補助金で立ち上がった定置型蓄電池市場
東日本大震災後、国は定置型リチウムイオン蓄電池の導入を政策的に後押ししました。SIIの平成23年度「定置用リチウムイオン蓄電池導入促進対策事業費補助金」は、2012年3月から実施され、家庭用だけでなく法人・大型カスタム蓄電システムを含む市場形成を後押ししました。
2013年には伊藤忠商事が、スーパー、コンビニ、オフィスビル、工場、マンション、公民館、学校などを対象に、停電時バックアップとピークカットによる電気料金低減を訴求した産業用リチウムイオン蓄電システムを販売しています。
入口には、政策的な支援があった
東日本大震災後の防災需要に、補助金、ピークカット、太陽光発電が重なり、定置型蓄電池は「高価だが補助を受けて導入できる設備」として普及しました。導入時の入口は、制度と販売網によって整備されていました。
2016〜2019年:ZEHと卒FITで市場の意味が変わる
この市場は、同じ補助制度のまま成長し続けたわけではありません。経済産業省の調査では、2015年度から2016年度にかけて定置用蓄電システムの出荷が減少した要因として、2015年度で「定置用リチウムイオン蓄電池導入支援事業費補助金」が終了したことが挙げられています。蓄電池単体への補助が終了し、政策支援の軸はZEHなど住宅全体の省エネルギーへ移りました。
2016年度のZEH普及加速事業では、ZEH住宅に蓄電システムを導入する場合、蓄電容量1kWh当たり5万円、上限50万円などの追加補助が設定されました。蓄電池は「単体のピークカット設備」から、太陽光発電・高断熱・高効率設備と組み合わせて住宅全体のエネルギー収支を改善する設備へ位置付けが変わっていきます。
さらに2019年、2009年に始まった住宅用太陽光の固定価格買取期間が順次満了し、いわゆる「卒FIT」が始まりました。資源エネルギー庁は、買取期間満了後の選択肢として、家庭用蓄電池を導入して太陽光発電の自家消費を増やす方法を提示しています。
「売る電気」から「使う電気」へ
初期の停電対策・ピークカット需要から、ZEH、卒FIT、自家消費へ。市場全体はその後再拡大しましたが、需要の理由、補助対象、販売チャネル、選ばれる容量・価格帯は変わりました。つまり市場は消滅したのではなく、旧来の補助金依存型市場が一度縮小し、別の市場へ組み替わったと見る方が実態に近いものです。
「エコでありBCPでもある」設備として売られた
2017年に発売されたSmart Star Lも、9.8kWhの大容量、停電時の自立運転、200V機器への対応、太陽光発電との連携を特徴として販売されました。
利用者から見れば、太陽光で発電した電気をためて自家消費できる。電気料金を抑えられる。停電時には非常用電源として使える。「環境に良い」「経済性がある」「BCPにもなる」という三つの価値が一つのハードウェアに重なりました。
補助制度もこの普及を支えました。一方で、導入時に比較されるのは容量、出力、価格、補助金、保証年数、停電時の使用時間です。10年後に誰が設備を外すのか、建物をどう元へ戻すのか、電池をどの状態にして誰へ渡すのか、最終処理までいくらかかるのかは、導入時の比較表にはほとんど現れません。
補助金で立ち上がった市場から、初期メーカーが退出する
補助金は永続する制度ではありません。実際、蓄電池単体への補助が終了した2016年度には出荷が一度減少し、その後はZEHや卒FIT、自家消費、レジリエンスを軸に市場が再編されました。
この変化は「蓄電池市場がなくなった」という意味ではありません。しかし、初期の補助金市場を前提に製品・販売網・価格を組み立てていた企業にとって、事業環境は大きく変わります。補助対象、販売チャネル、価格競争、製品仕様が変われば、撤退、事業譲渡、会社解散が起こること自体は通常の企業活動です。
問題は、会社は市場から退出できても、販売済みの大型リチウムイオン蓄電池は建物に残り続けることです。製品寿命が10年を超える設備では、製品より先にメーカーや販売主体がなくなることを前提に、回収・撤去・処分の出口を設計しておかなければなりません。
Smart Starシリーズの開発、製造、販売、メンテナンスを行っていたNFブロッサムテクノロジーズは、2026年3月31日付で解散しました。同社が公式に示した理由は「昨今の経営環境の変化」であり、個別の解散理由を補助金終了だけに帰すことはできません。保証、点検、診断、保守については総販売元である伊藤忠商事が継続すると公表しています。
