1. 非常用設備が有事に動かないことを想定する

非常用設備は、平常時から稼働状態を把握し、異常を検知し、必要な保守を行い、有事には必要な機能を維持し、その後の本復旧まで正常な構成へ戻していく設備です。

UPSのバッテリーが劣化していても、商用電源が正常であれば、下流のPLC、SCADA、通信装置、水位計、圧力計、電動弁、制御リレーなどは平常時には動作します。UPSをバイパスした場合も、商用電源が継続している間は設備全体が正常に見えることがあります。

通常時には当然に機能し、非常時にも連続して機能する。

そして通常復旧までの一連のプロセスが正常に行われて初めて、非常用設備として成立します。

したがって設計時には、UPS故障、バッテリー交換、発電機不始動、通信断、制御装置交換、長納期、本復旧の長期化までをあらかじめ運用条件として持つ必要があります。

発電機、蓄電池、UPSを保有することと非常時に機能が成立する条件については、「なぜ『非常用』は、そのとき使えないのか?」で、燃料、切替、接続、優先負荷まで含めて扱っています。本稿では、その設備を異常認識後から本復旧までどう維持するかに焦点を当てます。

2. バッテリー寿命と年度予算は、同じ時計、同じ財布で動かない

UPSのバッテリーや電源装置は、年度予算に合わせて劣化するわけではありません。例えば6月に交換警報が出ても、その年度の設備予算が確定していれば、交換費をすぐに執行できるとは限りません。

設備の時計

劣化、交換警報、故障、部品供給期限、メーカー保守期限は、設備の状態によって進みます。

行政・調達の時計

現地確認、仕様決定、見積、予算措置、契約、発注、納入、停電作業、試運転の順で進みます。

さらに公共設備では、新設・整備、維持管理、消耗品交換、更新、災害復旧、予備機保有が、それぞれ異なる予算区分で管理される場合があります。国庫補助等を用いて整備された施設でも、供用開始後の保守・更新は管理主体側の維持管理予算で進める構造があります。

盤組込みUPS、特殊電圧、DC電源、外部接点、通信機能を持つ設備では、本体交換に加えて盤改造、設計変更、工場製作、現地試験が必要になる場合があります。このとき管理対象となるのは、交換部品の価格だけでなく、異常認識から本復旧までの時間です。

3. 保証・災害共済と、機能を維持する仕組みは役割が異なる

公共設備では、メーカー保証や公有財産災害共済など、故障・災害後の費用負担を支える仕組みが利用される場合があります。これらは復旧費用を支える重要な制度です。

一方、実際の復旧では、被害確認、現地調査、修理・交換判断、損害額・交換額の見積、保証・共済の確認、予算措置、必要な承認、契約・入札、発注、製作、納入、施工、試運転という工程が進みます。

費用を回収できる見通しと、本復旧まで機能を維持できることは別の時間軸です。

本復旧まで何日・何週間・何か月かかるかを見積もり、その期間をどの予備系・代替設備でつなぐかを先に決めます。

4. 広域災害では、財政支援の条件も「制度時間」になる

広域災害では、被害規模が大きくなるほど、災害復旧事業、国庫負担、激甚災害指定など、その後に利用できる財政支援の条件が管理主体の判断材料になります。

激甚災害制度は、地方公共団体の災害復旧事業等について国庫補助率のかさ上げ等を行う制度です。内閣府は、激甚災害の指定と補助金等の交付が同時ではないことも示しています。

また、国土交通省は、速やかな復旧が必要な箇所について災害査定を待たずに応急工事を行えることを案内しています。制度上の着工可否と、財源負担の見通しが立つまでの行政判断は分けて考える必要があります。

