NITE蓄電池ガイドライン徹底解説──公共調達・重要インフラで何を確認すべきか
本稿は、事故の予測や、特定製品・事業者の危険性を指摘することを目的としていません。NITEが正式公表した 公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン を、自治体・防災設備・医療介護施設・通信設備・監視設備・重要施設の調達実務に落とし込むための整理です。
NITEページ:https://www.nite.go.jp/gcet/nlab/infra-guideline.html
※NITEページでは、本文、別紙、使い方ガイド、全体版、本文解説、別紙解説、補足説明が公開されています。
1. 正式版の意味──公共調達・補助金要綱に安全要求を反映する段階へ
NITEガイドライン第1版は、暫定版から内容が大きく変わったというよりも、 公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの導入時に、 仕様書や補助金要綱へ安全要求を反映するための実務文書として位置づけが明確になった 点に意味があります。
ガイドラインでは、公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムについて、 地方自治体等がより高い安全性・信頼性を有する蓄電池を選定できる環境を整備し、 非常時や大規模災害時における行政機能・インフラ機能の維持、早期復旧につなげることを目的としています。 さらに、補助金要綱に活用されることで、不安全製品の排除と、 より安全性・信頼性の高い蓄電池システムの普及促進につなげることが示されています。
そのため、調達側は「容量」「出力」「電池種」だけを指定するのではなく、 設置箇所と、そこで想定される非常時・災害時等を整理し、 耐低温性、耐水没性、耐振動性、耐類焼性、耐火性、継続使用可能性などの要件を 仕様書に反映する必要があります。 実務上は、ガイドラインが任意の参考資料にとどまるのではなく、 公共調達や補助金申請で「安全要求を明記したか」を問われる基準資料になる と読むべきです。
ここでの重要点
正式版で問われるのは、「暫定版からどこが変わったか」ではなく、 公共調達・重要インフラ用途で、設置環境に応じた安全要求を仕様書へ落としたか です。 仕様書や補助金要綱に安全要件を入れないまま、容量・価格だけで蓄電池を選ぶ調達は、 今後説明しにくくなります。
2. ガイドラインの目的:二次災害防止と継続使用可能性
NITE第1版の目的は、公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムに必要な要件を示し、地方自治体等のユーザーが、 より高い安全性・信頼性を有する蓄電池を選定できる環境を整備することです。目的は大きく二つあります。
第一の目的
非常時・大規模災害時等において、蓄電池システムが発火・破裂・有害物拡散などの二次災害の起点にならないこと。
第二の目的
行政機能、通信、医療、交通、ライフラインなど、重要機能を維持・早期復旧するため、蓄電池システムを継続使用できる状態に近づけること。
ここで重要なのは、NITE第1版が「発火しないことを絶対保証する文書」ではなく、設置場所・災害リスク・使用条件に応じて、 発火・破裂等のリスクを下げるための要件を選ぶ文書である点です。
3. 対象範囲:リチウムイオンに限らず、重要インフラの蓄電池システム全般
正式版では、リチウムイオン蓄電池だけでなく、「重要インフラにおいて使用される全ての蓄電池システム」が対象です。 蓄電池、BMU、遮断器、PCS等を含み、電力システムまたは他の供給源から電気エネルギーを貯蔵し、供給できるものとして整理されています。
想定される重要インフラ分野
情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油、港湾の15分野が想定されています。 当社の実務領域では、特に通信・監視・BCP・自治体防災・医療介護施設・避難所・指揮運営拠点での活用が重要になります。
4. ClassとGradeの読み方
NITE第1版では、各安全要件にClassが設定されています。基本的には、数値が大きくなるほど厳しい要件です。 ただし、継続使用可能性はClassではなくGradeで整理されます。Gradeは、設置状況や使い方など仕様で決まるものであり、数値だけを見て単純に優劣を判断するものではありません。
