シリーズ:Wi-Fi HaLow(802.11ah)の落とし穴

Part2:電気で沼落ち編

Part1(電波編)では、サーベイ・施工・干渉の落とし穴を整理しました。 Part2では、現場停止の本命である電源・PoE・監視に焦点を当てます。

1. まず現実:方式を変えても、電源が落ちれば止まる

802.11ahを選んでも、「電波が切れた」の正体が機器の再起動なら、結果は変わりません。 エッジの停止は、無線方式より給電方式と電源品質で決まることが多いからです。

“止まった”の実態(典型)

  • PoEスイッチが瞬停で再起動し、下流の機器が一斉に落ちる
  • 復帰後に再認証・再接続が走り、業務復帰が遅れる
  • 現場は「無線が不安定」と言うが、根は給電

関連:瞬停・瞬低ゼロ(0ms)で“止めない”

瞬停・瞬低を0msで吸収する電源設計については、 可搬型UPSで「瞬停・瞬低ゼロ」の現場に ──0ms切替・純正弦波・“止めない時間”の設計 で詳しく解説しています。

2. 落とし穴:天井コンセント+ACアダプター運用(前例で決まる構成)

現場でよくあるのが、「天井付近にコンセントを付けてACアダプターで給電しましょう」という進め方です。 これは“動けばOK”の構成で、止めない運用には向きません。

ACアダプター運用が地雷になる理由

  • 瞬停・電圧低下で落ちやすい(停止→復帰が読めない)
  • 遠隔での電源断・復帰(リブート)ができない
  • 死活監視と復旧手順が属人化しやすい
  • 台数が増えるほど、電源経路が“増殖”して管理不能になる

結論:エッジは“死活監視できる構成”に寄せる。ここが要件です。

3. 正解:PoEスイッチ中心設計(ポート制御・トラフィック管理・死活監視)

802.11ahのように“エッジで通信する”構成ほど、 PoEスイッチ中心設計が有効です。 PoEは単なる給電手段ではなく、 運用(監視・制御・復旧)の基盤になるためです。

PoEの強み(運用で勝つ)

  • ポート制御:遠隔で給電OFF/ON(リブート)が可能
  • トラフィック管理:優先度や帯域で“守る通信”を制御できる
  • 死活監視:リンク状態・給電状態・端末応答を可視化できる
  • UPS一括保持:通信中枢をまとめて保護できる

エッジ設計の必須要件

  • 落ちたことが分かる(死活監視)
  • 遠隔で復旧できる(リブート制御)
  • 原因を切り分けられる(ログと経路の可視化)

“届く”より先に、“落ちたらどうする”を設計する。 これはRFPにおける必須項目です。

通信方式が何であれ、給電が止まればネットワークは停止します。

特に天井設置のACアダプター運用は、 現場復旧性・監視性の観点から推奨できません。

PoEスイッチによる集約給電とポート制御、 さらに死活監視を組み合わせることで、 障害時の復旧時間を大幅に短縮できます。

関連:制御・通信電源という設計思想

自動化が進むほど重要になる「制御・通信電源」の考え方については、 自動化の次に来る盲点——理論値サイクルタイムを守る「制御・通信電源」の設計 で詳しく解説しています。

4. 『消費電力の謎』:低消費が売りのはずなのに、なぜ消費電力=Wが書きにくいのか

「802.11ahは低消費電力」というイメージが先行しますが、ここで混同が起きます。 低消費電力が効くのは“端末(センサー等)側”であり、 インフラ(AP/中継/ゲートウェイ)側は常時稼働が前提です。

“W”表記が難しくなる典型要因

  • 運用モード(AP/リピータ/ブリッジ等)で負荷が変わる
  • トラフィック量・接続台数・送信条件で電力が振れる
  • Ethernet/管理/暗号処理などベース負荷が支配的になる
  • 設計で重要なのは「平均W」より「止めない(保持する)」

だからこそ、設計は“実測+総量設計(PoE予算)+UPS保持”で前提を固めます。

実務Tips:消費電力は“台数×総量”で考える

  1. PoEスイッチの総給電容量と、台数の見込みを先に出す
  2. ピーク条件(再接続・同時通信)を含めて実測する
  3. UPSは“全部”ではなく“通信中枢”を重点保護する

Notice:低消費電力という言葉への誤解

Wi-Fi HaLowは「低消費電力」が特長と説明されます。 しかし実際には、カタログに平均消費電力が明確に記載されていない 製品も少なくありません。

その理由は、消費電力が規格で固定されるものではなく、 実装と運用条件に強く依存するためです。

  • 送信間隔(常時通信か、間欠通信か)
  • 送信出力設定
  • 再送回数(干渉環境で増加する)
  • 暗号化処理負荷
  • 待機受信時間(Listen動作)

特にインフラ側(AP/ゲートウェイ)は常時待機動作を行うため、 センサー用途のような“劇的な低消費”とは同列に語れません。

さらに重要なのは、 システム全体での消費電力です。 PoEスイッチ、上位ネットワーク機器、常時監視装置まで含めると、 「無線方式が低消費」であることと、 「システムが低消費」であることは別問題になります。

RFPで明示すべき項目

  • 最大消費電力(PoEクラス含む)
  • 代表運用条件での平均消費電力
  • 瞬停後の復帰時間(再起動〜再接続)
  • 同時接続時の消費電力変動

まとめ:止めないのは無線方式ではない。“設計(運用+電源)”です

802.11ah(Wi-Fi HaLow)は有力な選択肢ですが、現場で止まる理由の多くは電波ではなく電源です。 エッジ運用では「落ちたら戻せる」「落ちたと分かる」を要件に入れ、PoE中心設計とUPS重点保護で成立させます。

次にやるべき最短チェック

  • PoEスイッチ中心に構成できるか(ポート制御・監視・復旧)
  • 通信中枢をUPSで重点保護できるか(瞬停で落とさない)
  • 消費電力は実測し、PoE総量・UPS容量に反映できるか

参照(文字+URL)

  • Wi-Fi HaLow(Wi-Fi Alliance 公式解説)
    https://www.wi-fi.org/discover-wi-fi/wi-fi-halow

※本稿は一般論(設計思想)です。構成は要件(死活監視・復旧・保持時間)に依存します。

付録:電気で沼落ちしないための「完成条件」テンプレ

方式がWi-FiでもWi-Fi HaLowでも、「給電が落ちれば通信は止まる」は同じです。 特に現場で多い失敗が、天井付近のACアダプター運用と、 PoEスイッチ/エッジ機器の死活監視なしです。 以下は、RFPが無い現場でも使える最小テンプレです。 (コピーしてお使いください)

※ここが未定義だと「電波はOKなのに現場が止まる」事故が起きやすいです。

「RFP(提案依頼書)」

目的・完成条件・責任範囲を明文化した文書を、 一般に RFP(Request For Proposal:提案依頼書) と呼びます。 “正式なRFP”が無い現場でも、この1枚があるだけで事故率は大きく下がります。

あわせて読む

※このシリーズは「電波(設計・施工・サーベイ)」と「電気(PoE・監視・瞬停対策)」を分けて理解すると、最短で改善できます。