本稿では、このような技術以外の復旧所要時間を「制度時間」と呼びます。非常用設備は、この制度時間の途中でも必要な機能を維持できる構成にしておく必要があります。

5. 予備機は、本復旧までの時間を担当する設備である

主設備が正常に動いている期間、予備機やコールドスタンバイ機は稼働時間が少なく、予算上は「使用していない設備」に見えやすくなります。

しかし、予備機の役割は主設備を失った時点から始まります。主UPSの交換品納期が3か月であれば、予備機はその3か月を埋めるために存在します。数時間で切り替えられるコールドスタンバイがあれば、必要機能を維持した状態で修理・査定・予算・調達を進められます。

予備機は、余っている設備ではなく、本復旧までの時間を担当する設備です。

当社の現場経験でも、高い信頼性が要求される施設で主系設備は予算化されても、予備系や交換用機器が別予算となり、同じタイミングで確保されないケースがあります。この慣習を残したままでは、主設備の信頼性を高めても交換期間の可用性を別に設計する必要が残ります。

6. 個々の手続が正常でも、非常時機能に空白が生じる

バッテリー交換警報を確認し、管理者へ報告し、メーカーへ問い合わせ、見積を取得し、予算要求を行い、契約手続きを進める。これらの手続が順番どおり進んでも、交換完了まで半年を要する場合があります。

行政手続が進行する時間と、設備として必要な非常時機能を維持できる時間には差が生じます。

異常を認識してから本復旧までの期間を、どの設備・運用・予算で埋める設計になっているか。

非常用設備の保守では、この問いを設備単体の点検結果と同時に確認します。

7. バイパスや暫定運用にも、終了条件を持たせる

バッテリー交換警報が発生し、すぐに交換できない場合、UPSをバイパスしたり、一部機能を停止したりする暫定運用が選択されることがあります。商用電源が正常であれば、平常時の設備はそのまま動作することがあります。

暫定運用では、何の機能を失っているか、どこまで継続できるか、何を代替手段とするか、いつまで許容するか、誰が通常構成へ戻すかを同時に決めます。

全面復旧まで機能を残す考え方は、「事例研究 非常用電源はそのとき使えなかった」で扱うフェイルソフト、縮退運用と同じ方向です。

8. UPSは、計測・判断・制御の連鎖を維持する

公共インフラでは、大型ポンプやモーターの主回路に非常用発電機が接続されている構成があります。設備機能は、主回路だけで完結せず、計測、判断、制御、通信、起動信号までを含む一連の経路で成立します。

一例

水位計 → PLC → 制御リレー → 発電機起動信号 → ポンプ → 弁制御

水位計、PLC、遠隔I/O、通信、制御リレー等の電源が失われると、主回路へ電力を供給できても、状態判断や自動制御が成立しない場合があります。そのため、発電設備だけでなく、電力を受け、切り替え、計測し、判断し、制御する経路全体を非常用機能として扱います。

非常用受電設備と受電回路については、「非常用電源の本質は『受ける設備』にある」で詳しく扱っています。

9. 重要インフラでは、N+1を基本条件として考える

N+1は、機器台数ではなく機能継続を基準に定義します。必要な機能を構成する一つの要素を、故障、劣化、バッテリー交換、定期点検、工事、災害などで失った際にも、必要な機能を維持できる構成です。

並列冗長UPS / N+1 UPS
ホットスタンバイ / コールドスタンバイ
予備バッテリー / 予備制御装置
発電機+UPS / 可搬型代替電源
別系統給電 / 別経路通信 / 手動・縮退運用

判断基準は台数よりも、一つの構成要素を失った状態でも必要な機能が残るかに置きます。

自治体の可用性要求と電源の単一障害点については、「自治体の『機密性・完全性・可用性』を支える電源設計とは」で扱っています。本稿のN+1は、その可用性要求を本復旧まで維持するための物理構成として位置付けます。

