自治体・防災担当向けガイド(2025年版)
自治体・防災担当向けFAQ
ポータブル電源・大容量蓄電池の調達・運用・保管に関する実務Q&A(2025年版)
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東京都内では、リチウムイオン電池関連の火災が過去最多ペースで増加しており、2025年上半期の火災は9月末時点で228件、前年同期比52件増となっています。
過去最多だった前年(243件)を上回るペースで、そのうちモバイルバッテリーが全体の3割以上を占めています。
また、2025年7月29日午前8時45分頃、福岡県糸島市の加布里コミュニティセンターで発生した火災では、会議室で充電中だった災害用電源(リチウムイオン電池内蔵)が原因とされています。
このバッテリー充電は同日夕刻、ロシア極東カムチャツカ地方で発生したM8.7地震による津波警報が発令される中で行われており、予防的措置の最中に発生した事故でした、BCP対策としてのリチウムイオン電池採用・運用リスクが具体的な形で露呈した事例といえます。
現在国内で流通する多くのポータブル電源は深圳ODMモデルに依存し、製造者(ODM)・セル・BMS仕様などが十分に開示されないケースが多数存在します。
2026年4月には廃棄・回収義務化も予定されており、自治体の備蓄品が「終わらせ方のコスト」を抱える問題も顕在化しています。
こうした火災増加・制度変化・サプライチェーンの不透明化を踏まえ、自治体が実務で押さえるべきポイントを整理した
「調達・保管リスクFAQ(2025年版)」 を公開しました。
本資料は、各自治体が「安全性と持続可能性を重視した調達・運用判断」を行うための材料を提供することを目的としています。
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本記事の内容をベースにした 「ポータブル電源・大容量蓄電池 調達仕様書(防災・BCP用途)」のドラフトを PDF 形式でご用意しています。庁内検討・議会説明用のたたき台としてご活用ください。
【自治体・防災担当向けFAQ】ポータブル電源・大容量蓄電池の調達・運用・保管に関する実務Q&A
ここでは、基礎自治体〜広域自治体の 防災・危機管理・管財・調達部門 から実際によく寄せられる論点を中心に、 実務で押さえるべきポイントを Q&A 形式で整理します。
Q1. 最近、ポータブル電源の火災事故が増えているのは本当ですか?自治体の備蓄にも影響がありますか?
A1. はい。全国的に リチウムイオンバッテリー起因の火災は増加傾向にあります。 その中で、大容量ポータブル電源(インバータ内蔵・複数セル搭載・高出力対応)は 構造上のリスクが高く、事故が起きた際の被害が大きくなりやすいカテゴリです。
自治体備蓄への影響としては、例えば次のような点が挙げられます。
- 防災倉庫内での発火リスク
- 経年劣化したバッテリーの事故率上昇
- 保管環境(高温・湿度)の影響
- 指定管理者・施設担当者の運用知識不足
特に、停電時に多数の機器を同時接続する状況が想定されるため、 一般家庭より事故リスクは高まると考えるべきです。
Q2. 自治体が特に注意すべき“サプライチェーン上の問題”とは何ですか?
A2. 最も重要なのは、現在の大容量ポータブル電源の多くが 深圳 ODM(委託製造)モデルに依存していることです。
このモデルでは、おおむね次のような構造になっています。
- 製品設計:深圳の ODM
- セル(電池):中国のセルメーカー
- 組立:ODM 工場
- ブランド:日本/海外の販売会社がロゴを付けるだけ
このため、自治体が調達する時点では 「真の製造者(ODM)」が見えにくい 問題があります。
さらに、
- 同じ ODM 製の製品が複数ブランド名で売られる
- 表示は違っても中身が同じ設計・セル構成である
- ODM は事故・廃棄の責任を負わない契約であることが多い
- 輸入販売会社が PL 法上の責任を 100% 負う
つまり自治体は、見た目のブランドではなく 製造責任主体(ODM)を意識しないと、 想定外の事故・回収リスクに備えられません。
Q3. 中国の「3C認証」強化が、自治体にどんな影響を与えるのですか?
