1. 厚生労働省資料で何が示されたのか
2026年5月15日に開催された内閣府「規制改革推進会議 健康・医療・介護ワーキング・グループ」では、 厚生労働省から「医療・介護分野におけるタスク・シフト/シェアの促進について」の資料が提出されています。
その資料では、介護現場で実施されることが多い行為のうち、医行為か否かの検討対象として、 PTPシートからの薬剤取り出し、血糖測定、インスリン注射などと並んで、 「在宅酸素濃縮器のオン・オフ及び流量変更」と 「在宅酸素濃縮器から酸素ボンベへの切替え」が挙げられています。
資料で示されたポイント
この扱いは、安全性を重視するものです。 一方で、介護施設・在宅介護の現場には、別の問いが残ります。
操作できる人が限られる機器を、停電時に必要な時間だけどう維持するか。
2. 操作できる人が対応するまでの「保持時間」を先に決める
在宅酸素濃縮器は電気で動きます。 停電すれば、酸素濃縮器は止まる可能性があります。 その際、酸素ボンベへの切替えや、機器の再起動、流量確認が必要になる場面があり得ます。
しかし、その操作が誰でも実施できる行為ではないと示されているなら、 施設BCPの考え方は変わります。 「止まったら現場で対応する」ではなく、 そもそも止めない、 または対応までの保持時間を決める設計が必要になります。
STEP 1 / ROLE
誰が操作できるかを決める
医師・看護師・患者本人が行う操作と、家族・介護職員が補助できる範囲を利用者ごとに確認します。 夜間・休日・家族不在時に、誰へ連絡し、誰が対応できるかまで決めます。
STEP 2 / HOLD
対応までの保持時間を決める
非常用電源で酸素濃縮器・ナースコール・見守り・通信を維持し、 医療職への連絡、酸素ボンベへの切替え、搬送判断までに必要な時間を確保します。
STEP 3 / CONTINUITY
保持時間をBCPへ実装する
停電時の連絡先、代替電源、酸素ボンベ、家族連絡、搬送判断、記録を 施設BCPや利用者別手順へ落とし込み、訓練で実行できるか確認します。
Emergency Power / Home Oxygen
操作できる人が限られる。では、停電時はどうするのか?
停電直後に再起動や酸素ボンベへの切替えが必要になる状況を避けるため、 在宅酸素濃縮器を止めない時間を確保します。
在宅酸素濃縮器を適切な無瞬断の非常用電源で継続運転させることで、 停電直後に機器が停止し、再起動や酸素ボンベへの切替えが 必要になる状況そのものを減らす設計ができます。
医師・看護師、患者本人など、個別運用で対応可能と確認された者が対応するまで酸素濃縮器を止めず、 医療職への連絡、代替手段の確認、搬送判断に必要な時間を確保します。
Power Alert / Remote Monitoring
停電や異常を通知する――職員の確認負担を減らし、安全管理を支える
在宅酸素濃縮器を非常用電源で止めずに維持しても、 停電や電源異常の発生に職員が気づかなければ、 医師・看護師への連絡や搬送判断が遅れる可能性があります。
電源状態を常時監視し、停電、電圧低下、復電時の異常などをメールで通知することで、 職員が機器の状態を繰り返し見回る手間を減らしながら、 必要な対応を早期に開始できる環境を整えます。
Alert
停電・電源異常をメールで通知
停電や電源状態の変化を自動で通知し、 職員が異常を確認するまでの時間を短縮します。
Monitoring
電源状態を常時モニタリング
非常用電源の状態を継続して確認し、 異常の早期発見と対応履歴の把握を支えます。
職員が電源設備を常時監視するのではなく、 電源側から異常を知らせる仕組みに変えることで、 日常業務の負担を抑えながら停電時の初動を早めます。
3. 法人本部・施設長が確認すべき項目
この論点は、現場の介護職員だけに背負わせるものではありません。 法人本部、施設長、BCP担当者、自治体担当者、ケアマネ、医療職が、次の項目を確認する必要があります。
| 確認項目 | 確認すべき内容 | BCP上の意味 |
|---|---|---|
| 在宅酸素利用者数 | 施設・在宅支援先に何名いるか。夜間・休日の所在も含める。 | 非常用電源容量と優先対応順位を決める前提になる。 |
| 機器の消費電力 | 酸素濃縮器、吸引器、見守り機器、通信機器の消費電力を確認する。 | 何分・何時間維持できるかを計算する基礎になる。 |
| 操作できる人 | 医師・看護師・家族・介護職員の役割分担と、夜間連絡先を確認する。 | 停電時に誰へ連絡すべきかを迷わない。 |
