結論:可搬型UPSをコンセント側に入れ、PoEの全断・再起動ループを止める

PoEトラブルの多くは、ポート給電上限の不足ではありません。 コンセントから供給される電源の揺らぎ(瞬低・復電イベント・立ち上がりの不安定性)と、 夜間IRや同時再接続などの非定常ピークが重なり、 スイッチ入力側で保護動作が発生することが原因です。

既設ラックUPSの構成を崩さず、 その入力コンセントとUPSの間に可搬型UPSを挿入し、 電源品質を切り離すことで、 PoEが保護動作に入る確率を下げることができます。

PoEを止めないための設計条件

  • 守る対象はPoEスイッチの入力: 下流ポートではなく、装置全体が落ちない条件を作る
  • 瞬低・復電イベントを切り離す: 全断→再起動ループを発生させない
  • 1500VA級ラックUPSのW不足/分不足は、 コンセント側の前段追加と負荷分散で回避する

1. どこを守るのか:PoEスイッチの入力電源条件

PoEトラブルの多くは、ポート給電上限ではなく、 入力電源条件が崩れたときに発生します。 したがって設計対象は、ポート単位ではなく PoEスイッチの入力(コンセント側)です。

夜間IR同時点灯、復電時の再接続、突入電流。 これらが重なった瞬間に入力電圧が揺らぐと、 装置は保護動作に入り、全断→再起動ループに入ります。

基本構成(入力を切り離す)

  • 商用電源 → 可搬型UPS →(既設ラックUPS)→ PoEスイッチ
  • 既設UPSはそのまま活かし、前段で入力条件を安定化する
  • 目的は「保持時間の延長」だけでなく、「揺らぎを通さないこと」

2. 入力側で切り離せる現象と、その設計的意味

入力イベント PoE側の挙動 前段追加時の挙動 設計上の意味
瞬低(電圧低下) スイッチ電源部が保護動作 → 再起動 入力を一定電圧で保持 “なぜか落ちる”の発生源を遮断
瞬断〜短時間停電 全断 → 下流機器一斉再接続 無瞬断で給電継続 再接続ピークを発生させない
復電時の電圧乱れ 起動失敗/再起動ループ 安定出力に変換して供給 復電後も安定動作
商用電源の揺らぎ 不定期な誤動作 入力変動を吸収 再発率の低減

※ポート過負荷・ケーブル不良・規格不一致は別レイヤー(Part1/2で切り分け)。

なぜ既設ラックUPSを残すのか(電気的意味)

可搬型UPSを前段に追加する場合でも、 既設ラックUPSは取り外しません。 これは冗長化のためだけではありません。

① 二段バッファ構成になる

前段UPSが商用電源の揺らぎを吸収し、 後段ラックUPSが瞬間的な突入や負荷変動をさらに平滑化します。 結果として入力条件が安定します。

② 波形安定が重なる

前段で電圧変動を吸収し、 後段で再整形されることで、 スイッチ電源部に入る波形がより安定します。

③ 役割分担ができる

前段は「入力品質の安定化」、 後段は「局所負荷への瞬時応答」。 役割を分けることで、 全断リスクを構造的に下げられます。

置き換えるのではなく、重ねる。 これがPoEを止めない構成の考え方です。

3. 30/60/120分を成立させる:入力を安定させたうえで、保持時間を設計する

前段で入力条件を安定させることで、 「瞬低や復電で落ちる」問題は抑えられます。 しかし停電そのものが続く場合、 最終的に効くのは保持時間(Wh)です。

目標が30分なのか、60分なのか、120分なのかで、 必要なエネルギー容量はまったく変わります。 ただしその前提として、まずW(定格)条件を満たす必要があります。

設計の順序

  • ① 定格条件:UPS実効W ≥ 想定最大負荷W(ピーク込み)
  • ② 時間条件:必要Wh ≒ 目標負荷W × 目標時間h ÷(効率・劣化・余裕)
  • ③ 余裕率:PoEは非定常ピークがあるため10〜30%を見込む

分散設計が有効な理由

  • ラックUPS 1500VA級のW上限に縛られにくい
  • ピークが重なる系統を分け、全断リスクを下げられる
  • 止めない時間(30/60/120分)を現実的に積み上げられる

4. 再発させないための設計プロセス(現場で再利用できる型)

  1. 症状を分類する
    夜間再起動/増設後不安定/全断→再投入復旧。 まず“ポート問題か、入力問題か”を切り分ける。
  2. 装置全体の最大負荷電力(W)を把握する
    PoE給電上限ではなく、装置消費(Idle/Max)とピーク条件で現実値を作る。
  3. UPS実効出力(W)と照合する
    定格超過ならバックアップ時間は0分。 収まっても保持時間が要件(30/60/120分)を満たすか確認する。
  4. 入力条件を切り離す(前段追加)
    コンセント側に可搬型UPSを追加し、 瞬低・復電イベント・電圧揺らぎをPoE入力へ通さない。
  5. 既設UPSは残す
    既存ラックUPSを撤去せず、前段に追加することで 既存システムを停止させずに電源増強が可能。 二段構成にすることで、 電気的には「冗長・二段バッファ・波形安定」の効果も得られる。
  6. 結果を検証する
    夜間再起動ゼロ、全断ゼロ、復電後障害ゼロ。 数値とログで確認する。

実装例:テナントビルでの前段(コンセント側)保護構成

下図は、実際のテナントビル環境で可搬型UPSを ラックUPSの入力コンセント側に配置した例です。

ビル受電条件に依存せず、 PoEスイッチへ供給される入力電源を安定化させることで、 全断や再起動ループを抑制しています。

テナントビルでの可搬型UPS前段設置例
テナントビルでの実装例。既設ラックUPSの構成を変更せず、 コンセント側で入力条件を安定化。

ポイントは「置き換える」のではなく、 既設UPSの前段に追加するという発想です。

まとめ:PoEを止めない設計は、最大負荷=WPと入力電源条件の管理で決まる

PoEスイッチは、ポート給電上限だけでは設計できません。 実際に停止を招くのは、 装置全体の最大有効電力(WP)、 夜間IRや同時再接続による非定常ピーク、 そして入力電源の瞬低・復電イベント・揺らぎです。

1500VAという容量表示は安全の保証ではありません。 必要なのは、 最大負荷WとUPS実効出力Wの照合、 そして保持時間(30/60/120分)の定量設計です。

可搬型UPSをコンセント側に追加し、 入力条件を安定化させることで、 全断・再起動ループは止められます。