しかし、保守窓口が残っていることと、役目を終えた設備を撤去・回収・処分してくれることは別です。今回の調査でも、この違いが実際の問題として現れました。
電池工業会の「電池の捨て方ナビ」は、家庭用蓄電システムは販売者または機器メーカーへ、大型の業務用電池は販売者または電池メーカーへ相談するよう案内しています。通常は合理的な入口です。しかし、その相手が撤退・廃業・解散したとき、所有者側に新しい処理ルートの探索が残ります。こうした状態を本稿では「リチウム廃棄難民」の問題として扱います。
補助金は「入口」を作った。しかし「出口」までは保証していない
導入時には補助制度、販売店、施工店、メーカーがそろっていました。10年後、それらの主体が同じ形で存在する保証はありません。政策によって大量導入された長寿命設備ほど、メーカーがいなくなっても機能する回収・処分の仕組みが必要です。
自治体回収が進んでも、大型定置型は別問題
リチウムイオン電池の廃棄対策自体は進んでいます。環境省が2026年に公表した令和7年度実績では、リチウムイオン電池または使用製品を回収している市町村は86.2%まで増えました。同時に、廃棄過程での発煙・発火を含む事故が多数報告され、消防庁も「正しく捨てる」ことを重点的に案内しています。
ただし、自治体回収の中心となる小型電池や小型製品と、建物へ固定された大型定置型蓄電システムは同じものではありません。
小型Li-ion製品
モバイルバッテリー、ハンディファン、工具用電池など。自治体回収やメーカー回収、JBRC等の仕組みが整備されています。
大型定置型蓄電池
数十〜数百kgの電気設備。建物配線、太陽光、分電盤と一体化しており、撤去・安全処理・重量物搬出・運搬・処分を分けて考える必要があります。
国も製造・販売事業者等と連携した回収体制の実証を進めています。言い換えれば、2026年時点でも回収・処理の仕組みは過渡期にあります。
実例:処分先を探す前に原状復旧が必要だった
2026年10月、当社は大阪府内の介護施設で、既設のSmart Star LをBCP設備から外すための調査を行いました。対象機は9.8kWh級で、外形約762×440×1,145mm、質量は脚部を含め約180〜195kgです。
この案件で最初に問題になったのは処分先ではありません。蓄電池を外したあと、建物の電気設備をどう元へ戻すかでした。
既設設備では、1階の17回路が蓄電池専用分電盤へ振り替えられ、太陽光発電も蓄電システムへ接続されていました。したがって撤去には、Smart Star Lの電気的切離しだけでなく、17回路を元のL1分電盤へ戻し、既設2極ブレーカを再利用して盤内配線を復旧し、太陽光発電を通常の系統連系側へ戻し、不要配線を整理し、絶縁抵抗を確認する工程が必要です。
「撤去費」と「処分費」は別です
本体を処分する費用だけを見ても、設備を終わらせる総費用は分かりません。蓄電池を設置するために変更した建物側の配電を、今度は有償で元へ戻す必要があります。そこには電気工事費だけでなく、停電調整、既設回路の確認、施工時の誤結線や設備停止を避けるための施工リスク管理も含まれます。
さらに、蓄電池を廃止した後に専用盤や不要配線を残しておけば、将来の設備更新や点検時に「生きている回路なのか」「どこへつながっているのか」という誤認を残します。本件では、専用盤を無用の長物として残すのではなく、原状復旧して不要設備を撤去・整理することまでを設備廃止として扱います。
施設側は既設システムを撤去し、回路を復元したうえで新しいBCP対策へ移行する方針を決定しました。今回の実例は、定置型蓄電池の出口が廃棄物処理だけの問題ではなく、建物電気設備を安全な状態へ戻す問題でもあることを示しています。
本体を外しても、そのまま産廃には出せない
Smart Star L本体も、電源を切ってトラックへ積めば終わる設備ではありません。建物へ固定された蓄電システムとして、まず太陽光発電側との接続を遮断し、商用系統からの入力を遮断したうえで、構内の負荷回路、接地、通信・制御配線等から安全に解列する必要があります。
撤去予定のSmart Star L本体