| 酸素ボンベ切替え | 切替え手順、保管場所、残量、実施可能者を確認する。 | 電源保持時間を超えた場合の代替手段になる。 |
| 同時に止まる設備 | ナースコール、見守りカメラ、Wi-Fi、ルーター、電子記録端末を確認する。 | 酸素濃縮器だけ守っても、連絡・見守りが止まると初動が遅れる。 |
| 記録と訓練 | 停電訓練、非常用電源の点検記録、利用者別の対応手順を残す。 | 自治体・家族・監査への説明資料になる。 |
4. 酸素濃縮器と一緒に維持する機能を決める
停電時の初動には、酸素濃縮器に加えて、医療機器、通信、見守り、安全確認、記録が必要です。 利用者の状態と施設の運用に応じて、同時に維持する機能を決めます。
Medical Device
在宅酸素・吸引器・関連機器
在宅酸素濃縮器、吸引器、ネブライザー等は、利用者の状態によって優先度が変わります。医師・看護師の指示とBCPを整合させます。
Call / Monitoring
ナースコール・見守り機器
酸素濃縮器が動いていても、ナースコールや見守り機器が止まれば異常発見が遅れます。通信機器とセットで保持します。
Network
Wi-Fi・ルーター・PoE機器
見守りカメラ、タブレット記録、クラウド連携、緊急連絡には通信が必要です。ルーターやPoEスイッチも保持対象になります。
Record / Evidence
電子記録・事故報告・証跡
停電時に何が起き、誰が対応し、何分で復旧したかを残すことは、家族説明、自治体報告、事故後の検証にも関係します。
Emergency Generator / Facility Continuity
5. 非常用発電機は「何に、何秒後から、何時間給電できるか」で確認する
令和8年熊本地震では、八代市、宇城市、氷川町などの医療・介護施設で、 停電、断水、医療ガスの供給支障、空調停止などが発生しました。 では、施設に設置されていた非常用発電機は機能しなかったのでしょうか。
公表資料だけから、すべての施設の発電機の有無や作動状況を判断することはできません。 また、「停電施設」と報告されていても、 非常用発電機が故障したことを意味するとは限りません。
熊本県の第3回災害対策本部会議資料では、 2026年7月29日7時30分時点で、 医療機関30施設、 高齢者施設83施設、 障がい者福祉施設66施設などに、 停電、断水、ガス供給停止、建物被害が報告されています。 県はスポットクーラーや電源車の受入れを調整し、 停電している医療機関への電源車派遣も手配していました。
Government Data
内閣府の資料が示す「非常用発電機がある施設」の実態
内閣府の「令和元年版 防災白書」によると、 2018年の北海道胆振東部地震では、北海道内の 349病院が停電しました。 酸素吸入器や透析治療が使用できなくなり、 患者を別の病院へ搬送した医療機関もありました。
349病院
北海道内で停電した病院
34病院
道内の災害拠点病院
約60%
通常時に対する発電能力
約3日分
災害拠点病院の燃料備蓄
34の災害拠点病院は、通常時の約6割の能力を持つ発電設備と、 約3日分の燃料を備えていたため、 停電区域内でも自家発電へ切り替えて医療業務を継続できました。
災害拠点病院であっても、非常用発電設備の能力は通常時の約6割です。 消防用の非常電源が設置されていることだけを理由に、 酸素濃縮器を含むすべての施設機能を継続できるとは判断できません。
Hospital
発電機2機は作動していた。それでも病院機能は停止した
宇城市の熊本南病院では、非常用発電機2機を使用し、 人工呼吸器など生命維持に直結する設備をかろうじて動かしていました。
しかし、病院全体としては機能を継続できず、 入院患者全員を転院させる判断となりました。 発電機が作動していても、施設全体が継続できるとは限りません。
非常用発電機が動いた 病院機能が継続した
Care Facility
氷川町の高齢者施設では、2日間空調を使用できなかった
氷川町の高齢者施設では、電気が復旧するまでの2日間、 エアコンを使用できない状態が続きました。 多くの入所者に熱中症とみられる症状が生じ、 20人余りが搬送されたと報じられています。
ただし、公表された情報からは、 非常用発電機が設置されていたのか、作動したのか、 空調が非常用回路の対象だったのかまでは確認できません。
問うべきなのは発電機の有無だけでなく、 何に給電できたのかです。
非常用発電機は、施設内のすべての設備を動かす装置とは限りません。
発電機が作動していても、給電対象が生命維持設備だけであれば、 空調、給水、通信、電子記録、厨房、エレベーターなどは停止します。 その結果、個別の医療機器は動いていても、 施設全体としては継続不能になることがあります。
