発災直後から災害時シーケンスへ移行するSPOF対策
地震や広域停電が発生した直後、 施設では利用者の安全確認と並行して、 商用電源、ガス、通信、道路、給排水、 建物設備の状態確認が始まります。 この段階では被害情報が分散しており、 地域全体の状況把握には時間を要します。
発災から数時間が経過すると、 停電、通信障害、道路遮断、燃料供給、 人員配置などの情報が組織内で共有され、 通常運用から災害時シーケンスへの移行が進みます。 おおむね発災後5時間から12時間は、 地域と組織が被害の規模を認識し、 継続、縮退、避難、支援要請を判断する重要な時間帯です。
発災直後
設備が異常を検知する
停電、地震動、ガス遮断、通信状態、 発電機起動条件を設備側で検知します。
発災後5時間
施設機能を確認する
電力、燃料、空調、昇降、通信、 給排水、職員配置を確認し、 継続可能な施設機能を整理します。
発災後12時間
災害時運用を継続する
負荷管理、燃料管理、職員交代、 外部支援、事業継続を含む 災害時シーケンスへ移行します。
この移行を支える商用電源、燃料、高圧受電設備、 切替盤、配電経路、通信、監視、 職員の操作手順は、 それぞれが施設機能を成立させる構成要素です。 一つの構成要素に障害が集中すると、 その影響が空調、エレベーター、厨房、 通信、見守り、保育環境へ連鎖します。
このような単一障害点をSPOF (Single Point of Failure)と呼びます。 SPOFには、電源設備や発電機に加え、 燃料の調達経路、通信回線、切替手順、 保守体制、担当者への依存も含まれます。
本事例では、 商用電源と自立電源、 都市ガスとLPガス、 高圧受電設備と切替設備、 スマートメーターと24時間365日の監視、 自動制御と職員運用を、 複数の独立した経路として構成しました。
商用電源の停電を検知 ↓ LPガス発電機を自動起動 ↓ 2台の発電機を並列運転 ↓ 切替盤から施設全負荷へ給電 ↓ スマートメーターで負荷を計測 ↓ 職員が使用電力と施設機能を確認 ↓ 災害時の負荷・燃料・事業継続運用へ移行
エネルギー多重化とは、 発災直後から複数の独立経路を起動し、 単一障害の影響を局所化しながら、 施設機能を災害時シーケンスへ移行させる設計である。
報道をきっかけに始まった、72時間の施設継続設計
2019年1月16日、読売テレビ 「かんさい情報ネットten.」の特集 「復興のその先へ…『神戸市ものづくり工場』」で、 当社の自律分散電源に関する取り組みが紹介されました。
神戸市ものづくり工場は、 阪神・淡路大震災で工場を失った中小企業の 事業再建を支えるために整備された公営賃貸工場です。 放送では、震災復興のために生まれた拠点で、 災害時にも社会機能を維持するための 電源技術が開発されていることが取り上げられました。
この放送を見た社会福祉法人真澄会の理事長は、 大規模停電が発生した場合に、 高齢者施設、デイサービス、保育園の機能を どのように維持するのかという課題に着目しました。
その後、理事長の指示を受けた設備担当者から 当社へ連絡があり、 施設全体の電力使用状況、 空調、エレベーター、厨房、通信、 高圧受電設備、燃料供給についての検討が始まりました。
尼崎を含む阪神地域では、 阪神・淡路大震災によって 電気、ガス、交通、通信などの都市インフラが 同時に停止する状況を経験しています。 大阪を含む近隣地域においても、 その影響と混乱は現実の記憶として共有されています。
当社代表も神戸で阪神・淡路大震災を経験しており、 本事例の検討では、 発電機の設備容量だけではなく、 外部からの支援や燃料補給が始まるまで、 施設内で生活機能を維持するための時間として 72時間を捉えました。
こうして、 商用電源の停電を検知して発電機を自動起動し、 施設全体の負荷を計測しながら、 空調、昇降、照明、通信などの機能を継続する エネルギー多重化システムの設計が始まりました。
報道が伝えたのは、 インフラが停止した後も施設の日常を継続するための設計思想でした。
三施設の全負荷を一つのシステムとして守る
保護対象は特別養護老人ホーム博寿苑だけではありません。 併設するデイサービスセンター桜、 西武庫みのり保育園を含め、 同一敷地・同一受電設備に接続された施設群を 一つの運用システムとして捉えました。
介護施設や保育施設では、 照明だけを維持しても事業は継続できません。 空調、エレベーター、厨房、給排水、 事務所、通信、見守り設備、居住・保育環境などが 連動して初めて施設機能が成立します。
このため、一部の非常用コンセントや 限定された非常回路だけではなく、 高圧既存設備の全負荷をバックアップ対象としました。
商用電源・既設高圧受電設備
↓
切替盤・専用変圧器・全負荷配電
├─ 平常時:商用電源
└─ 停電時:54kVA級LPガス発電機 × 2台
├─ 並列運転・合計108kVA
├─ 停電時自動起動
└─ 24時間365日監視
↓
特別養護老人ホーム博寿苑
デイサービスセンター桜
西武庫みのり保育園