調達担当者向けの実務的な理解
- Class:発火・破裂・有害物拡散などを防ぐための安全要件の段階。
- Grade:災害後または通常時の想定使用期間に、どの程度継続使用できるかという整理。
- 上位Classが常に全用途で最適とは限りません。設置場所、予算、納期、運用体制、補助金要件との整合が必要です。
- 試験手法や判定基準が未整備の要件では、Class/Gradeへの適合性を判定できない場合があります。
Class と Grade の違い──「安全性能」と「継続使用可能性」を分けて読む
NITEガイドラインでは、蓄電池システムに求める要件を Class と Grade で整理しています。 ここで重要なのは、Class と Grade を同じ意味で読まないことです。 Class は主に、地震・浸水・低温・火災・衝突などの非常時・災害時において、 発火・破裂・有害物による周辺影響を起こしにくくするための 安全要件の水準を示します。 一方、Grade は、災害後や異常発生後に、蓄電池システムをどの状態で使い続けられるかという 継続使用可能性を整理するための区分です。
| 項目 | Class | Grade |
|---|---|---|
| 主な意味 | 災害時・非常時に発火、破裂、類焼、有害物の漏えいなどを起こしにくくするための 安全要件の水準。 | 災害後・異常後に、蓄電池システムをどの範囲で使い続けられるかを示す 継続使用可能性の区分。 |
| 数値の読み方 | 原則として、数値が大きいほど厳しい要件になります。 例:耐低温性 Class 3 は、Class 2 より厳しい低温条件を想定します。 | 数値が単純に「安全性能の高さ」や「厳しさ」を示すわけではありません。 設置状況、使用方法、災害後に求める運用状態によって決まります。 |
| 代表例 | 耐低温性、耐高温性、耐水没性、耐塩水性、耐振動性、耐類焼性、耐火性、 耐衝突性、耐落下性など。 | 非常時・災害時等の後に、蓄電池システムを継続して使用できるか、 どの範囲で使用可能とみなすか。 |
| 調達仕様での使い方 | 「設置場所」と「想定災害」に応じて、必要なClassを指定します。 例:寒冷地では耐低温性、海沿いでは耐塩水性・耐水没性、道路沿いでは耐衝突性を確認します。 | 「停電後も通信設備を維持する」「避難所で一定時間使い続ける」など、 継続運用の目的に応じて要求します。 |
| 誤解しやすい点 | Class が高ければ常に最適、という意味ではありません。 設置場所に存在しないリスクまで過剰に指定すると、費用や納期が不必要に重くなります。 | Grade は、Class の上位概念ではありません。 安全試験の強さではなく、非常時にどのように使い続けるかを整理する考え方です。 |
調達担当者向けの実務的な読み替え
調達仕様書では、まず設置場所と想定災害を整理し、必要なClassを選びます。 そのうえで、停電後・浸水後・地震後などに、どの設備をどの程度使い続ける必要があるかを整理し、 継続使用可能性を確認します。 つまり、Class は「事故を起こしにくくするための要求」、 Grade は「非常時に使い続けるための要求」として分けて考えるのが実務上わかりやすい整理です。
Class / Grade と試験・認証の関係──「要求水準」と「証明方法」を分ける
NITEガイドラインを仕様書に落とす際に混同しやすいのが、 Class / Grade と、 JIS・ISO等の規格、ISO/IEC17025試験所、ISO/IEC17065認証機関との関係です。 両者は同じものではありません。 Class / Grade は、調達者が求める安全性能・継続使用可能性の 要求水準です。 一方、JIS・ISO等の公的規格や、ISO/IEC17025・ISO/IEC17065に基づく試験・認証は、 その要求水準を満たしていることを確認するための 証明方法です。
| 区分 | 意味 | 調達仕様での書き方 | 確認資料 |
|---|---|---|---|
| Class | 地震、浸水、低温、火災、衝突、類焼などの個別リスクに対して、 どの水準の安全要件を求めるかを示す。 | 例:耐低温性 Class 3 以上、耐雨水水没性 Class 2 以上、 耐地震波衝撃 Class 3 以上。 | 当該Classに対応する試験報告書、判定基準、適合証明、 メーカーの技術資料。 |
