なぜ国がガイドラインを作るのか:事故と“汎用品扱い”の限界
NITEは暫定版で、重要インフラ用途では通常の民生用途よりも高い安全性が必要だと明記しています。
背景として、海外製を含む不安全な蓄電池が国内に流入する可能性、国内外で火災・爆発事故が多数発生している現実、
そして自治体調達で「電池種と容量だけ指定する例」が散見されることを挙げています。
ポイント
- 問題の中心は、電池そのものよりも「汎用品扱いで仕様が空白になる構造」です。
- 重要インフラでは「安いが危ない」を許容できません。調達仕様で危険品を入口で止める必要があります。
参考(文字+URL):
公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン
https://www.nite.go.jp/gcet/nlab/infra-guideline.html
背景:恐れているのは「安全」よりも「説明不能」になること
防災用途の蓄電池を調達するとき、現場が最も強く意識するのは、
「火災リスクを抱えたまま安価な品を採用した」と見なされるリスク(事故時の責任追及)です。
これは“安全にこだわる”というよりも、事故が起きたときに説明可能性(エビデンス)を失うことへの恐れと言えます。
これまでは、公共調達・重要インフラ用途を前提にした明確な調達基準が十分に整っていませんでした。
そのため、万一事故が起きても「カタログ上の表示に従って購入した」という説明で、一定程度の整理がされてきた面があります。
しかし、NITEが安全性要求事項を明文化したことで、調達実務は一段階進みます。
行政的な「線引き」が起きる
ガイドラインが示された後は、基準を無視した調達で事故が起きた場合、 「予見できたリスクを放置した」と評価されやすくなります。 ここで生じるのは、過去の判断を遡って責めるというよりも、 “今後は基準に沿っているかどうか”が問われる線引きです。
この結果、自治体が今後とる態度は「安全へのこだわり」というよりも、 徹底したエビデンス(証拠)主義への転換になります。 具体的には、次の2点が調達の中心に来ます。
1) 仕様書の厳格化(提出資料の必須化)
仕様書・公告に「NITEガイドライン適合を証明する資料一式を提出すること」と明記し、 提出資料と適合証明を調達要件として組み込みます。
2) 検収条件の強化(入口で止める)
資料不備や不一致があれば受領しない(検収拒否)という条件を明文化し、 型式・ロット・試験成績等の一致確認で入口を閉じます。 “納入後に運用で吸収する”をやめ、納入前に止める設計へ移行します。
さらに現場では、更新のタイミングを待たず「基準更新」を理由に静かに置換する動きや、 室内使用を避ける等の運用制限でリスクを下げようとする動きも起こり得ます。 いずれにせよ、自治体にとってNITEガイドラインは、 安全を高めるための武器であると同時に、 不適切な調達から自分たちを守る盾として機能します。
したがって今後は、価格が上がっても「基準通りに調達した」という説明が立てば公金支出を正当化しやすくなり、 結果として“高くても安全が証明されたもの”が選ばれやすくなります。
公表と説明責任:調達は「内部判断」では終わらない
近年、防災備蓄や避難生活物資については、自治体に対して住民への公表を求める通知も出ており、 防災設備の整備状況は「内部の調達判断」ではなく、 住民・議会に対する説明責任の対象として前面に出てきています。
参考(文字+URL):
内閣府:災害対策基本法等の一部を改正する法律について
https://www.bousai.go.jp/taisaku/kihonhou/pdf/r7_07_sikoutuuti.pdf
この状況では、「基準が示された後も安全要求を満たさない設備を使い続けていた」と見なされること自体が、
事故の有無にかかわらず行政リスクになります。
したがって自治体は、価格ではなく「基準に適合していると証明できるか」を最優先にせざるを得ません。
※重要なのは特定国・特定製品の問題ではなく、調達仕様と提出資料で安全要求を担保できているか、という制度設計です。
「耐低温性(耐寒性)」の意味:Classは“発火・破裂を起こさない条件”
暫定版では寒冷地要件として「耐低温性(耐寒性)を満たすこと」と書かれています。 調達担当の方にとって重要なのは、この文言が曖昧でも、本文側に判断の枠組み(Class)がすでに明示されている点です。
NITEが定義する耐低温性(例)
- Class 2:−5℃環境下で、発火・破裂等がないこと