撤去は、太陽光発電との遮断、系統入力の遮断、構内電気設備からの解列という順で、建物側と蓄電池側を電気的に切り分けるところから始まります。その後も本体をそのまま処分できるとは限りません。
今回確認した処理事業者の受入条件では、内部のリチウムイオン電池を事前に取り外し、絶縁処理し、本体と分けた状態にすることが求められました。セル・モジュール等の処理単位は製品構造と処理事業者の指示に従い、露出端子や導電部を絶縁して電気的安全を確保したうえで、本件では産業廃棄物として取扱い可能な事業者へ引き渡します。
今回、処理可能な事業者へ確認したところ、持込み条件として、内部リチウムイオン電池を事前に取り外し、絶縁処理し、本体と分けた状態にすること、端子絶縁を行うこと、事前に契約手続きを行うことが示されました。また、回収依頼は3〜4週間前までの連絡が必要でした。
ここだけを読んで「自分で電池を外して絶縁すればよい」と考えてはいけません。
定置型蓄電池は高エネルギーの電池モジュール、BMS、接触器、ヒューズ、PCS等を組み込んだ装置です。状態が不明な電池へ工具を入れ、端子や導体を誤って短絡すれば、発熱・アーク・発火につながる可能性があります。
また建物側では、分電盤、固定配線、接地、太陽光連系などの変更を伴います。600V以下の蓄電池端子への一部作業は法令上「軽微な工事」とされる例外がありますが、設備全体の撤去・原状復旧を無資格者が一括して行ってよいという意味ではありません。
一般の所有者が行うべきなのは、型式・製造番号・設置状況を確認し、メーカーや専門事業者へ相談するところまでです。固定配線の切離し、内部電池の取外し、絶縁、安全確認は、製品構造と電気設備、処理条件を理解した専門事業者が行うべき作業です。
BCP設備だったはずの蓄電池が「負の資産」になる
導入時、蓄電池は価値を生む設備です。電気料金を下げ、太陽光を活用し、停電時には業務継続を助けると説明されます。
しかし寿命末期には、所有者側に次の費用が発生する場合があります。
| 工程 | 何に費用がかかるか |
|---|---|
| 電気的切離し | 蓄電池、分電盤、太陽光、接地、通信・制御配線の切離し |
| 原状復旧 | 振替回路の復旧、盤内配線、PV再構成、絶縁確認 |
| 安全処理 | 内部電池の取外し、セル・モジュール等の端子・導電部の絶縁、分別、荷姿の調整 |
| 搬出・運搬 | 重量物搬出、車両、積載、安全な収集運搬 |
| 処分 | 中間処理、再資源化、最終処分、契約・マニフェスト |
言葉を選ばずに言えば、最後には「有償のゴミ」になります。しかも、家庭ごみのように所有者自身がごみ出しすることさえできません。建物から切り離すための電気工事、原状復旧、内部電池の安全処置、重量物搬出、運搬、処理先との契約まで、複数の専門工程を経て初めて手放せます。廃棄・処理責任の分担も、工程ごとに確認する必要があります。
電気料金削減やBCP対策のために導入したハードウェアが、役目を終えた瞬間から「費用を払わなければ所有し続けるしかない設備」へ変わる。この将来負担は、購入価格や補助金だけを見ていると導入時にはほとんど見えません。
「トイレの無いマンション」と同じ構造
立派なマンションに玄関、リビング、キッチン、浴室があっても、トイレと下水への接続がなければ完成した住宅とは言いにくいでしょう。
定置型蓄電池も同じです。
製造する。
売る。
設置する。
充電する。
停電時に使う。
では、最後に誰が外し、誰が建物を元へ戻し、誰が運び、誰が処理するのか。
問題は処分費が無料か有料かではありません。
そもそも排出先につながっているかどうか。
製品の「出口」がないということは、単に捨て場所が分からないという意味ではありません。撤去技術、原状復旧、安全処置、処理業者、契約、費用まで含む一連の出口設計が欠けているということです。
蓄電池の価格には「捨てるまでの価格」が入っているか
蓄電池を購入するとき、比較されるのは容量、出力、価格、補助金、保証年数、電気料金削減額です。
しかし、本来のライフサイクルコストはそれだけではありません。
購入価格 + 保守費 + 撤去費 + 原状復旧費 + 安全処理費 + 運搬費 + 最終処分費。
メーカーが10年後も存在するとは限りません。販売店も施工店も同じです。製品寿命が企業の寿命を超える設備では、会社がなくなっても機能する出口が必要です。
購入前に確認する質問