| Grade | 非常時・災害時等の後に、蓄電池システムを継続して使用できるかを整理する区分。 安全性能の強弱だけを示すものではない。 | 例:停電後も通信設備を維持するため、対象要件について継続使用可能性を確認する。 | 継続使用可能性に関する試験結果、運用条件、保守条件、 使用可能範囲を示す資料。 |
| JIS・ISO等の公的規格 | 既に公的規格や国際的に普及した試験手法・評価基準がある場合に、 その規格を使って要求水準への適合を確認する。 | 例:当該Class / Gradeへの適合性について、該当するJIS・ISO等の規格に基づく資料を提出すること。 | JIS適合表示、ISO規格に基づく試験報告書、 公的規格に基づく評価資料。 |
| ISO/IEC17025試験所 | 公的規格や第三者認証サービスがない場合に、 信頼性のある試験データを得るための試験実施主体。 | 例:当該Class / Gradeへの適合性について、ISO/IEC17025に適合した試験所による試験結果を提出すること。 | ISO/IEC17025認定範囲、試験報告書、試験条件、 試験体条件、判定結果。 |
| ISO/IEC17065認証機関 | 試験結果や製品評価の信頼性を第三者として確認する認証機関。 | 例:当該Class / Gradeへの適合性について、ISO/IEC17065に適合した認証機関が信頼性を確認した資料を提出すること。 | 認証書、適合性評価書、試験結果の信頼性確認文書。 |
実務上の整理
調達仕様書では、まず「寒冷地で使うため耐低温性 Class 3 を求める」 「浸水想定区域で使うため耐雨水水没性 Class 2 を求める」 「停電後も通信設備を維持するため継続使用可能性を確認する」 というように、必要な Class / Grade を決めます。 そのうえで、その要求を満たしていることを、 JIS・ISO等の公的規格、または ISO/IEC17025 試験所の試験結果、 ISO/IEC17065 認証機関の確認資料によって証明させます。
したがって、調達仕様書では 「Class / Grade を要求水準として指定し、その適合性をどの試験・認証資料で確認するかを別に定める」 という二段構えで記載する必要があります。 Class / Grade は試験機関の名前ではなく、JIS・ISO・ISO/IEC17025・ISO/IEC17065は Class / Gradeそのものではありません。
5. 設置場所別に、必要な要件を決める
NITE第1版の実務上の価値は、蓄電池を「どこに置くか」「どの災害を想定するか」によって、確認すべき要件を変える点にあります。 仕様書作成時は、現場のハザードマップ、過去災害、建物構造、保管場所、搬送経路を確認したうえで、必要な要件を絞り込みます。
| 設置・使用環境 | 主なリスク | 仕様書で見る要件 |
|---|---|---|
| 寒冷地 | 氷点下、寒波、低温下の繰り返し充放電 | 耐低温性(耐寒性) |
| 海・河川沿い | 洪水、津波、鉄砲水、潮風、漂流物衝突 | 耐水没性、耐水性、耐圧性、耐転倒衝撃性、耐衝突性、耐落下性 |
| 道路沿い・線路沿い | 恒常振動、自動車衝突、飛来物衝突 | 耐振動性、耐圧性、耐転倒衝撃性、耐衝突性、耐落下性 |
| 車両内・可搬運用 | 走行振動、搬送時衝撃、落下、転倒 | 耐走行振動性、耐落下性、耐転倒衝撃性、異常検知・記録機能 |
| 避難所・指揮運営所 | 人が集まる場所での発煙・発火・延焼 | 耐類焼性、異常検知・記録機能、通常時保守管理、継続使用可能性 |
| 高温環境 | 酷暑日、屋外盤、密閉棚、空調停止 | 耐高温性(耐暑性)、保守管理、異常検知 |
| 火災・単セル発火想定 | 外火、熱暴走、類焼、可燃性ガス | 耐類焼性、耐火性、異常検知・記録機能 |
6. 試験結果の信頼性をどう確認するか
調達実務で最も重要なのは、メーカーのカタログ文言ではなく、 どの要件の、どのClass/Gradeに、どの試験手法・判定基準で適合したのかを確認することです。 NITE第1版では、JIS・ISO等の公的規格や第三者認証サービスがない場合でも、信頼性のある試験データに基づく調達を推奨しています。
仕様書で提出を求める資料
- ISO/IEC 17025に適合した試験所での試験結果、またはこれに準じる説明資料。
