2026年5月27日公開

フェーズフリー電源BCPとは、災害時だけ倉庫から出す非常用電源ではありません。 平時から施設・通信・医療ICT・避難所運営に組み込み、 停電時にも同じ運用で使える電源インフラです。

千葉県の被害想定では、千葉県北西部直下地震で電力停電率約53%、 2週間後の避難者約87.2万人が示されています。 これは、電源を「備蓄品」として考える段階から、 平時に使いながら災害時にも機能する「運用インフラ」として考える段階へ移ったことを意味します。

1. 千葉県が公表した3つの地震被害想定

千葉県の調査では、千葉県北西部直下地震、大正型関東地震、房総半島東方沖の地震の3ケースが示されています。 調査目的は、県や市町村の地震防災対策の基礎資料とするとともに、 県民、地域、事業者の自助力・共助力の向上に資することです。

想定地震 最大震度 主な特徴 主な被害量
千葉県北西部直下地震 震度6強 内陸地震。津波想定なし。県北西部・東京湾岸を中心に強い揺れ。 全壊・焼失約76,000棟、死者約2,400人、避難者約87.2万人。
大正型関東地震 震度7 県南部を中心に強い揺れ。県南部沿岸の一部に津波浸水。 全壊・焼失約33,800棟、死者約920人、避難者約19.0万人。
房総半島東方沖の地震 震度7 外房を中心に津波浸水域が広がる。県東部で強い揺れ。 全壊・焼失約113,600棟、死者約42,100人、避難者約79.6万人。

重要なのは、被害想定が単に建物被害や死者数だけを示しているのではないことです。 想定項目には、電力、通信、上下水道、都市ガス、LPガスなどのライフライン被害、 避難者、物資不足量、住機能支障、医療機能支障、孤立集落などの生活支障が含まれています。

2. 停電率53%は、住宅・事業所の過半が停電する事態を想定しています

千葉県北西部直下地震では、最大影響として電力停電率約53%が示されています。 上水道の断水人口は約257万人、2週間後の避難者は避難所約34.9万人、 避難所外約52.3万人、合計約87.2万人です。

この規模になると、非常用電源を「災害時に倉庫から出す備蓄品」として考えるだけでは足りません。 使う人が場所を知らない、充電されていない、接続方法が分からない、保守されていない、 負荷容量が合わない、通信機器と組み合わされていない。 こうした状態では、発災時に機能しません。

必要なのは、平時から使い、状態を把握し、停電時にも同じ手順で使える電源です。 これがフェーズフリー電源BCPの出発点です。

3. 2019年台風15号の教訓――電源は、現場に届かなければ機能しない

千葉県の災害対応を考えるうえで、2019年台風15号の長期停電は避けて通れません。 東京電力の検証報告書では、台風15号により送電鉄塔2基が倒壊し、 電柱約2,000本が折損、最大約93万軒の停電が発生し、 千葉エリアでは停電解消まで約2週間を要したことが示されています。

同報告書では、電源車の活用についても、 配置・運用状況を把握する要員、接続に必要な工事体制、現場指揮者、 運転監視要員、燃料補給、派遣状況の一元管理が課題だったと整理されています。 電源車は重要ですが、発災直後からすべての現場にすぐ届くわけではありません。

当社の Personal Energy Portable Power は、この台風15号の経験を踏まえ、 「誰でもすぐに運べる電源」「無瞬断で使える可搬型電源」という課題意識から開発されました。 詳しくは Personal Energy Portable Power 開発ストーリー で詳しく紹介しています。

4. フェーズフリー電源BCPとは何か

フェーズ(phase)とは、物事の進行過程における「段階」や「局面」を指す言葉です。 災害対応でいえば、平時、発災直後、停電中、避難所運営、復旧期といった局面がそれにあたります。

フェーズフリーとは、これらの局面ごとに別々の道具を用意するのではなく、 平時に使っているものを、発災時や復旧期にもそのまま使えるようにしておく考え方です。 単なる流行語ではなく、非常時に「初めて使う」「探す」「接続する」「操作を思い出す」という失敗を減らすための設計原則です。