- Class 3:−20℃環境下で、発火・破裂等がないこと
- Class 4:国内最低気温を想定した環境下で、同様の事象がないこと
※ここでいう「耐寒性」は“性能が落ちない”ではなく、“安全上の重大事故が起きない”という意味です。
寒冷地では「氷点下での繰り返し充放電」が事故の引き金になり得ます。 現場では、内部抵抗上昇・セル劣化・異常充電・熱暴走といった連鎖が、見えにくい形で進みます。
当社解説(文字+URL):
寒さで突然バッテリーが落ちる「寒冷バッテリー切れ」──リチウムイオン電池の低温限界と、寒冷地で“落ちない”安全な代替電源の選び方
https://www.ieee802.co.jp/articles/article-009-lithium-cold-performance.php
暫定版への対応:調達仕様に「提出資料」と「検収条件」を実装すること
暫定版は、方向性(要件の枠組み)を示した段階です。調達実務として重要なのは、 その枠組みをRFP(仕様書)へ落とし込み、納入時に書類と一致確認で止められる状態にすることです。 「あとで運用で吸収する」は、重要インフラでは成立しません。
1) 安全規格・試験を必須化する
IEC 62133-2、UN 38.3 などの適合証明と試験結果を、納入前提出資料として必須にします。 同等規格で代替する場合は「同等性」を客観資料で示させます。
2) BMS(BMU/BMS)を“必須”にする
重要インフラ用途では、セル電圧・温度監視、バランシング、異常時遮断を伴わない提案は採用しません。 電池単体提案を仕様で禁止し、入口で排除します。
3) 「資料不備は受領しない」を検収条件にする
仕様に書かなければ、検収で止められません。提出資料が揃わない場合は受領しない(検収拒否)を明文化し、 型式・ロットの一致確認まで含めた“止め方”を定義します。
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)ダウンロード
本稿の別紙として、自治体防災設備・重要インフラ用途の二次電池調達に必要な最低安全要求を、
仕様書に貼り付け可能な条文テンプレ(見出し階層版)と、提出資料チェックリストとして整理しています。
リクエストフォームからご要求ください。
※本ページからはリクエストフォームへ遷移します。自動ダウンロードではありません。
※チェックリストには、規格・BMS・トレーサビリティに加えて、耐振動・耐衝撃・耐落下、耐圧(破裂防止)、 そして寒冷地用途では −20℃(Class3相当以上)の環境試験成績書を求める項目も含めています。
「容量」から「安全」へ
受注者は、NITEガイドライン適合を証明する提出資料一式を納入前に提出すること。提出資料が揃わない場合、発注者は納入を受領しない。
この1行があるだけで、調達は「容量指定」から「安全要求」へ切り替わります。 そして自治体側は、事故の有無にかかわらず基準に沿った説明可能性を確保できます。
私たちはこの方向性を新しく言い始めたのではありません。 防災・通信・重要インフラ用途では、電源は“汎用品”ではなく、仕様で安全と可用性を担保すべき設備である という点を、10年以上前から現場で主張し続けてきました。
NITE暫定ガイドラインの公表は、その主張が制度側に接続された合図です。 いま求められているのは、新規実証ではなく、既存運用モデルを前提とした標準化(RFP化)です。
※重要インフラ用途では「容量」ではなく、安全要求に適合した構成が必要です。
おわりに:暫定版は「標準モデル化」の合図
NITE暫定ガイドラインは、「重要インフラ用途では高い安全性が必要」という国の整理です。
そして調達の現場で問われるのは、「安全を主張すること」ではなく、安全を客観的に担保できる仕様と検収条件があるかです。
防災用蓄電池は既存運用モデルを前提とした標準モデル化(制度設計)へ移すべき段階に来ています。
まずは、提出資料と検収条件で“入口で止める”調達へ移行することが急がれます。
参照(文字+URL)
-
公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン
https://www.nite.go.jp/gcet/nlab/infra-guideline.html -
寒さで突然バッテリーが落ちる「寒冷バッテリー切れ」──リチウムイオン電池の低温限界と、寒冷地で“落ちない”安全な代替電源の選び方
https://www.ieee802.co.jp/articles/article-009-lithium-cold-performance.php