2017年に就航し、2026年も定期運航
2017年8月10日、栃木県日光市・中禅寺湖の新型遊覧船「男体」が就航しました。船内には、太陽光発電を主電源とするオフグリッド電力システム「Personal Energy(パーソナルエナジー)」が搭載されています。
2026年7月現在も、「男体」は中禅寺湖の定期便として運航されています。導入時には新規性を評価された設備が、約9年後には、観光船の通常運航に組み込まれた長期実績へ変わりました。
技術開発の価値は、搭載した日では確定しない。
運航を止めず、季節を重ねた時間が実績になる。
脱炭素という言葉より先に、船内負荷を分離した
船内サービスの電力を100%自給自足
新型遊覧船「男体」がオフグリッド電力を採用した大きな目的は、 日光国立公園を代表する中禅寺湖の自然環境を守りながら、 観光客の利便性と快適性を両立させることでした。
オフグリッド電力の対象は、船を動かす推進用の主機関ではありません。 客室の照明、Wi-Fi、表示設備、客席用コンセントなど、 乗客が利用する船内サービス設備です。
屋上に設置した太陽光パネルを主電源とし、 蓄電池とインバーターを組み合わせたパーソナルエナジーから、 これらの船内サービスに必要な電力を供給します。 推進系とは別の独立した電力系統を構築することで、 船内サービスの電力をオフグリッドシステム内で100%まかなう構成としました。
曇天や雨天などで太陽光発電量が不足する場合には、 船内発電機から受けた電力をパーソナルエナジーで整流し、 電圧と波形を安定させたうえで客室設備へ供給します。 そのため、天候に左右されやすい太陽光発電でありながら、 乗客が使用する照明やコンセント、通信設備には、 継続して安定した電力を供給できます。
特に効果を発揮するのが、桟橋への停泊中や乗船・下船時です。 客室設備のために発電機を運転し続ける必要がなくなるため、 停泊中はエンジンを停止し、排気ガスを出さない ゼロ・エミッション運用が可能になりました。
ディーゼルエンジン特有の騒音、振動、排気ガスの臭いも抑えられます。 中禅寺湖畔の澄んだ空気、静けさ、水辺の景観を損なわず、 乗客が奥日光の自然そのものを快適に体感できる船内環境を実現しています。
船内サービスのために、停泊中もエンジンを回し続けない。
環境性能と乗船体験を、同じ電源システムで両立する。
主機関 └─ 推進 太陽光発電+蓄電池+インバーター ├─ 52カ所の客室コンセント ├─ 客室LED照明 └─ Wi-Fi・情報機器
4.2kW太陽光+2.4kWh蓄電池+3kW交流出力
「男体」には、175WのCIS化合物型太陽光パネルを24枚、合計4.2kW搭載しました。発電した直流電力を蓄電池へ取り込み、最大3kWの交流電力として船内へ供給します。
| システム | Personal Energy® BMS576 |
|---|---|
| 太陽光発電 | CIS化合物型 175W × 24枚 = 4.2kW |
| 蓄電池 | オリビン酸リン酸鉄系リチウムイオン蓄電池 |
| 蓄電容量 | 2.4kWh |
| 最大直流入力 | 4kW |
| 最大交流出力 | 3kW |
52カ所のコンセントへ、安定した正弦波を供給
船内には52カ所のコンセントが設置され、客室LED照明、Wi-Fiサービスとともにオフグリッド電力で供給されます。乗客が接続するスマートフォン、PC、カメラ、ACアダプターなどは、電圧変動や波形品質の影響を受けやすい負荷です。
本システムには、データセンターや通信設備で使われる通信用インバーターを採用しました。再生可能エネルギーを使うことと、利用機器へ安定した電圧・周波数・正弦波を供給することを、別の課題として設計しています。
太陽光と蓄電池が、使用可能なエネルギー量を決めます。
インバーターと制御が、機器へ供給する電圧・周波数・波形を整えます。
悪天候時は船内発電機を補助入力として使う
