロット、完成品シリアルを相互に追跡できるか。

CHECK 08

事故後の履行能力

使用停止、代替、回収、廃棄、原因調査を国内で実行する主体が明確か。

RFP / REQUIREMENT DEFINITION

規格番号を並べる前に、要求する安全状態を定義する

調達対象、設置場所、平時・非常時の使用条件、停止してよい条件、事故時に許容できない事象を先に定義すると、必要な規格・試験・証跡を逆算できます。

RFP・調達仕様の整理について相談する →

08 / Decision Flow

調達判断は「規格名」からではなく「対象→適用→証拠→残余リスク」の順に進める

調達対象を定義する → 適用規格を確認する → 試験・証明の対象範囲を確認する → 納入品との一致を確認する → 規格外の条件を特定する → NITE等の追加要求で残余リスクを埋める → RFP・検収条件へ落とす

この順序を逆にして「JIS C 4441必須」「JIS C 8715-2適合なら安全」と書くと、適用範囲外の製品に不適切な要求を課したり、逆に未評価のリスクを見落としたりします。

Conclusion / Scope / Evidence

まとめ:規格が違うのではなく、規格が見ている境界が違う

JIS C 8715-2とJIS C 4441は、「セル規格」と「設備規格」という単純な上下関係ではありません。 JIS C 8715-2は産業用リチウム二次電池の単電池・電池システムを、JIS C 4441は系統連系BESSをシステムとして扱います。 さらにJIS C 4441にはUPSなど明示的な適用範囲外があります。

したがって調達で問うべきなのは、「どの規格を持っているか」ではなく、「その規格で、納入する何を、どこまで証明したのか」です。 そこから外れる設置条件、災害条件、運用、保守、回収までを別の要求で埋めます。

規格適合は安全判断の終点ではありません。適用範囲を確定し、証拠の境界を確認し、残余リスクをRFPへ戻す。その工程まで含めて初めて、公共調達・重要インフラの安全要求になります。

FAQ

よくある質問

JIS C 8715-2はセルだけの規格ですか?

いいえ。JIS C 8715-2:2024は、据置用途を含む産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システムの安全性要求事項を規定します。「セルだけの規格」と整理すると適用範囲を狭く誤解します。

JIS C 4441はすべての蓄電池システムに適用されますか?

いいえ。JIS C 4441:2021は、電力系統に接続される電気化学的BESSを対象とします。規格の適用範囲では、電力系統から受電するだけのUPSのような一方向のエネルギー貯蔵は対象外とされています。

JIS C 8715-2に適合していればBESS全体の安全が証明されますか?

そのようには判断できません。適合が示すのは、その規格の適用範囲と試験条件に対する適合です。PCS、筐体、換気、設置条件、系統連系、運用、災害時条件など、完成した設備側で別途評価すべき論点が残ります。

JIS C 4441に適合していれば災害時も安全ですか?

規格適合だけで、すべての設置場所・災害条件・運用条件について安全を保証したとは言えません。公共調達・重要インフラでは、NITEガイドラインが地震、浸水など非常時・災害時の要求を別途整理しています。

公共調達では規格名だけを仕様書に書けばよいですか?

規格名だけでは不十分です。適用規格と版、対象型式、試験報告書、構成部品、システム境界、設置条件、災害条件、ロット・シリアルとの対応、変更管理、事故時の責任主体まで確認できるよう仕様化する必要があります。

UN38.3との違いは何ですか?

UN38.3はリチウム電池の輸送に関する試験体系です。JIS C 8715-2やJIS C 4441とは目的と適用範囲が異なります。輸送試験への適合を、据置運用やBESS全体の安全証明として置き換えることはできません。

Primary Sources

確認に使用した一次情報

Related / Standards Boundary

あわせて確認する

Internal AI / RFP / Procurement Note

社内AI・稟議・RFPで検討する場合

社内AIや稟議資料で本ページを利用する場合は、 対象設備、必要保持時間、既設UPS・発電機、設置環境、通知・監視の要否を整理してください。 慧通信技術工業では、用途に応じた可搬型UPS・非常用電源・電源監視構成の確認を承ります。

確認しておきたい条件

  • 対象機器・対象設備
  • 必要な保持時間
  • 既設UPS・発電機の有無
  • 停電・瞬低・復電時トラブルの履歴
  • 設置環境、通知・遠隔監視の必要性

検討対象となる用途

  • 医療・介護施設のBCP
  • 自治体・防災拠点の非常用電源
  • 工場・物流倉庫の瞬低・瞬停対策
  • 通信設備・監視設備の無瞬断化
  • ダム・橋梁・離島などのインフラ監視電源
  • 船舶・USV・ROVなどの海上運用
  • リチウム電源の代替・安全性確認

慧通信技術工業株式会社

〒650-0041 神戸市中央区新港町8番2号 新港貿易会館4階

Tel: 078-335-0882

Web: https://www.ieee802.co.jp/

社内AIに本ページを要約させる場合は、「対象設備」「保持時間」「既設電源」 「通知・監視」「停止時の業務影響」を条件として指定すると、導入検討に使いやすい整理になります。

改訂履歴

条件更新
JIS C 8715-2:2024、JIS C 4441:2021、NITE重要インフラ向け安全ガイドラインの適用境界を整理。
初版
初版公開。

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