10. N+1は、本復旧までの時間から決める

設備の故障率や耐用年数は重要な指標です。重要インフラでは、それと同時に、一つを失ったあと必要な機能を何時間で回復できるかを確認します。

確認項目N+1設計への影響
交換部品の入手性長納期ほど現地予備の価値が上がる
メーカー保守体制現着・復旧時間を予備構成へ反映する
特殊仕様・盤改造コールドスタンバイや共通予備品を検討する
予算・契約期間年度を跨ぐ空白を予備系で吸収する
災害時の物流制約拠点分散・可搬型代替手段を検討する

故障頻度が低い設備でも、交換品納期が6か月で予備機がなければ、その6か月をどう維持するかという設計課題が残ります。N+1は故障確率だけでなく、復旧所要時間から決めます。

Field Case / Saijo City Pump Station / 2019

11. 実装事例|西条市ポンプ場で直流電源盤を再設計した理由

2019年、西条市のポンプ場へ当社製直流電源盤を納入しました。この案件は、当初設計で蓄電池大手メーカー製直流電源盤が採用され、入札を経て現地施工が始まった後に、直流電源盤の納期が竣工時期に間に合わないことが判明したことから始まりました。

急遽、同等条件を満たす代替メーカーが探されましたが調達先が見つからず、当社へカスタム製作の依頼がありました。設備自体が故障していなくても、必要な時期に代替品を調達できないことが、設備全体の可用性を制約する例です。

従来型の直流電源方式が、設備更新条件を規定している

ポンプ場などの制御盤では、過去の設備設計を継承し、AC100Vを全波整流したピーク電圧約141Vからシリコンドロッパで所定の直流電圧へ降圧し、鉛蓄電池をフロート充電する方式が長く用いられてきました。当社が自治体設備の保守・更新で確認してきた現場にも、同様の仕様が残っています。

既設設備では、直流電源盤だけを新しい方式へ置き換えればよいわけではありません。接続される制御盤、リレー、計装、警報、その他の盤が前提とする電気定格と要求電圧を維持しながら更新する必要があります。

既設定格を維持しながら、電源・充電・監視を再設計する

当社は、既設の他盤が要求する電気定格と出力条件を維持したまま、専用スイッチング電源、遠隔制御・モニタリング、充電ステージ可変機能を組み込み、直流電源盤全体を再設計しました。

電源方式
専用スイッチング電源で既設設備が要求する出力条件へ合わせる。
充電制御
鉛蓄電池の状態・運用条件に合わせて充電ステージを可変化する。
遠隔監視
電源・充電状態を遠隔から把握し、異常の兆候を保守判断へつなげる。
既設互換
他の制御盤を大きく変更せず、既存の電気定格・要求電圧へ適合させる。

当社がそれまで確認してきた従来型直流電源盤には、約10年程度で更新となる事例がありました。今回の再設計では、交換頻度の長期化を図るとともに、故障後に初めて状態を知るのではなく、遠隔監視によって劣化兆候を把握し、保守・更新判断を前倒しできる構成としています。

この事例で可用性を制約したのは、故障率だけではなく「交換できるまでの時間」でした。

N+1や予備機を考えるときは、装置そのものの故障確率に加え、代替メーカーの有無、製作納期、既設互換性、保守時の状態把握までを含めて、本復旧まで必要機能を維持できるかを確認します。

12. 広域災害では、複数の復旧時間が重なる

平常時の単体故障では、メーカー、工事業者、物流、道路、通信など周辺インフラが通常どおり機能していることを前提にできます。広域災害では、その複数が同時に影響を受けます。

電力停止、通信停止、状況把握の遅れ、道路・物流制約、部品や燃料到着の遅れが連鎖すると、一つの設備の復旧時間が周辺インフラの復旧時間によって延びます。

この循環障害は、「BCP『72時間』の根拠は何か?」で、電気・通信・道路・燃料・医療を同じ時間軸に置いて扱っています。

13. 災害の解像度が上がる前に、必要な機能を配置する

台風、豪雨、線状降水帯、河川水位、停電、道路通行止めなどの情報は、時間とともに増え、発生場所、規模、影響範囲の解像度が上がっていきます。

初期段階では、被害発生地点、停止設備、予備電源の必要地点を候補範囲として扱います。一方、解像度が十分に上がった時点では、道路規制、浸水、停電、物流集中により、人員や予備設備を移動できる残余時間が少なくなっている場合があります。