船舶では、天候を理由に客室電源を停止することはできません。曇天や雨天が続き、太陽光発電と蓄電量だけでは不足する場合には、船内発電機からの電力をPersonal Energyへ入力します。
発電機電力をそのまま客室負荷へ接続するのではなく、オフグリッド電力システムで整流・電力変換し、安定した交流として供給します。太陽光を主電源としつつ、既存電源をバックアップとして利用する構成です。
通常時 太陽光 → 蓄電池・インバーター → 客室負荷 発電不足時 船内発電機 → 整流・電力変換 → 客室負荷
再生可能エネルギーを優先する。
しかし、旅客サービスの可用性は天候任せにしない。
停泊中は、発電機を止める
本事例でいう「停泊中ゼロ・エミッション」は、 停泊中の客室コンセント、照明、通信設備を太陽光と蓄電池で供給し、 その電力を得るためにディーゼル発電機を運転しない状態を指します。
桟橋での乗船・下船時にも、発電機由来の排気ガス、騒音、振動を抑え、 中禅寺湖の静かな環境と快適な乗船体験を両立しています。
- 停泊中の客室コンセント
- 客室LED照明
- Wi-Fi・情報機器
- 当該負荷のための発電機運転
- 船の推進
- 主機関の燃料消費
- 航行時の全船内負荷
- 船舶全体のライフサイクル排出
湖上環境で約9年運用することの技術的意味
船舶に搭載する電源は、陸上の太陽光設備とは異なる条件で使われます。日射、紫外線、雨、湿気、低温、振動、船体の傾斜、季節運航による長期停止、限られた保守スペースなどが、同時にシステムへ加わります。
2万サイクルの蓄電池性能は、長期運用を支える重要な要素です。 しかし、電池の寿命だけでは旅客船の電源システムは成立しません。 太陽光発電、蓄電池、インバーター、充放電制御、電源切替、保護回路、筐体、配線までを 一体として設計し、日々の運航の中で安定して動かし続けてきたことが、 約9年の実績につながっています。
- 太陽光パネルと固定部の耐候性
- 直流配線、コネクタ、保護機器の信頼性
- 蓄電池とBMSの保守性
- インバーターによる電力品質
- 既存発電機との電源協調
- 船内での点検・部品交換の実施可能性
船舶脱炭素は、実船で運用できる段階へ
現在の船舶脱炭素では、省エネルギー船型、高効率推進プラント、 航海支援、蓄電システム、太陽電池の船体実装など、 複数の技術を組み合わせる取り組みが進められています。
太陽電池についても、軽量で設置自由度の高い新型電池を船体へ搭載し、 耐候性、振動、接着方法、直流電力の取り扱い、 船内電源への接続、安全対策などを検証する技術開発が始まっています。
ただし、船舶への実装は、太陽電池を甲板へ設置するだけでは成立しません。 発電した電力を蓄え、安定した電圧と周波数へ変換し、 船内負荷へ安全に供給しながら、天候や運航条件の変化にも対応する 電力システム全体が必要です。
新型遊覧船「男体」では、2017年の就航時から、 太陽光発電、蓄電池、インバーター、発電機からの補助入力、 客室設備への電力供給を一つのシステムとして実装しました。 技術開発や実証段階にとどまらず、通常の旅客運航の中で 約9年にわたり使用されていることが、この事例の特徴です。
| 段階 | 船舶太陽光の取り組み | 主な技術要素 |
|---|---|---|
| 技術開発・実証 | 新型太陽電池の船体搭載 | 耐候性・振動・接着・直流電力・船内受電設備 |
| 実運航 | 2017年から旅客船の船内サービス電源として運用 | 発電・蓄電・電力変換・電力品質・補助電源 |
CISかペロブスカイトかより、システム統合
太陽電池の種類は、発電面積、重量、曲面追従性、耐候性、施工方法を左右します。しかし、船内で電力として使うためには、発電素子だけでは完結しません。
太陽電池 ↓ 接着・架台・防水・配線 ↓ 直流保護・受電設備 ↓ 蓄電池・BMS ↓ インバーター・電力品質 ↓ 既存発電機との協調 ↓ 船内負荷・運航・保守
「男体」の価値は、CIS太陽電池を採用したことだけではありません。発電不足時の電源切替を含め、乗客が実際に使う交流電力まで一つのシステムとして成立させ、運航の中で継続してきたことにあります。
