はじめに|「何も起きなかった」は、成果である

保険の価値は「事故が起きたか」ではなく、 起きたときに致命傷を負わない設計にあります。 BCPや瞬停対策も同様で、評価軸は「使ったか」ではなく 止まらない・混乱しない・信用を失わないことです。

第1章|低頻度・高インパクトという“最も厄介なリスク”

低頻度・高インパクトのリスクは、 発生頻度は低い一方で、一度起きれば事業・信用・企業価値に致命的な影響を与えます。 停電、瞬停、インフラ障害、サイバー攻撃、災害はこのカテゴリに属します。

瞬停は数ミリ秒〜数秒で復旧するため「大したことがない」と見なされがちです。 しかし制御系・通信系・認証系では、1秒未満の瞬断でも停止・再起動・不整合が発生します。 被害は「電気が止まった時間」ではなく、 復旧時間と信用の損失として顕在化します。

第2章|VoLLが示したもの──停止は“時間”ではなく“価値”を失う

VoLL(Value of Lost Load)は、停止時間・影響範囲・復旧コスト・機会損失をもとに 「1回の停止が企業にもたらす損失額」を定量化します。 重要なのは、電気代や設備費ではなく、 企業活動そのものの価値を測る指標である点です。

だからこそ判断は「起きていない=ゼロ」ではなく、 起きた場合の期待損失で行う必要があります。 関連記事: VoLL(停止損失)という考え方

第3章|柳モデル(Yanagi Model)が証明した「見えない価値」の正体

「見えない価値」を統計的に示す枠組みとして知られるのが、 エーザイ元CFO・柳良平氏の柳モデル(Yanagi Model)です。 非財務指標(人的資本・研究開発・多様性など)と企業価値(PBR)を関連づけ、 短期的にはコストに見える投資が、中長期で企業価値に効くという構造を説明します。

“PBR 1倍超”は、見えない資産の評価

PBRが1倍を超える部分は、財務諸表に表れない付加価値、 つまり人的資本・知的資本・信頼性・ガバナンスといった 非財務的な資産がもたらす価値として捉えられます。

第4章|停電対策・UPSは“同じ構造”を持つ投資である

UPSや電源冗長化は、使われなければ目立たず、事故が起きなければ評価されにくい。 典型的な「無駄に見える投資」です。 しかし構造的には、柳モデル(Yanagi Model)が扱う人的投資やESG投資と一致します。

  • 信頼性を高める
  • 事業継続能力を担保する
  • 顧客・取引先・社会からの評価を守る

「何も起きなかった」ことは、運が良かったのではなく、 正しい備えが機能した結果です。

第5章|可搬型UPSという“経営に近い電源”

可搬型UPSは、単なる非常用電源ではありません。 工事を伴わず、必要な場所に即座に配置でき、平常時から使い続けられる。 これはリスクマネジメントを日常業務に組み込むための設計です。

瞬停対策を「年に一度の災害対応」ではなく 「日々の業務を止めない前提条件」に変える。 その積み重ねが、後から企業価値として評価されていきます。

結論|「何も起きなかった」を説明できる経営へ

これから問われるのは「事件が起きたときの対応力」だけではありません。 事件が起きなかった理由を説明できるかです。 なぜ止まらなかったのか。なぜ混乱しなかったのか。なぜ信用を失わずに済んだのか。 それを語れる企業は、投資家にも従業員にも社会にも「成熟した経営」として評価されます。

可搬型UPSや瞬停対策はコストではありません。 企業の見えない価値を守り、積み上げるためのリスクマネジメント投資です。 「何も起きなかった」——それは、最も雄弁な成果です。