PSE / PD / Power Budget
1. PoEバジェットはPSEからPDへ供給する電力枠
PoEでは、給電側のPSEと受電側のPDを分けて扱います。 PoEスイッチの「PoEバジェット」「Total Available PoE」などの表記は、複数のPDへ配分できる給電能力を示します。
PSE
PoEスイッチ / インジェクタ
PDへ電力を供給する側。ポートごとの上限と装置全体のPoE給電枠を持ちます。
PD
カメラ / AP / 電話 / センサー
PSEから電力を受ける側。接続台数と電力クラスがPSE側の給電量へ反映されます。
したがって、PoEバジェットの値はPDへ配分する電力の確認に使います。 上流UPSの容量は、次に確認するPoEスイッチの入力電力から設計します。
AC Input / Switch Electronics / PoE Output
2. UPSはPoEスイッチのAC入力負荷を支える
上流UPSから見ると、PoEスイッチは一つのAC負荷です。 その入力電力にはスイッチ本体の回路、ファン、電源変換損失、PDへ送るPoE電力が含まれます。
同じ380Wや400Wという数字でも、PoE給電枠、電源容量、最大入力電力では意味が異なります。 UPS設計では、機器の仕様書にある入力条件を確認し、運用中の実負荷Wを測定します。
VA / W / Maximum Output
3. UPSはVA表示と最大出力Wを分けて確認する
UPSの機種名や容量区分に1500VAと書かれていても、接続できる有効電力は型式ごとに最大出力Wが規定されています。 例えばSchneider ElectricのSMT1500J / SMT1500RMJ2Uは1500VA、最大出力1200Wです。
| 確認値 | 用途 | 設計で使う場所 |
|---|---|---|
| 1500VA | UPSの皮相電力容量 | 機種区分・負荷条件の確認 |
| 1200W | メーカー公表の最大出力W | 接続負荷の上限確認 |
| 400W / 600W / 800W... | 実際にUPSへ接続する負荷 | ランタイム確認 |
VAから一定割合を掛けてWを推定する方法は使わず、対象UPSの仕様書に記載された最大出力Wをそのまま使います。
Manufacturer Specifications
4. 代表機種の仕様値を同じ欄で比較する
メーカー資料に掲載されたPoE給電能力と装置側電力を同じ表へ置くと、数値の役割が明確になります。
| 機種 | PoE給電 | 装置側電力 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| NETGEAR GS324PP | PoEバジェット 380W | 最大 400W / 待機 10W | PoE給電枠380Wと、装置全体の最大消費400Wが別に示されている。 |
| Ubiquiti USW-Pro-24-PoE | Total PoE Availability 400W | 電源 450W / PoE出力を除く最大 50W | PoE給電枠、本体消費、電源容量が別の仕様値として公表されている。 |
| Cisco Meraki MS355 | UPoE 740W | Power Load 110W / 1793W(idle / max) | 高機能構成では、PoE給電能力と装置最大負荷の差が大きい。型式・電源構成を個別確認する。 |
※各数値はメーカー公表値です。実際のAC入力Wは接続PD、給電状態、電源効率、装置構成等で変化するため、UPS出力側で実測して確定します。
UPS Runtime / Manufacturer Table
5. 保持時間はメーカーランタイム表から確認する
UPSの保持時間は負荷Wによって変わります。 Schneider Electricが公表するSMT1500J / SMT1500RMJ2Uの標準値では、負荷増加に伴って保持時間が次のように短くなります。
| UPS負荷 | 標準バックアップ時間 | 設計上の意味 |
|---|---|---|
| 200W | 55分 | 1時間近い保持が可能な負荷帯。 |
| 400W | 25分 | 30分要件へ届かない。 |
| 600W | 15分 | 短時間の停電・安全停止向けの時間帯。 |
| 800W | 10分 | 運用継続より復旧準備時間の確保が中心。 |
| 1000W | 7分 | 停止手順を事前に決める負荷帯。 |