情報の解像度が上がる過程に応じて、準備と配置を段階的に進める。

可搬型電源や共通予備機は、使用地点が完全に確定する前でも必要地点へ再配置できることで、この時間差を埋める手段になります。

先行行動とフェーズフリーの考え方は「千葉県地震被害想定と令和8年8月千葉豪雨」で、発災前後の数時間を可搬型UPSでつなぐ考え方は「レベル5特別警報が出てからでは遅い」で扱っています。

14. 「どこまで止めることを許容するか」を先に決める

N+1にも設計上の境界があります。そこで、連続運転が必要な機能、数秒まで停止可能な機能、数時間まで停止可能な機能、翌日復旧でもよい機能、本復旧まで縮退運用できる機能を分けます。

設備についても、UPSの有無から考えるのではなく、その機能を何分・何時間・何日まで失うことを許容できるかを先に決め、その時間に合わせてN+1、予備機、代替電源、復旧体制を設計します。

災害時の停止許容境界については、「保育園は警報が出たら休みになりますか?」で、MTPD、RTO、縮退運用との関係を扱っています。

15. 調達単位を「本復旧まで機能を維持する仕組み」にする

公共設備では、UPS 1台、発電機1台、制御盤1式という機器単位で予算化されることがあります。非常用設備では、これらを本復旧まで続く一つの機能として扱います。

主設備・N+1構成
交換周期・消耗品費
定期保守・遠隔監視
故障時の代替手段
予備機・交換品の保管
暫定運用条件・復旧目標時間

メーカー保証、災害共済、国庫補助等を費用面の支援として位置付け、本復旧までの機能維持をN+1、予備機、冗長系、縮退運用でつなぎます。

公共調達における蓄電池システムの要求事項については、NITE『公共調達・重要インフラ向け蓄電池システムの安全ガイドライン』の解説も参照してください。

16. 結論|非常用設備とは、本復旧まで機能を維持できる設備である

非常用設備では、平常時、異常発生時、災害時、暫定運用時、本復旧時を一つの連続した運用として設計します。

  1. 劣化・異常を検知する。
  2. 予備系・代替機能へ移行する。
  3. 必要な機能を維持する。
  4. 調査・査定・予算・調達を進める。
  5. 本復旧する。
  6. 通常構成へ戻る。

一つの設備を失っても必要な機能を維持できるN+1、冗長構成、コールドスタンバイ、予備機、代替電源を、本復旧までの時間を埋める機能としてあらかじめ持つ。

重要インフラの非常用設備は、この状態を前提として設計・予算化・調達・保守することで、平常時から有事、本復旧まで一連の機能として成立します。

Evidence / References

改訂履歴

追記
2019年に西条市ポンプ場へ納入した当社直流電源盤の実装事例と現場写真を追加。従来型直流電源方式、長納期による代替調達、スイッチング電源・遠隔監視・充電ステージ可変機能による再設計を追記。
初版
初版公開。公共インフラの非常用設備について、本復旧までの技術・予算・調達・制度時間とN+1の関係を整理。

Save

この記事要約を保存・共有する

Consultation / Field Survey

ご質問・現場調査のご依頼はこちら

IEC 61000-4-30等に準拠した高分解能の電源品質調査、 既設図面のない現場での電気回路調査・回路図作成、 現象は発生しているものの原因を特定できない電気トラブルの切り分けなどに対応します。

電気設備担当がいない、設備構成や運用条件を実際に確認しなければ判断できない場合もご相談ください。

フォーム送信後、24時間以内にご連絡します。