「この蓄電池を10年後に撤去するとき、誰に連絡すれば、いくらで、どこまで処理してもらえますか。」
この質問へ具体的に答えられる製品には出口があります。答えられない製品は、将来の所有者へ問題を先送りしています。
撤去・原状復旧・処分・次のBCPまでを一つの工程にする
今回の調査を通じ、当社ではこの問題を単なる「廃棄代行」として扱わない方針です。
役目を終えた蓄電池を安全に廃止し、建物を原状復旧し、適正処理へつなぎ、その後の停電対策を再構築する。ここまでを一つのプロジェクトとして扱います。
1. 製品・メーカー確認
型式、製造番号、リコール、メーカー・販売者・承継窓口を確認します。
2. 回収・処理ルート確認
メーカー回収を優先し、利用できない場合は許可を持つ処理事業者へ接続します。
3. 電気的撤去・原状復旧
分電盤、太陽光、固定配線、接地を整理し、建物を通常運用へ戻します。
4. 安全処置・搬出・処理
処理業者の受入条件に合わせ、専門事業者による安全処置と適正処理へつなぎます。
5. 次のBCP設計
施設全体は外部発電機受入+常時監視、重要負荷は可搬型UPSなど、用途ごとに再設計します。
蓄電池を外すことは、停電対策をなくすことではありません。古い設備を更新する機会に、設備を単純化し、必要な電源を必要な時間だけ確保するBCPへ組み替えることができます。
メーカー撤退品・処分先不明の定置型蓄電池について
型式・設置状況・メーカー窓口の有無を確認し、撤去、原状復旧、処理ルート、撤去後の停電対策まで整理します。
よくある質問
メーカーがなくなった定置型リチウムイオン蓄電池は自治体で捨てられますか?
小型リチウムイオン電池の自治体回収が広がっていますが、大型定置型蓄電池は重量物の電気設備であり、同じ回収方法とは限りません。家庭用・事業用、製品、自治体、排出者区分ごとに確認が必要です。
蓄電池は本体を外せば処分できますか?
建物の分電盤、太陽光、特定負荷、制御配線へ組み込まれているため、本体を切り離した後に回路を元の分電盤へ戻し、太陽光系統や不要配線を整理する原状復旧工事が必要になる場合があります。不要設備を有効設備のように残置すると誤認・誤操作・保守上のリスクも残ります。
所有者が自分でリチウムイオン電池を分解して運べますか?
一般利用者によるセル・モジュールの分解は想定すべきではありません。固定配線等には資格が必要な電気工事が含まれ、電池側の取外し・絶縁も製品構造と発火リスクを理解した専門事業者へ依頼する必要があります。
定置型蓄電池の撤去では何に費用がかかりますか?
電気的切離し、建物側の原状復旧、セル・モジュールの安全処置、重量物搬出、収集運搬、産業廃棄物処理などが別工程として発生する場合があります。
蓄電池を撤去した後の停電対策はどうしますか?
新しい定置蓄電池へ置換する方法だけでなく、外部発電機を施設へ接続できる受入設備と常時監視を整備する方法、重要負荷だけを可搬型UPSで保護する方法があります。
参考資料
- SII「平成23年度 定置用リチウムイオン蓄電池導入促進対策事業費補助金」
- 経済産業省「令和2年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業」
- SII「平成28年度補正 ZEH普及加速事業費補助金」
- 資源エネルギー庁「FIT制度のこれから/買取期間満了後の太陽光発電活用」
- 伊藤忠商事「スマートシティを実現するリチウムイオン蓄電システムの発売開始」(2013年10月28日)
- 伊藤忠商事「家庭用リチウムイオン蓄電システム 新モデル販売開始の件」(2017年5月12日)
- NFブロッサムテクノロジーズ「解散に伴う今後のアフターサービスに関するお知らせ」(2026年3月19日)
- 総務省消防庁「リチウムイオン電池総合対策ポータルサイト」
- 環境省「市町村におけるリチウムイオン電池等の処理状況調査結果(令和7年度実績)」
- 一般社団法人 電池工業会「電池の捨て方ナビ」
- 環境省「令和8年度リチウムイオン電池等の回収・処理体制の構築等に向けた実証事業」
- 経済産業省「電気工事士等資格不要の『軽微な工事』とは」
本稿の現地事例は、2026年10月に当社が実施した介護施設の設備調査、メーカー・自治体・産業廃棄物関係団体・処理事業者への確認、および原状復旧工事の積算に基づきます。施設名・個人名は非公開としています。