非常用発電機について確認すべき4つの点
Start / Transfer
自動で起動しても、無瞬断とは限らない
消防庁の「自家発電設備の基準」では、 常用電源が停電してから電圧確立・投入までの所要時間を 40秒以内としています。 発電機が基準どおり正常に作動しても、 停電から給電までが0秒になることを意味しません。
酸素濃縮器がこの間に一度停止すれば、 復電後にオン操作が必要になる可能性があります。
Critical Loads
何が非常用回路につながっているか
消防法上の非常電源は、消防用設備などの所定の負荷回路へ 電力を供給するための設備です。 施設内のすべての設備やコンセントへ給電するものではありません。
在宅酸素濃縮器、ナースコール、見守り機器、通信設備、 空調などが非常用回路へ接続されているかを、 分電盤、回路図、実際の停電試験によって確認する必要があります。
Capacity / Fuel
実際の負荷で何時間運転できるか
発電機の定格だけでなく、接続負荷、燃料消費量、 残量確認、補給経路を含めて運転可能時間を確認します。
内閣府の資料で示された災害拠点病院は、 通常時の約6割の発電能力と約3日分の燃料を備えていました。 発電機の設置だけでなく、容量と燃料の設計が必要です。
Monitoring
停止や異常を誰が把握できるか
発電機の起動失敗、過負荷、燃料低下、停電の継続を、 職員が見回らなくても通知・監視できる状態にします。
非常用電源が作動していても、 酸素濃縮器が停止していることを把握できなければ、 医師・看護師への連絡や代替手段への移行が遅れます。
発電機の起動までを無瞬断電源でつなぎ、酸素濃縮器の継続運転を保つ
非常用発電機が正常に起動しても、 消防庁の基準上、停電から給電開始までの時間が 0秒になるとは限りません。 また、在宅酸素濃縮器のコンセントが非常用回路の対象外なら、 発電機が作動していても酸素濃縮器には給電されません。
停電によって酸素濃縮器が一度停止し、 復電後にオン操作や流量変更等が必要となれば、 利用者本人の状態や個別運用によっては、医師・看護師への連絡・対応が必要になります。
非常用発電機の有無だけに依存せず、 停電の瞬間から酸素濃縮器を停止させない電源構成が必要です。 無瞬断の非常用電源で発電機の起動までの空白時間をつなぎ、 停電や電源異常を通知することで、 停電直後に再起動や切替えが必要になる状況そのものを減らします。
令和8年熊本地震の発災後72時間と、施設機能停止の実態を読む出典: 内閣府「令和元年版 防災白書―平成30年北海道胆振東部地震」 、 総務省消防庁「自家発電設備の基準」 、 熊本県「令和8年熊本地震に係る第3回災害対策本部会議資料」 、 厚生労働省「令和8年熊本地震について」 、 NHK「熊本南病院 停電で病院機能停止」 、 テレ朝NEWS「氷川町の高齢者施設はエアコン使えず」
BCP Obligation / Power Continuity
6. BCPで決めた継続機能を、実際に動く電源設備へ実装する
在宅酸素濃縮器を使用する利用者を受け入れる施設では、 「停電時も必要なサービスを継続する」とBCPに記載するだけでは足りません。 酸素濃縮器、ナースコール、見守り、通信を、必要な時間だけ実際に動かせることが必要です。
確認するのは、非常用発電機やUPSが「あるか」ではなく、 何に、停電後何秒から、何分・何時間、どの手順で給電できるかです。
Regulatory Timeline
介護BCPは、計画・研修・訓練まで含む運営条件になっている
2021年4月
BCP策定を義務化
全ての介護サービス事業者に、感染症・災害発生時の業務継続計画、研修、訓練が求められました。
3年間
経過措置を設定
事業者が計画と実施体制を整備するため、2024年3月31日までの準備期間が設けられました。
2024年4月
経過措置終了
BCPの策定、周知、研修、訓練が、介護事業者に求められる通常の運営基準となりました。
2025年4月
減算の猶予も終了
一部サービス等に設けられていた経過措置も終了し、BCP未策定の場合は基本報酬の減算対象となっています。
業務継続計画未策定減算は、施設・居住系サービスでは所定単位数の 3%、その他の対象サービスでは 1%です。 BCPは、作成して保管する資料ではなく、実際の継続手順として使える状態が求められます。
「何を止めないか」を決めたら、その機能へ電力が届くところまで確認します。