↓
スマートメーターによる負荷・電力使用量の常時計測
全負荷バックアップとは、 全設備を最大出力で無制限に使うという意味ではありません。 施設全体の負荷を計測・制御対象に含め、 発電能力と燃料の範囲内で 必要な施設機能を維持できる構成です。
電気とガスの供給経路を多重化する
本施設では、平常時の商用電源と都市ガスに加え、 災害時に施設内で電力を作るための LPガス発電設備を整備しました。
電力については、 電力会社から供給される商用電源と、 施設内のLPガス発電機による自立電源を持ちます。 商用電源の停電を検知すると、 54kVA級発電機2台が自動起動し、 並列運転を開始します。
発電した電力は、 切替盤と専用変圧器を通じて 既存の高圧受電設備へ接続され、 介護、デイサービス、保育の三事業を担う 建物全体へ供給されます。
ガスについては、 平常時に使用する都市ガス系統を維持しながら、 発電用のLPガスを980kgのバルク貯槽へ備蓄しました。 広域導管網による都市ガスと、 施設ごとに燃料を保有するLPガスを組み合わせることで、 異なる供給経路を確保しています。
平常時 ├─ 商用電源 → 高圧受電設備 → 建物全体 └─ 都市ガス → 平常時の施設設備 商用電源停電時 ├─ LPガスバルク貯槽 │ ↓ ├─ 54kVA級発電機 × 2台 │ ↓ ├─ 並列運転・合計108kVA │ ↓ ├─ 切替盤・専用変圧器 │ ↓ └─ 建物全体へ自立電力を供給 運用 ├─ スマートメーターによる負荷計測 ├─ 24時間365日の状態監視 └─ 発電能力に応じた全負荷管理
都市ガスは広域の導管網によって効率的に供給されます。 大規模地震の発生後は、 地域配管の安全確認と段階的な復旧が必要になります。
LPガスは施設内に燃料在庫を保有でき、 道路や供給拠点の状況に応じて、 補給元や配送経路を選択できます。 燃料備蓄と調達経路を組み合わせることで、 発電を継続するための選択肢を確保します。
電気とガスは、施設機能を支えるエネルギーであると同時に、
感電、短絡、火災、漏えい、滞留、着火によって
重大事故に至る危険性を持ちます。
危険性を前提として、
遮断、切替、保護、検知、換気、点検、監視、
復帰手順までを管理することが安全運用の条件です。
電気設備では、 遮断器、保護装置、接地、切替インターロック、 発電機の並列制御によって、 系統間の誤接続、短絡、過負荷、 逆送電を防止します。
停電時には自動起動と自動切替を行い、 スマートメーターで建物全体の負荷を確認します。 発電能力108kVAの範囲で使用電力を管理し、 空調、エレベーター、通信、 照明などの施設機能を継続します。
復電時には、 商用電源の電圧と状態を確認したうえで、 自立電源から商用電源へ切り替えます。 起動時だけでなく、停止、切替、復電までを 一連の運用シーケンスとして管理します。
ガス設備では、 980kgのバルク貯槽を 入居者や利用者が生活する建物から離隔して配置しました。 燃料貯蔵設備と居住建物の損傷領域を分け、 点検、補修、補給を屋外で実施できる構成です。
ガス配管も可能な範囲で建物外へ敷設しています。 配管を確認できる状態にすることで、 地震後の外観確認、漏えい点検、 補修、区間ごとの交換を行いやすくしています。
ガス供給メーターには、 地震を検知した際の自動遮断機能があります。 遮断後は、配管、接続部、周辺設備、 ガス臭、換気状態を確認したうえで、 手動で復帰します。
電源を遮断することと、電気設備が安全な状態になることは同じではありません。 ガス供給を遮断することと、残留ガスがなくなることも同じではありません。 遮断後の確認と安全な復帰までが、エネルギー設備の運用です。
非常用発電機をデマンド対策と災害訓練に使う
一般的な非常用発電機は、 法定点検や短時間の試運転を除けば、 実際の施設負荷を接続して運転する機会が限られます。
その結果、有事になって初めて、 操作方法が分からない、 どの設備まで使用できるか分からない、 燃料消費量が分からない、 警報の意味が分からないという 運用上のSPOFが表面化します。
博寿苑では、夏季・冬季に契約電力の デマンド超過が予想される日に発電機を起動し、 商用電力のピークを抑制します。
この平時運転を、 起動、切替、発電機の並列運転、 負荷変化、警報、燃料消費を 職員が確認する災害訓練として位置付けています。
デマンド超過を予測 ↓ LPガス発電機を起動 ↓ 商用電力のピークを抑制 ↓ 負荷・警報・燃料・切替状態を確認 ↓ 職員が有事と同じ設備を平時から運用
事務所中央の大型モニターには、 スマートメーターが計測する 電圧、電流、電力、電力量などを リアルタイムで表示します。
電力情報を設備担当者だけのものにせず、 職員全体が 「施設が今どれだけ電気に依存しているか」 を共有します。
非常設備を平時から使うことで、 設備故障、操作ミス、属人化、 過負荷、依存設備の見落としを、 災害が起きる前に発見します。
高圧設備・切替・計測・監視を一気通貫で実装