A3. 影響は非常に大きいと考えるべきです。 中国は 2023〜2025 年にかけて、 リチウム電池・ポータブル電源の 3C 認証を義務化・強化しました。
主なポイントは次のとおりです。
- 強制性产品认证管理规定(3C 基本令)
- 第2条:国家安全・消費者安全のため、認証無しでは出荷・輸入不可
- 第4条:対象品目は認証カタログに従う
- 2023年 SAMR 第10号公告
- リチウム電池・パワーバンクを 3C 対象へ追加
- 2024年8月1日以降:CCC 未取得品は中国国内で出荷・輸入できない
その結果として、
- 深圳の零細 ODM が 3C 対応できず、大量に市場から退出
- 生産が不安定化し、品質のばらつきが拡大
- 3C に落ちたロットが、越境 EC や海外向け“在庫処分”として流れやすくなる
- 本来の仕様書と異なるセルが使われる可能性が高まる
つまり自治体が調達する製品が、 正規ロットなのか/3C 落ちロットなのか/過剰在庫の処分品なのか を事前に確認しないと、判断が難しい状況になっています。
Q4. 自治体が調達する際、どんな点を必ず確認すべきですか?
A4. 最低限、以下の 「6点セット」 を確認することを推奨します。
【① 製造者(ODM)の明示】
- ブランドではなく、ODM 企業名
- 工場所在地・工場番号
- どの製造ラインで作られたか
【② セルメーカーの明示】
- CATL/EVE など信頼性のあるセルか
- セルの安全認証(UN38.3/IEC62133)
- セルロットの追跡番号
【③ BMS(保護回路)仕様】
- 過電流保護値
- 過充電保護値
- 温度制御(サーミスタ数)
- 放熱設計
【④ 認証(PSE/3C/CE)の原本提示】
- PDF ではなく「原本番号」
- OEM 他社の転用証書でないか
- 整合性のある試験報告書か
【⑤ 保守契約の有無】
- バッテリー交換可否
- 修理体制
- 交換ロットの管理方法
【⑥ 廃棄・回収計画の明示】
- 誰が最終責任を負うか
- 回収窓口
- 災害後の廃棄コスト試算
上記のうち1つでも曖昧なら、自治体調達は避けるべきです。
Q5. 保管場所における安全対策は? 防災倉庫に置くのは危険ですか?
A5. リチウム電池は「可燃物」かつ「発火時の消火困難性」があるため、 防災倉庫での保管には次のようなリスクがあります。
- 高温倉庫での熱暴走
- 湿度・結露による劣化
- 長期放置によるセル膨張
- 他の可燃物(毛布・紙類・燃料など)への延焼
【保管の原則】
- 気温 15〜25℃ の安定した環境
- 直射日光・高湿度・結露を避ける
- 満充電・空充電で放置しない(50% 前後)
- 端子ショート防止のための梱包・保護
- 異常時の隔離スペース・保管容器の確保
【防災倉庫での注意】
- 断熱性が高い倉庫は夏季に過熱しやすく危険
- 毛布・カセットボンベなど可燃物とは完全に区画分離
- 大量備蓄は分散配置が基本(1箇所に集中させない)
「防災倉庫に置く=危険」ではありませんが、通常の倉庫管理以上の注意が必要です。
Q6. 2026年4月からの「廃棄・回収義務化」で、自治体負担はどう変わりますか?
A6. 自治体の負担は確実に増えます。 政府は 2026 年 4 月から、 モバイルバッテリー等を指定再資源化製品として追加予定です。
● 自治体負担の明確化
- 使用済み蓄電池の回収
- 分別(可燃・不燃では対応不可)
- 安全保管
- 運搬(危険物扱い)
- 専門業者による解体・リサイクル
● 問題は「既に購入済み」の製品
防災倉庫に何百台と眠っている旧モデルについて、 誰が廃棄費用を負担するのかは自治体の判断に委ねられます。
1台あたりの廃棄コストは、 3,000〜12,000円(容量・セル構成により上下) が相場で、調達価格(2〜5万円)の相当割合を占めます。 大量備蓄している自治体ほど、将来コストが膨らむ形となります。
Q7. 自治体として“安全な調達”を行うために、最終的に何を基準にすべきですか?