- ISO/IEC 17065に適合した認証機関が信頼性を確認した試験結果、またはこれに準じる説明資料。
- 国・地方自治体等の公的機関が認めた試験評価結果。
- 各要件について、Class/Grade、試験手法、判定基準、試験体条件、前処理条件を明記した試験レポート。
- BMU/BMS、遮断器、異常検知・記録機能、保守手順、回収・隔離手順の資料。
調達仕様では「安全性を有すること」とだけ書くのでは不十分です。提出資料がない、Class/Gradeが不明、試験条件が設置環境と合わない、 判定基準が示されない場合は、検収しない条件を明記する必要があります。
7. RFP・仕様書に落とすチェックリスト
NITE第1版への対応は、本文の要約ではなく、仕様書の項目として書ける状態にすることが重要です。以下は、自治体・重要インフラ向けRFPで最低限確認したい項目です。
用途・設置条件
- 使用目的:行政機能、通信維持、避難所、医療、監視、交通、ライフライン等。
- 設置場所:屋内、屋外、海沿い、河川沿い、寒冷地、道路沿い、車両内、避難所内。
- 想定災害:地震、浸水、塩害、火災、酷暑、寒波、衝突、落下、転倒。
- 通常時の運用:常時接続、待機保管、移動運用、定期搬送、マルチユースの有無。
安全要求・提出資料
- 要求Class:耐地震波衝撃、耐水没性、耐類焼性、異常検知・記録機能など。
- 要求Grade:災害後または想定使用期間中の継続使用可能性。
- 試験資料:試験所、試験方法、判定基準、試験体条件、前処理条件。
- 保守資料:劣化診断、セルバランス調整、異常検知、記録保存、回収手順。
検収拒否条件として書くべき例
- 要求Class/Gradeに対する試験レポートが提出されない場合。
- 試験手法・判定基準・試験体条件が不明な場合。
- 提出資料が設置環境または使用方法と整合しない場合。
- 異常時の停止、隔離、回収、連絡窓口が文書化されていない場合。
- リユース・リパーパス品で、試験体の代表性や予定使用期間中の信頼性データが不足する場合。
8. リユース・リパーパス品、マルチユース品は慎重に扱う
技術資料および使い方ガイドでは、試験体の代表性や使用方法による負荷の問題が整理されています。 特に、リユース・リパーパスされた単電池を用いる蓄電池システムは、現時点では代表性の考え方が十分に定まっていないため、 重要インフラ用途では慎重な扱いが必要です。
また、平時には別用途で使い、災害時には非常用電源として使うマルチユースは、運用上の負荷が高くなりやすい構成です。 調達時には、予定使用期間内の単電池の劣化確認データ、保守周期、使用履歴の記録、異常時の切り離し条件まで求めるべきです。
9. 現場で一番大事な判断:「止める」「隔離する」「戻さない」
非常用電源は「止められない」設備だと思われがちです。しかし、異常兆候が出た蓄電池を無理に使い続けると、 発火・延焼で施設機能そのものを失うリスクがあります。現場では、運転継続よりも安全確保を優先して止める判断基準を、先に決めておく必要があります。
即時に使用中止・隔離すべき兆候
- 膨張、異臭、異常発熱、異音、液漏れ、変色、筐体の割れ。
- 落下、転倒、衝突、水濡れ、浸水、強い振動を受けた履歴。
- BMS/BMUの異常、電圧異常、充電不可、記録上の警報。
- 保守期限超過、使用履歴不明、購入元・製造番号不明。
「外観は大丈夫そう」でも、落下・転倒・衝突の履歴がある場合は、疑義品として扱う運用が安全です。
10. 当社の見解:蓄電池は“買う製品”ではなく“インフラ部材”として調達する
NITE第1版の公開により、公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムは、「容量・出力・価格」の比較だけでは不十分になりました。 今後は、設置場所、想定災害、継続使用の必要性を整理し、Class/Grade、試験データ、保守管理、異常検知、検収条件まで含めて仕様化する必要があります。
蓄電池は“買う製品”ではなく、“非常時に二次災害を起こさず、重要機能を維持するためのインフラ部材”として調達すべき段階に入りました。 とくに自治体防災、通信、監視、医療介護、避難所、指揮運営拠点では、仕様書段階で安全要求を明文化することが、導入後の安全性を左右します。
最終更新履歴
- 公開:
- 正式版対応: (NITE第1版公表に伴い、暫定版前提の記述を全面更新。Class/Grade、仕様書化、試験データ、検収条件を追加)