本事例は、発電機を設置しただけの工事ではありません。 既設高圧キュービクル、切替盤、専用変圧器、 屋上配線、ガス配管、発電機並列制御、 スマートメーター、遠隔監視までを 一つのシステムとして設計施工しました。
発電機が電力を作っても、 その電力を安全に受け、切り替え、 変圧し、各設備へ配分できなければ 施設機能は継続できません。
高圧既存設備の全負荷を対象とするため、 屋上への機器搬入、機器基礎、 配線・配管、耐候性、保守動線を含む 特殊工事を実施しています。
スマートメーター計測用出力は、 高圧キュービクル内の 計量メーター一次側から分岐しました。
施設運営への影響を最小化するため、 深夜に全停電工事を実施し、 実際の施設ダウン時間は5分以内で完了しました。
導入後は、発電機、電力負荷、 切替状態、警報を24時間365日監視します。 停電後に故障を知るのではなく、 平時の状態変化から異常の兆候を把握します。
Editorial Update / August 2026
熊本地震で現実になった、 「空調を維持できない福祉施設」の危機
令和8年熊本地震では、 熊本県氷川町の高齢者施設で停電が発生し、 電気が復旧するまでの2日間、 エアコンを使用できない状態が続きました。
報道によれば、 約80人の入所者のほとんどに 熱中症が疑われる症状が現れ、 20人余りが搬送されました。 水も使用できず、 入所者の身体を冷やすことも困難でした。 さらにガスの復旧が遅れ、 入浴できないことによる衛生管理も課題となりました。
高齢者施設における空調は、 快適性のための設備ではありません。 猛暑下では、医療・介護と同じく 入所者の生命を維持する重要負荷です。
一部負荷だけの非常用電源では、 施設継続にならない
照明、ナースコール、通信機器などが動いていても、 空調、給水、排水、入浴、厨房、 エレベーターが停止すれば、 高齢者施設としての機能は維持できません。
非常用発電機が始動したかではなく、 入所者の生命と生活を維持する負荷を 何時間、どのように動かせるかで BCPを評価する必要があります。
本事例で採用したエネルギー多重化は、 商用電源が失われても、 発電機2台とスマートメーターによる負荷管理によって、 空調を含む施設機能を最低72時間維持するための設計です。
令和8年熊本地震で確認された 停電、断水、通信障害、燃料不足、 医療・福祉施設の機能低下と、 発災後5時間・24時間・72時間の判断については、 次の記事で時系列に整理しています。
72時間の施設継続を成立させるSPOF分解と運用設計
本施設の契約電力は151kWです。 発電機容量を設備定格の単純合計から算定するのではなく、 日中の平常時平均使用電力約60kWを基準に、 54kVA級発電機2台、 合計108kVAのバックアップ構成を選定しました。
停電時は、スマートメーターと監視画面を使い、 発電能力108kVAを超えないように 施設全体の使用電力を管理します。
計画した負荷と運用条件の範囲で、 空調、エレベーター、照明、 事務・通信設備などの施設機能を 最低3日間維持する設計です。
令和8年熊本地震では、 高齢者施設の停電による空調停止が 多数の熱中症疑いと搬送につながりました。 福祉施設における全負荷維持は、 利便性ではなく生命維持のためのBCPです。
72時間分の燃料を置くだけではBCPになりません。
負荷を知り、平時から運転し、
過負荷を監視し、燃料を補給し、
職員が操作できる状態まで設計して
初めて72時間が成立します。
72 HOURS / TECHNICAL PAPER
BCP対策 停電時72時間の根拠は何か?
「72時間」は、電力復旧までの時間でも、 非常用発電機の連続運転を保証する時間でもありません。 長期停電、燃料補給、連続運転、負荷管理、 オフグリッド電源の条件から、 施設機能を72時間継続するために必要な設計を検証したPDFです。
「停電時72時間の根拠は何か?」を開く・ダウンロード
導入概要
| 導入先 | 社会福祉法人真澄会 |
|---|---|
| 対象施設 | 特別養護老人ホーム博寿苑、 デイサービスセンター桜、 西武庫みのり保育園 |
| 納入時期 | 2020年2月 |
| 受電方式 | 高圧受電・既存設備全負荷バックアップ |
| 発電設備 | 54kVA級LPガス発電機 × 2台・並列運転・合計108kVA |
| 燃料設備 | 980kg LPガス災害バルク貯槽 |
| 燃料多重化 | 既存都市ガスと災害時発電用LPガスの併用 |
| 切替 | 停電時自動起動・全負荷切替 |
| 平時利用 | 夏季・冬季のデマンド抑制、 災害訓練を兼ねた実負荷運転 |
| 計測 | スマートメーターによる電力使用量の常時計測・職員共有 |
| 監視 | 24時間365日モニタリング |
| 設計思想 | 商用電源・自立電源、 都市ガス・LPガス、 設備・監視・職員運用の多重化 |
改訂履歴
| 2022-04-27 | 初版公開。 |
|---|---|
| 2026-08-08 | 関連記事追記。 |