電源BCPにおいては、非常時だけ取り出す発電機やバッテリーを否定するものではありません。 ただし、それだけに依存すると、保管場所、充電状態、燃料、接続手順、負荷容量、操作担当者の確認が発災後に集中します。 そのため、平時の施設運用、通信、医療ICT、監視、受付、避難所運営に組み込まれた電源を、 災害時にも同じ手順で使える状態にしておくことが重要になります。

平時に使う

受付端末、通信機器、医療ICT、監視機器、PoE機器などに日常的に組み込みます。

状態を見える化する

バッテリー状態、負荷、稼働状況、異常を平時から確認できる体制を作ります。

災害時も同じ手順で使う

発災時に初めて使うのではなく、日常運用の延長で停電時にも使えるようにします。

停電してから準備するのではなく、停電しても使い続けられる状態を平時につくる。 それがフェーズフリー電源BCPです。

5. 千葉県の被害想定から見える、必要な機能

千葉県の被害想定は、自治体、医療・福祉施設、通信設備、避難所、事業所にとって、 どの機能を平時から備えるべきかを示しています。

6. 津波避難では、「逃げるための情報」を止めないことが減災になります

房総半島東方沖の地震では、外房を中心に広い津波浸水域が想定されています。 同資料では、冬夕方18時・早期避難率が低い場合、津波による死者数は約40,200人とされています。 一方で、早期避難率が高く、津波情報の伝達や避難の呼びかけが効果的に行われた場合は約13,700人、 全員が発災後すぐに避難を開始した場合は約8,200人とされています。

これは、避難を促す情報伝達が減災に直結することを示しています。 防災行政無線、屋外拡声、通信中継、Starlink、PoE機器、監視カメラ、遠隔監視は、 電源が止まれば機能しません。

津波避難に必要なのは、情報を出す仕組みだけではありません。 逃げるための情報を止めないために、通信設備を動かし続ける電源が必要です。

7. 運用されていない非常用電源は、非常時には動かない

2019年台風15号の教訓は明確です。 非常用電源は、置いてあるだけでは機能しません。 保管場所、充電状態、燃料、接続手順、負荷容量、操作担当者、保守状態が確認され、 平時から運用されていて初めて、非常時にも使えます。

特に、避難所や医療・福祉施設、自治体施設、通信設備では、 発災時に初めて取り扱う機器ではなく、平時から使っている機器の方が確実です。 ここにフェーズフリーの意味があります。

フェーズフリー電源BCPで確認すべきこと

  • 平時にどの機器へ接続しているか。
  • 停電時に何時間維持する必要があるか。
  • 発電機、太陽光、蓄電池、商用電源をどう切り替えるか。
  • 復電時に接続機器を壊さない構成になっているか。
  • 誰が移動し、誰が接続し、誰が状態を確認するか。
  • バッテリー劣化、過負荷、異常停止を平時から監視できるか。

8. 課題から電源ソリューションを探す

千葉県の被害想定で見えてくる課題は、停電だけではありません。 安全性、無瞬断、通信維持、データ復旧、現場業務の継続、自律分散化まで、 必要な対策は用途によって異なります。 以下の6つの入口から、関連記事・導入事例・技術特集・対応製品を確認できます。

想定外を、平時の運用で想定内に近づける

千葉県の地震被害想定は、特定の地震が確実に起こることを予知するものではありません。 しかし、停電、通信断、断水、避難者、医療機能支障、孤立集落といったリスクを、 事前に考えるための基礎資料です。

電源BCPで重要なのは、災害時だけの特別な機器を増やすことではありません。 平時から使っている電源・通信・医療ICT・監視の仕組みを、災害時にも使えるように設計することです。

停電してから出す電源ではなく、停電しても使い続けられる電源へ。 千葉県の新しい被害想定は、フェーズフリー電源BCPを具体化する出発点です。

参考資料