先に結論:3つの問いの答えは「電源品質の低下」

「オフグリッド」「スマートメーター」「一次データ」――バラバラに見える対策は、 じつはすべて“電源品質が保証されない”ことへの現場側の適応です。

  • なぜオフグリッドなのか?
    外から来る電気の品質が揺らぐなら、重要負荷は自分で“綺麗な電気”を作り直す(クリーン電源化)しかないから。
  • なぜスマートメーターなのか?
    供給側の平均値ではなく、地点ごとの事象を捉えるには、計測点の増加が不可欠だから。 ただし「公開されるか」は別問題なので、結局は需要家側の設計が要になります。
  • なぜ一次データなのか?
    “止まった/止まらない”の議論を終わらせ、原因と責任分界(上流/下流)を切るには、時刻付きの生データが必要だから。

以降は、この結論を問い→答えの順で、現場で使える形に落とし込みます。

1. まず整理:瞬低・瞬停は「停電」ではなく“電源品質事象”

電源品質(Power Quality)とは、電圧・周波数・位相・波形(正弦波の滑らかさ)が、期待通りに保たれている状態を指します。 “停電していない”のに設備が落ちる現象は、電源品質事象として扱うほうが説明力が上がります。

瞬低(瞬時電圧低下)

電圧が短時間だけ低下する現象。多くは落雷などの外乱をきっかけに、系統保護動作の過程で発生します。 目に見える停電にならなくても、制御装置・通信・サーバー・インバータ機器はエラー停止します。

瞬停(瞬時停電)

供給が一瞬だけ途切れる現象。現場では「時計がリセットした」「照明が完全に消えた」として認識されやすい一方、 事故の本体は“その前後の電源品質の乱れ”であることが多いのが厄介です。

重要なのは、瞬低は“止まらない”統計に入らないのに、現場を止めるという点です。 だから「停電回数が少ない=安心」にはなりません。

2. 問い:瞬低・瞬停はなぜ増えたのか?

まず前提として、瞬低は「珍しい例外」ではありません。 ある資料では、瞬低の発生率は年3〜6回/年(多雷地域では10〜20回/年)が目安とされ、 さらに発生した瞬低の95%以上は0.2秒以内とされています。 つまり、人間の感覚では気づきにくい“短い乱れ”が、装置にとっては致命傷になり得ます。

答え:増えたのは「停電」ではなく「電源品質の揺らぎ」

現場が“増えた”と感じる理由は、停電時間の統計ではなく、瞬低・ノイズ・波形歪みのような短周期の乱れが増えた/目立つようになったためです。 特に、制御・通信・計測が高度化した現場ほど、閾値(止まるライン)が厳しくなります。

  • 制御・通信が“瞬間の乱れ”に弱い(PLC・産業PC・ネットワーク機器)
  • インバータや電源回路が“波形”に敏感(誤動作・保護停止)
  • データが増えた分だけ、“一次データが失われる”損失が大きい

だからこそ、次の問いに進みます。「では、どう設計すべきか?」

3. 問い:なぜ、オフグリッドなのか?

“オフグリッド”という言葉は誤解されがちですが、本稿で言う本質は、 重要負荷を「系統の揺らぎ」から電気的に切り離すという設計思想です。 目的は「停電対策」だけではありません。電源品質対策です。

答え:重要負荷は「クリーン電源を自分で作る」側に寄せる

瞬低やノイズは、上流(系統)に原因があっても、末端(コンセント)で増幅されることがあります。 そこで重要負荷については (1)電源を作り直す(クリーン化)(2)短時間の供給断を吸収する(3)ログを残す の3点を同時に満たす構成が合理的です。

実装としては、常時インバータ系UPSや瞬低補償装置などにより、 下流側へ「波形の整った電気」を供給する設計が中心になります。

ここで重要なのは、“止めない”よりも“守る”です。 すなわち、一次データ(ログ・計測・トランザクション)が壊れない構成を優先します。

4. 問い:なぜ、スマートメーターなのか?

電源品質は「場所」に強く依存します。同じ市区町村でも、配電線の系統や末端条件で事象は変わります。 したがって、平均値ではなく地点ごとの観測が必要になります。

答え:計測点が増えるほど、“議論”は“事実”に変わる

スマートメーターの価値は、請求の自動化よりも計測点が増えることにあります。 ただし、ここで必ず押さえるべき制約があります。

Aルート / Bルート:どこまで需要家が見えるのか

  • Aルート:スマートメーターで計測したデータを送配電事業者へ送るための経路です。 需要家が「自分で好きに」取り出す前提のルートではありません(用途は検針・料金算定等の基盤)。
  • Bルート:家庭側(HEMS等)へデータを送る経路で、 リアルタイムに計量データを取得できると整理されています(ただし利用には電力会社への申込みが必要)。