A7. 専門的ではありますが、最終的に自治体が判断すべき項目は 次の 3 点に集約されます。
【① 製造責任主体(ODM)を特定できるか】
- これは必須条件です。
- ODM 非開示=調達を避けるべきレッドシグナルと考えるべきです。
【② バッテリー安全性の独立評価(第三者試験)があるか】
- メーカーの自己申告や PDF 証書だけでは不十分です。
- 追跡可能な試験番号のある第三者機関(TÜV 等)の評価が望ましいです。
【③ 回収・廃棄までの責任範囲が明確か】
- 調達時点で回収窓口・廃棄費用・保証期間を文書化すべきです。
- 「最後は自治体が対応」となる契約は、原則として避けるべきです。
総括すると、自治体は “買う前に、終わり方を見る” ことが極めて重要です。
ポータブル電源は有用性が高い一方で、 調達しやすいが、終わらせ方は難しい製品です。 本FAQが、防災担当・危機管理部局・調達部門における 安全性と持続可能性を両立した意思決定の一助となれば幸いです。
自治体向け
ポータブル電源・大容量蓄電池 調達チェックリスト50項目(防災・BCP用途)
以下のチェックリストは、自治体が 「中国 モバイルバッテリー リコール/ポータブル電源 リコール」 といったリスクを前提に、 調達・運用・廃棄までを一貫して設計するための視点をまとめたものです。 庁内の検討メモ・仕様書ドラフトの材料としてご活用ください。
【A. 基本要件・用途定義】
- ☐ 使用目的が明確か 防災用(避難所)、平時のイベント、業務継続(BCP)など、主目的を文書で定義していますか。
- ☐ 想定使用シナリオを具体化しているか どの機器を何台・何時間動かすのか(例:スマホ充電、照明、医療機器など)をリスト化していますか。
- ☐ 必要な総電力量(Wh)を計算しているか 「なんとなく大容量」ではなく、必要 Wh を試算した上で容量を決めていますか。
- ☐ 出力要件(W・波形・端子仕様)を定義しているか 正弦波/疑似正弦波、AC100V、USB-C PD など、必要な出力仕様を明文化していますか。
- ☐ 保管場所・温度条件を事前に決めているか どこに、どのくらいの台数を分散保管するか決めた上で調達していますか。
【B. 製造者(ODM)・サプライチェーン】
- ☐ ブランドだけでなく製造者(ODM)名が開示されているか 「どの工場で作っているのか」を、会社名+所在地レベルで把握していますか。
- ☐ 製造工場の所在国・都市を把握しているか 少なくとも「国+都市(例:広東省深圳市)」レベルで確認していますか。
- ☐ ODM が他ブランド向けに供給している実績を確認したか 同じ ODM 品が別ブランド名で出ていないか、可能な範囲で情報を収集しましたか。
- ☐ ODM との契約関係を輸入販売会社が明確に説明できるか 代理店・商社が「どの立場」で関与しているか(一次代理か、転売か)を確認しましたか。
- ☐ ODM 側の品質保証体制(ISO9001 等)の有無を確認したか 単なる工場ではなく、品質マネジメントの枠組みを持っているか確認しましたか。
【C. セル(電池)・技術仕様】
- ☐ セルメーカー名・セル型番が開示されているか CATL・EVE 等の大手か、無名ローカルメーカーかを確認していますか。
- ☐ 採用セルのデータシートを取得しているか 容量、内部抵抗、サイクル寿命、安全規格などが記載されたデータシートを確認しましたか。
- ☐ セルの安全認証(UN38.3/IEC62133 等)が明示されているか セル単体としての安全試験を通過していることを確認しましたか。
- ☐ BMS(保護回路)の仕様が文書で提供されているか 過電流/過充電/過放電/温度保護の値と動作ロジックが説明されていますか。
- ☐ 熱設計(放熱構造・ファン制御)について説明を受けているか 高負荷連続運転時の温度管理方針を確認しましたか。
【D. 安全認証・法規制対応】
- ☐ 日本の PSE 法への適合状況を確認したか AC 充電アダプタ部など、電気用品安全法の対象部分の PSE マークと認証番号を確認しましたか。
- ☐ CE/FCC/UL などの国際認証が“正式に”取得されているか PDF だけでなく、認証番号を第三者機関サイトで確認しましたか。
- ☐ 中国 3C(CCC)制度への対応状況を確認したか 対象製品である場合、現在も CCC 有効かどうか説明を受けましたか。
- ☐ 認証書が他社製品の“流用”でないことを確認したか 型番・写真・仕様が一致しているか、別モデルの証書を転用していないかを確認しましたか。
