結論:1500VA級ラックUPSでは「W不足」か「分不足」になる
PoEトラブルが止まらない理由は、PoEバジェットではありません。 UPSが支えるべき対象が「装置全体のW」と「ピーク」だからです。
Wが足りなければ0分。 最大消費がUPSの実効出力を超える局面では、バイパスや停止が起きます。
Wが足りても分が足りない。 1500VA級の内蔵バッテリーでは、PoEスイッチ+下流を 30分・60分・120分といった業務要件で保持できないこと事象が発生します。
PoEは夜間IR同時点灯や復電後の同時再接続で 非定常ピークが出ます。 そのため平均値で設計できません。
1. なぜ「バジェットは余裕なのに落ちる」のか
PoEトラブルの現場で繰り返される言葉があります。 「PoEバジェットは余裕のはずです」。
しかしPoEバジェットは“ポート給電の上限”であり、 UPSが支える装置全体の有効電力(W)とは別の指標です。
現場で起きている混同
- PoE 740W = UPSも740W見ればよい(誤り)
- バジェットに余裕がある = 落ちない(誤り)
- 1500VA UPSを入れた = 安心(誤り)
問題はPoEバジェットではなく、 装置全体の最大消費電力(W)と、そのピークです。 まずここを数値で確認します。
UPS設計の順序:まず定格による「W判定」、次に保持可能な時間「何分もつのか」を調べる
PoE設計で最も多い誤解は、 PoEバジェット(例:740W)=UPSが支える負荷と思い込むことです。 しかしPoEスイッチが接続されているUPSが供給するのは装置全体の有効電力(W)であり、 PoE定格電力とは異なります。
Step1:W判定(有効電力の超過)
1500VAという表記は「容量」ではありません。 実効出力(W)が負荷を上回っていなければ、 UPSはバイパス/停止し、 バックアップ時間は0分になります。
P_load_peak(最大消費W) < P_UPS_max(UPSの実効W)
※P_load_peakはPoEバジェットではなく、 「装置最大消費電力(PoE含む条件)」または実測値で判断します。
Step2:保持時間(何分もつのか)
W判定をクリアして初めて、 PoEスイッチが機能を失わず「何分もつのか」を計算します。いうまでもなく、PoEスイッチはPower Over Ethernet、つまりネットワークケーブルにデータと電力を同時に送る装置ですから、データ通信が出来ているからと言っても機能を失っている場合もあります。
方法A:メーカーランタイム表を基準にする(推奨)
同一UPSでは、負荷が増えると保持時間はほぼ反比例します。
T2 ≒ T1 × (P1 / P2)
- T1:既知の保持時間(例:400Wで25分40秒)
- P1:そのときの負荷W
- P2:求めたい負荷W
- T2:推定保持時間
方法B:Whベースで計算する(理論式)
T(時間)=(UPS実効容量Wh × 効率η) ÷ 負荷W
※実際はバッテリー特性・温度・内部損失で変動するため、 方法Aの方が現場では精度が高いことが多い。
実務で時間が短くなる3要因
- 夜間IR同時点灯などの非定常ピーク
- 復電時の再接続・再認証の同時突入
- バッテリー経年劣化(2〜3年で20〜30%低下)
カタログ値で30分でも、現場では20分未満になることは珍しくありません。
例:400W負荷で25分のUPSに、500Wを載せた場合
T2 ≒ 25.7分 × (400 / 500) ≒ 20.5分
500Wでは約20分。 さらにピークが重なれば、実質15〜18分まで短くなります。
つまり、1500VAという表示だけでは、 「何分もつか」は判断できません。
重要なのは、PoEバジェットではなく 装置全体の最大消費電力(W)と実効出力です。
2. 代表的なPoEスイッチで検証する
では実際の機種ではどうなるのか。 いま整理した「W判定 → 保持時間」の順序で確認します。
次の表は、いまの計算式をそのまま当てはめた結果です。
代表的なPoEスイッチ(2026年):PoEバジェット/装置消費/UPS可否/30・60・120分
ここで確認することは消費電力=Wと保持できる時間(分)です。 消費電力Wが超過していると、バックアップ時間は0分になります。
A) 740W級(UPoE)=“定格オーバーが起きやすい”高性能PoEスイッチ
代表機種
Cisco Meraki MS355
PoE/UPoEバジェット
740W(UPoE)
装置消費(Idle/Max)
110W / 1793W
1500VA/1200W級UPS
Max時は不可(1200W超)
UPSバックアップの目安
最大消費時は1200Wを超えるため、1500VA級UPSでは定格判定でアウトとなる可能性がある
ポイント:
- 「PoE 740W」より先に、装置側が最大1793Wになり得る。
- 1500VA級UPS(供給800〜1200W程度)だと、重い局面で定格超過→UPSが落ちる/バイパス/停止が起こり得る。
B) “最大400〜450W級”=1500VA級UPSでも「分」は伸びない普及型PoEスイッチ
代表機種
NETGEAR GS324PP
PoEバジェット
380W
装置消費(Max/表記条件)
400W(最大)/10W(待機)
SMT1500RMJ2Uでの目安
約25分相当(400Wで25分40秒)
UPSバックアップの目安
公称約25分(400W時)。実運用では20分前後まで短くなるケースもある
代表機種
Ubiquiti USW-Pro-24-PoE
PoEバジェット
(PoE++対応)
装置消費(Max/表記条件)
50W(PoE除外)/ 450W(PoE含む最大)
SMT1500RMJ2Uでの目安
約19〜26分(500Wで19分29秒)
UPSバックアップの目安
公称約19〜26分(400〜500W時)。ピーク重畳時は20分未満になる可能性あり
ポイントを整理:
- 「400〜450Wなら1500VAで大丈夫」→ “分”が全然足りない。
- さらに夜間IR・復電タイミングでピークが重なると、より短くなる。
まとめ:設計対象は給電上限ではなく、最大負荷電力と入力電源条件である
ポート給電上限に余裕があっても停止する現場では、 装置全体の最大有効電力(W)、 夜間IRや再接続時のピーク電力、 そして入力電源の電圧変動が支配的要因となっています。
1500VAという容量表示は設計条件になりません。 必要なのは、最大負荷電力とUPS実効出力(W)の照合、 さらに保持時間を定量的に決定することです。
Part1
症状から切り分ける
夜間再起動・増設後不安定・全断復旧。 それはポートではなく入力側の問題かもしれません。
Part2(現在)
PoEバジェットと電源品質の正体
まずW、次に分。 1500VA級UPSでなぜ不足が起きるのかを数値で整理。
Part3
入力を守る設計へ
可搬型UPSを前段に配置し、 既設ラックUPSを活かしたまま長時間化する。