酸素濃縮器だけを守っても、ナースコール、見守り、通信が止まれば、 異常把握、医療職への連絡、家族連絡、搬送判断が遅れる可能性があります。
BCPで決めた継続機能と、分電盤・非常用回路・UPS・発電機・監視・運用手順を同じ対象として確認します。
Plan
何を継続するかを決める
酸素濃縮器、ナースコール、見守り、通信など、停電時にも維持する機能と優先順位をBCPに明記します。
Implement
必要な時間だけ給電する
必要保持時間から、非常用電源、配線、回路、発電機への引継ぎ条件を決め、対象機器へ実際に給電できる状態にします。
Verify
停電試験と記録で確認する
切替時間、運転時間、通知、職員の連絡・代替手順まで確認し、訓練結果と点検記録を残します。
必要保持時間と代替手段から、電源設備の条件を決める
BCP訓練、運営指導、実際の停電、利用者・家族への説明、事故後の検証では、 「酸素濃縮器をどのように継続するのか」を具体的に説明できる必要があります。
操作できる人が限られる機器ほど、対応までの時間と代替手段を先に決め、 その時間を確保できる電源構成を実装します。
Facility Continuity Check
停電前に、6つの項目へ答えられますか
操作できる人が限られる在宅酸素濃縮器では、停電してから担当者を探すのでは遅れます。 誰が対応し、それまで何分維持し、何へ切り替えるかを事前に確認します。
施設側がすぐ確認すべきこと
- ●在宅酸素濃縮器を利用している入所者・利用者は何名いるか
- ●停電時に酸素濃縮器を何分維持できるか
- ●酸素ボンベへの切替えは誰が実施できるか
- ●夜間・休日に医師又は看護師へ連絡できる体制があるか
- ●ナースコール、見守り機器、通信設備、電子記録も同時に止まらないか
- ●非常用電源、代替手順、家族連絡、搬送判断がBCPに書かれているか
一つでも答えられない項目があれば、必要保持時間と継続対象を確定してから、電源・回路・運用手順を確認します。
72-Hour Facility Continuity
在宅酸素濃縮器を維持し、その先の必要な施設機能を72時間つなぐ
在宅酸素濃縮器を無瞬断の非常用電源で維持することは、 停電直後の操作を発生させないための初動対策です。 一方、停電が長期化すれば、通信、見守り、空調、照明、給水、 エレベーターなどを含めて、必要な施設機能を継続する必要があります。
72時間の施設継続は、発電機と燃料を用意するだけでは成立しません。 実際の使用電力を計測し、発電能力を超えないよう負荷を管理し、 切替え、監視、燃料補給、職員による運用までを一体として設計します。
Normal Average
約60kW
日中の平常時平均使用電力
Generators
54kVA × 2
合計108kVAの発電能力
Continuity
最低72時間
計画負荷での施設継続
72時間の施設継続は、燃料・負荷・切替え・監視・運用を一体で設計します。
負荷を計測し、過負荷を監視し、平常時から運転し、 職員が操作できる状態まで設計して、 初めて72時間の施設継続が成立します。
Implementation Case
介護老人保健施設「博寿苑」の電源多重化
発電容量、燃料、スマートメーターによる使用電力の計測、 過負荷監視、切替手順、職員による運用までを一体として設計した事例です。
Disaster Record / 72 Hours
令和8年熊本地震の発災後72時間に何が起きたか
厚生労働省の被害報告を時系列で読み、 医療・介護・障害福祉施設の被害数が発災後も拡大して把握された過程と、 電力、通信、情報把握の単一点障害を検証します。
「72時間」は、単に非常用電源を72時間動かすという意味ではありません。 地域と施設が機能を維持し、支援、避難、搬送の判断を行うための時間です。
本記事で参照した資料
本記事では、令和8年5月15日(金)16:00〜19:00にオンラインで開催された、 内閣府 「規制改革推進会議 健康・医療・介護ワーキング・グループ」第12回会合 の掲載資料を参照しました。
- 内閣府:第12回 健康・医療・介護ワーキング・グループ 議事次第
- 資料1-1:厚生労働省 「医療・介護分野におけるタスク・シフト/シェアの促進について(フォローアップを含む)」
本記事で扱う在宅酸素濃縮器の 「オン・オフ及び流量変更」 ならびに 「在宅酸素濃縮器から酸素ボンベへの切替え」 は、同資料において、医師法第17条の考え方に照らして示された論点です。
なお、資料の記載は制度上の重要な根拠ですが、施設ごとの運用判断は、 最新の通知、自治体の指導、医師又は看護師の指示、個別の利用者状況に基づいて確認してください。