- ☐ 日本国内での事故・リコール歴を確認したか 同型機または同セル/同 ODM 由来の事故・回収情報を可能な範囲で調査しましたか。
【E. 品質管理・トレーサビリティ】
- ☐ ロット番号で製品を一意に識別できるか 個体・ロットレベルで追跡できるシリアル体系がありますか。
- ☐ ロットごとの製造年月日が把握できるか 倉庫に置いた製品を「いつ作られたものか」後から確認できますか。
- ☐ ロット単位での不具合情報共有の仕組みがあるか メーカーが同ロットに問題を検知した際、自治体に通知するプロセスがありますか。
- ☐ 出荷前検査項目・検査記録の概要を提示してもらったか 出荷検査の内容(外観・容量・保護動作など)を説明してもらいましたか。
- ☐ 長期保管(3〜5年)を前提とした劣化評価を行っているか 「5年倉庫保管後にどの程度の性能・安全性を維持する想定か」を確認しましたか。
【F. 契約・PL・保証】
- ☐ 契約書で PL 法への対応方針が明記されているか 事故発生時の責任分担・報告義務を文書化していますか。
- ☐ 輸入販売会社が PL 保険に加入しているか 保険の有無・保険金上限などを確認しましたか。
- ☐ 自治体側が加入すべき保険の要否を検討したか 庁内のリスク管理部門とも連携して検討しましたか。
- ☐ 保証期間とその範囲(容量低下・故障)が明確か 「何年・どの範囲」が保証対象かを明記していますか。
- ☐ 大規模リコール時の対応フローが事前に定義されているか 誰が、どのチャネルで、どのように回収・代替を実施するのか合意していますか。
【G. 運用・保守・点検】
- ☐ 定期点検の頻度・内容が決められているか 例:年1回の充放電試験/外観チェック/端子確認など。
- ☐ 職員向けの運用マニュアルが提供されているか 電源オン/オフ、充電方法、同時接続制限などの手順書がありますか。
- ☐ 利用者(避難者)向けの簡易利用ガイドを準備できるか 避難所で掲示できるレベルのシンプルな説明資料の提供を受けていますか。
- ☐ 使用履歴・貸出履歴を管理できる仕組みがあるか どの機器がどこで使われたか、記録を残せる運用になっていますか。
- ☐ 高負荷運転時(ドライヤー等)の利用制限ルールを決めているか 接続禁止機器や、同時最大負荷の制限をルール化しましたか。
【H. 保管・安全管理】
- ☐ 保管温度条件(推奨範囲)をメーカーから明示されているか 15〜25℃ 等、具体的な数値で明示されていますか。
- ☐ 防災倉庫など高温リスクがある場所の場合、追加措置を検討したか 空調・換気・断熱など、必要な対策を検討しましたか。
- ☐ 満充電状態の長期放置を避ける運用になっているか 保管前に 50% 程度まで放電するなどの運用ルールがありますか。
- ☐ 万一の発火時の対応手順(初期消火・隔離)が決まっているか 水ではなく、消火器・砂・防火シートなどの利用手順を定めていますか。
- ☐ 他の可燃物(毛布・紙類・燃料等)と物理的に分離保管しているか 延焼リスクを低減するレイアウトにしていますか。
【I. 回収・廃棄・2026年以降の制度】
- ☐ 使用済み・故障品の回収フローが事前に決まっているか 住民・避難所・庁舎からの回収窓口をどうするか決めていますか。
- ☐ メーカー/販売会社が廃棄・リサイクルまで責任を持つか契約で確認したか 「自治体がすべて負担」にならないよう条項を入れていますか。
- ☐ 1台あたりの廃棄・リサイクルコストの概算を把握しているか 将来予算に見込むべき金額を確認しましたか。
- ☐ 2026年4月以降の指定再資源化制度との整合性を検討したか 制度変更を見越して調達数量・タイミングを考えていますか。
- ☐ リコール・廃棄時の予算措置(基金・予備費)を検討したか 大量回収が発生した場合の財源をどのように確保するか検討しましたか。
【J. 調達プロセス・総合判断】
- ☐ 価格だけでなくライフサイクルコストで比較しているか 購入価格+保守+回収・廃棄まで含めて比較検討しましたか。
- ☐ 技術部門・防災部門・財政部門・法務部門が合同で審査したか 一部門だけで決めず、関係部門でリスク共有しましたか。
- ☐ 品質・責任体制を満たす国内メーカー・国内組立品も候補に入れたか 単に「安いから海外 ODM」に偏っていないか見直しましたか。
- ☐ 「買わない」という選択肢も一度真剣に検討したか ディーゼル発電機、既存設備の強化など他手段との比較を行いましたか。
- ☐ 「この条件なら自治体として住民に説明できる」と胸を張れるか 議会・住民・メディアから問われたとき、説明責任を果たせる内容になっていますか。