新造船だけでなく、既存船・小型旅客船にも
船舶脱炭素は、大型新造船だけの課題ではありません。旅客船、観光船、作業船、調査船、港湾設備では、コンセント、照明、通信、監視、計測、冷蔵、事務機器など、推進から分離できる電力負荷があります。
これらを負荷単位で分離し、太陽光、蓄電池、陸電、既存発電機を組み合わせることで、主機関や発電機の運転時間削減、停泊時の騒音・排気低減、電力品質の改善、非常時の独立運転につなげられます。
船体設計段階から太陽電池、配線、受電設備、蓄電池区画を統合します。
推進から分離できる負荷を選び、段階的に独立電源へ移行します。
陸電停止時や発電機停止時にも、通信・照明・情報機器を維持します。
導入概要・FAQ・相談窓口
| 船名 | 中禅寺湖 観光遊覧船「男体(なんたい)」 |
|---|---|
| 就航日 | 2017年8月10日 |
| 定員 | 400人(客席312席、特別展望室) |
| 船体 | 全長24m、幅8.8m |
| 主機関 | 254kW × 2基 |
| 電源システム | Personal Energy BMS576 |
| 太陽光 | CIS化合物型 4.2kW |
| 蓄電容量 | 2.4kWh |
| 交流出力 | 最大3kW |
| 供給対象 | 52カ所のコンセント、客室LED照明、Wi-Fi |
| バックアップ | 船内発電機入力を整流・電力変換して供給 |
| 運用実績 | 2017年から約9年、2026年も定期運航 |
太陽光発電で船の推進まで行っていますか?
本事例の太陽光オフグリッド電力は、52カ所のコンセント、客室LED照明、Wi-Fiなどの船内負荷へ電力を供給します。推進を担う主機関とは分離されています。
曇天や雨天で太陽光が不足した場合はどうなりますか?
船内発電機からの電力をPersonal Energyへ入力し、整流・電力変換を行って安定した交流電力として供給します。太陽光を主電源としながら、客室電源の可用性を確保します。
約9年間、蓄電池を交換していないという意味ですか?
その意味ではありません。必要な点検・保守・部品対応を行いながら、太陽光、蓄電、電力変換、バックアップ電源を含むシステムが継続運用されている実績です。
既存船にも導入できますか?
船体構造、設置面積、直流配線、蓄電池区画、消防・安全条件、負荷容量を確認する必要がありますが、推進系から分離できる照明、通信、監視、コンセントなどを対象に段階的な導入を検討できます。
Marine Power Consultation
船内サービスを、安全で自律した電源へ
船舶への太陽光発電は、太陽電池を設置するだけでは成立しません。 蓄電池、BMS、インバーター、既存発電機、陸電、船内負荷、 電力品質、塩害対策、保守条件、安全性までを一つのシステムとして設計する必要があります。 新造船・既存船の双方について、負荷表と運航条件から検討します。
- 慧通信技術工業株式会社「旅客船では日本で初となる太陽光発電オフグリッド電力船が8/10就航」(2017年8月10日)
- 日経クロステック「日光・中禅寺湖の新型遊覧船に『太陽光オフグリッド』構築」(2017年8月15日)
- 中禅寺湖遊覧船 公式サイト
- 中禅寺湖遊覧船 公式X(2026年の「男体」運航案内)
- 国土交通省「新造フェリーによる省エネ設備導入とペロブスカイト太陽電池を船舶に搭載するための技術開発」(2026年3月31日)
※「旅客船では日本で初」は2017年の当社発表時点における表現です。写真は2017年の当社プレスリリース掲載資料を使用しています。
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電源・通信インフラ設計に関する技術情報
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