| 1200W | 5分 | 最大出力近傍では保持時間が短い。 |
ここでは概算の反比例式を使いません。 メーカー公表のランタイム表、実機のバッテリー状態、現場負荷を組み合わせて必要時間を確認します。
Measurement / PoE Load / UPS Load
6. 現場では入力WとPoE実負荷を同時に記録する
UPS設計に使う値は、PoEスイッチの管理画面だけで完結しません。 PSE側のPoE割当・実給電と、UPS側の出力Wを同じ時刻で確認すると、下流給電と上流入力の関係を追跡できます。
| 記録する値 | 確認目的 |
|---|---|
| PoE allocated / actual power | PDへどれだけ電力を配分・供給しているか。 |
| PoEスイッチAC入力W | 上流電源が実際に支える負荷を確認する。 |
| UPS出力W / 負荷率 | 最大出力に対する余裕を確認する。 |
| UPSイベント / バッテリー状態 | 停電・瞬低時の電源経路と実保持時間を確認する。 |
| PD台数・運転状態 | IR、ヒーター、無線負荷等の状態変化と電力を照合する。 |
30 / 60 / 120 Minutes
7. 30分・60分・120分を必要負荷Wから確認する
保持時間の要求が先に決まっている場合は、現場負荷Wをランタイム表へ当てます。 例えばSMT1500J / SMT1500RMJ2Uでは400W時の標準値が25分です。 400Wを30分保持する要求では、標準内蔵バッテリーの公表値を超えます。
30分
必要負荷Wを基準に機種を選ぶ
対象UPSの30分時点の許容負荷をランタイム表から確認する。
60分
内蔵電池で届く負荷帯を確認する
200Wでも標準55分の例があり、負荷次第で外部電池や上流電源が必要になる。
120分
長時間電源を別レイヤで確保する
既設ラックUPSの瞬断対策を活かし、上流側で長時間保持する構成も検討対象になる。
長時間化の具体的な構成は、次のarticle-058で扱います。
Design Decision
8. 最終判断:四つの数値を一つの電源設計へつなぐ
PoEバジェット
PSEからPDへ配分できる電力枠を確認する。
AC入力電力
UPSが実際に支えるPoEスイッチの負荷Wを確認する。
UPS最大出力W
現場ピーク負荷を継続して供給できる型式を選ぶ。
保持時間
実負荷Wに対応するメーカーランタイムと実測値で確認する。
この四つを一つの数値へまとめると設計条件が失われます。 給電能力、入力負荷、UPS出力、運転時間をそれぞれ確認し、最後に同じ電源系統としてつなぎます。
Evidence / References
9. 根拠・確認資料
PoE規格、各PoEスイッチの給電・消費電力仕様、UPSの最大出力とランタイムをメーカー一次資料で確認します。
規格一次資料
IEEE 802.3 Ethernet Standard / Power over Ethernet
PoEでPSEとPDを区分し、Ethernet配線上での給電を標準化していること。PSE側の給電能力とPD側の受電条件を分けて扱う基礎。
メーカー一次資料
NETGEAR GS324P / GS324PP / GS348PP Data Sheet
GS324PPはPoEバジェット380W、最大消費電力400W、待機時10Wと公表され、PoE給電枠と装置入力電力が別の数値で示されていること。
メーカー一次資料
Ubiquiti UniFi Pro 24 PoE Technical Specifications
USW-Pro-24-PoEはTotal PoE Availability 400W、内蔵電源450W、PoE出力を除く最大消費電力50Wと公表されていること。
メーカー一次資料
Cisco Meraki MS355 Datasheet
MS355シリーズはUPoE 740W対応、Power Loadはidle 110W / max 1793Wと公表され、PoE給電能力と装置側最大負荷が大きく異なる構成例があること。
メーカー一次資料
Schneider Electric Japan Smart-UPS LCD(SMT / SMX)バックアップ時間表
SMT1500J / SMT1500RMJ2Uは最大出力1500VA / 1200Wで、標準ランタイムが200Wで55分、400Wで25分、600Wで15分、800Wで10分、1000Wで7分、1200Wで5分と公表されていること。