※上記の「Aは送配電へ」「Bは家庭HEMSへ(申込みが必要)」という基本定義は、JEMAの整理に沿っています。

そして結論として、工場・物流・データセンターのように “止まったら重大インシデント”になる現場では、 スマートメーター由来の情報だけでは「正確なリアルタイム把握」になりにくいケースが残ります。 理由はシンプルで、Aルートは需要家が直接参照できる設計ではなく、 Bルートも提供範囲・粒度・運用条件が絡むため、電源品質(瞬低・ノイズ・波形歪みなど)まで含めて “現場が欲しい形”で揃うとは限らないからです。

だから需要家サイドで「自営設備」を打つ

本当に必要なのは、重要点(制御・通信・サーバー・計測)の近傍で、 電源品質イベントと時刻を一次データとして残すことです。 これにより「系統起因か/自社配線・設備起因か」「どの負荷が閾値を割ったか」が切り分けできます。

  • 重要負荷系統の上流/下流でイベントログを取る(比較できる位置が強い)
  • UPSや電源装置のログを“証拠化”できる形で残す
  • 停止(重大インシデント)につながる前兆を蓄積し、対策の優先順位を決める
特集を読む:ブロックチェーン物流とデータ真正性 ─ Stopless × Genuine

「改ざんできない」だけでは足りない。入口(一次データ)の正しさが、止まらない設計の核心になります。

参考:公開される瞬低履歴は「補助線」

一部の送配電事業者は、瞬時電圧低下の履歴検索ページを提供しています。 例として、東京電力パワーグリッドの「瞬時電圧低下履歴検索」があります。 ただし公開の有無・期間・粒度は運用に依存するため、重要点は自社で一次データ化する前提が安全です。

東京電力パワーグリッド:瞬時電圧低下履歴検索

5. 問い:なぜ、一次データなのか?

瞬低・瞬停・ノイズの議論が泥沼化するのは、ほとんどの場合、 「どこで何が起きたか」が時刻付きで残っていないからです。 その結果、現場は次のような“空中戦”になります。

  • 電力会社:停電ではない(統計上は問題なし)
  • 設備担当:機械が落ちた(しかし原因が言語化できない)
  • 情報システム:ログが途切れた(しかし電源起因か断定できない)

答え:一次データがないと、対策が「勘」になる

一次データとは、「加工前の証拠」です。 電源品質の世界で言えば、最低限でも“いつ(時刻)”“どの系統で(地点)”“どう乱れたか(電圧/周波数/イベント)”が必要です。 これがあれば、対策は“勘”ではなく“設計”になります。

一次データができると、意思決定が速くなる

  • 上流起因(系統の瞬低/瞬停)か、下流起因(自社配線/受電設備)かを切り分けられる
  • 対策の優先順位(どこをクリーン化するか)が決まる
  • 重大インシデント(操業停止・品質事故・データ破損)を“再現性のある形”で防げる

6. ではどう守るか:クリーン電源と一次データの最小セット

電源品質対策は、設備が巨大である必要はありません。 重要なのは、重要負荷に“品質の良い電気”を供給しつつ、一次データを残すことです。

(A)守る:重要負荷をクリーン化

  • 重要負荷(制御・通信・サーバー・計測)を優先的に電源品質対策下へ
  • 短時間事象(瞬低・瞬停)に対し、切替無し/低影響の構成を採用
  • 電源ノイズ(波形歪み・高調波など)を“下流へ流さない”

(B)残す:一次データを時刻付きで

  • 「いつ起きたか」を残せるログ(イベント)を確保
  • できれば拠点内で“上流側/下流側”の比較ができる点に配置
  • 重大インシデントの前兆(小さな乱れ)を蓄積し、対策の根拠にする

ここまで整えると、冒頭の3つの問いは“思想”ではなく、運用できる設計に変わります。

まとめ:電源品質が揺らぐ時代、必要なのは「一次データ」と「クリーン電源」

  • 瞬低は珍しい例外ではなく、年3〜6回(多雷地域では10〜20回)という目安が示されています。
  • 現場が“増えた”と感じる本体は、停電統計では説明しにくい電源品質の揺らぎです。
  • オフグリッドとは「重要負荷を系統の揺らぎから切り離し、クリーン電源側に寄せる」設計思想です。
  • スマートメーターの価値は計測点の増加にありますが、重要点は需要家側で一次データ化するのが安全です。
  • 一次データがあれば、対策は“勘”から“設計”になります(重大インシデント回避の前提)。

電源品質は「大丈夫だと思う」では守れません。
見える化(一次データ)作り直し(クリーン電源)をセットで持つことが、 これからの現場の“止めない”を現実にします。