2026年時点で確認すべき変更

2025年11月の初稿以降、UN38.3そのものだけでなく、 その周囲にある航空輸送ルールが更新されています。 現在の実務では、次の3点を分けて確認する必要があります。

1. 国連マニュアルは第8改訂版+改訂1

現行の基礎文書は、国連「試験方法及び判定基準のマニュアル」第8改訂版です。 2025年に改訂1が公表され、38.3節ではリチウム電池試験と「破裂」の定義などが修正されています。 古いテストサマリーを確認するときは、どの改訂版と追補で試験した型式かを確認します。

2. 2026年の航空貨物では充電率条件が拡大

2026年版IATA Battery Shipping Regulationsでは、 機器と同梱する一定のリチウムイオン電池について、 原則として定格容量の30%以下、または表示容量の25%以下で航空輸送へ供する条件が示されています。 UN38.3へ合格していても、充電率や包装条件を満たさなければ、その貨物をそのまま航空輸送できるとは限りません。

3. 旅客が持ち込むモバイルバッテリーにも追加制限

ICAOは2026年3月27日から、旅客のモバイルバッテリーを原則2個までとし、 機内でのモバイルバッテリー自体の充電を禁止する追加措置を導入しました。 これはUN38.3の試験内容を変更するものではありませんが、 輸送・携行の安全管理が試験合格だけでは完結しないことを示しています。

2026年の実務では、UN38.3、テストサマリー、充電率、包装、表示、輸送事業者の追加条件を別々に確認します。

UN38.3とは何か──「認証」ではなく輸送用の型式試験

UN38.3という呼び方は、独立した規格番号ではありません。 国連「試験方法及び判定基準のマニュアル」第3部の subsection 38.3を指します。

対象となる電池型式について、輸送中に想定される複数のストレスを与え、 分解、破裂、発火、漏液、電圧低下などの判定条件を確認します。 その結果をもとに、航空・海上・陸上の危険物輸送規則で分類、包装、表示、書類などを決めます。

「UN38.3認証書」という表現に注意

試験所が発行する合格証明書やレポートを、販売者が「UN38.3認証書」と呼ぶことはあります。 しかし国連が製品ごとに認証書を発行する制度ではありません。 確認すべき資料は、実際の型式に対応した試験報告書と38.3.5のテストサマリーです。

UN番号と電池の配置は別の論点

代表的なUN番号 対象 実務上の区分
UN 3480 リチウムイオン電池 電池単体で輸送する場合
UN 3481 リチウムイオン電池 機器と同梱、または機器に組み込まれた場合
UN 3090 リチウム金属電池 電池単体で輸送する場合
UN 3091 リチウム金属電池 機器と同梱、または機器に組み込まれた場合

※実際の分類は電池の化学系、Whまたはリチウム量、配置、数量、包装、輸送モード、例外規定によって変わります。 第8改訂版ではナトリウムイオン電池に関する規定も追加されていますが、リチウム電池とはUN番号や条件を分けて確認します。

試験項目T1〜T8──何を想定した試験か

T1〜T8は、輸送中の環境と異常を再現するための試験です。 すべての試験を、すべての電池へ同じ方法で実施するわけではありません。 セルか組電池か、一次電池か充電式かによって適用が分かれます。

試験 想定するストレス 確認する主な内容
T1 低圧航空輸送時の低圧環境低圧状態による漏液、破裂、発火などが生じないか
T2 温度高温・低温の反復温度変化による密閉性、内部接続、電気的健全性への影響
T3 振動輸送中の継続的な振動端子、接続、内部部品が振動で損傷しないか
T4 衝撃輸送・荷扱い時の急激な衝撃加速度衝撃に対して分解、破裂、発火などが生じないか
T5 外部短絡端子の外部短絡短絡時の温度上昇と、分解、破裂、発火の有無
T6 衝突/圧壊セルへの機械的損傷形状に応じた衝突または圧壊で、セルが危険な状態にならないか
T7 過充電充電式組電池の過充電過充電状態に対する保護と、分解・発火などの有無
T8 強制放電セルの強制放電・転極異常放電状態で分解・発火などが生じないか

T1〜T8に合格した試験サンプルと、納入される量産品が同じ設計・材料・工場管理であることは別途確認が必要です。

UN38.3テストサマリーで確認する10項目

テストサマリーは、試験報告書そのものではなく、 電池型式が38.3節の試験を満たしたことを追跡するための要約資料です。 製造者やその後の流通事業者は、確認できる状態にしておくことが求められます。

  1. 製造者名:セル、組電池または電池を搭載する製品の製造者
  2. 製造者の連絡先:住所、電話、メール、ウェブサイト
  3. 試験所名と連絡先
  4. 固有の試験報告書番号
  5. 試験報告書の日付
  6. 電池の説明:化学系、質量、Whまたはリチウム量、外観、型式番号
  7. 実施した試験と結果:T1〜T8のうち適用される試験と合否
  8. 組電池の追加試験要件への参照:該当する場合
  9. 使用した国連マニュアルの改訂版・追補
  10. 情報の有効性に責任を持つ者の氏名・役職

テストサマリーは「型式の対応表」として読む

書類が存在するだけでは不十分です。 テストサマリーに記載されたセルまたは組電池の型式、Wh、質量、製造者、試験報告書番号が、 実際の製品ラベル、納入仕様書、BOM、シリアル・ロット情報とつながっているかを確認します。

テストサマリーに年次更新期限はない

UN38.3テストサマリーは、毎年更新する認証書ではありません。 試験した型式と設計が変わらなければ、単に時間が経過したことだけで失効するものではありません。 一方で、セル、電極材料、容量、構成、保護回路、筐体、製造方法などの変更が、 別設計として再試験を要する場合があります。

最大の実務リスクは「資料はあるが、納入品と一致しない」こと

調達現場では、UN38.3テストサマリーが提示されたことで確認を終えてしまうことがあります。 しかし、事故や輸送拒否につながるのは、書類の有無だけではありません。

  • セル単体のテストサマリーだけで、完成した組電池の型式が確認できない
  • 試験資料の型式名と、商品ページ・銘板・梱包表示の型式が異なる
  • 認証時と量産時で、セルメーカーや容量、BMS、筐体が変更されている
  • 複数ブランドの製品へ同じPDFが転用され、対象型式の範囲が分からない
  • 試験所名や報告書番号はあるが、問い合わせ先や原本との照合ができない
  • 輸入者が資料を保管しておらず、メーカーサイト消滅後に追跡できない
調達者が確認すべきなのは「UN38.3のPDFがあるか」ではなく、 「その資料が、実際に納入されるセル・組電池・製品型式へ一意に結び付くか」です。

UN38.3とPSE・IEC・JIS・品質管理は、評価する範囲が違う

制度・規格 主な目的 単独では判断できないこと
UN38.3 輸送用の電池型式試験 製品全体の長期安全性、量産品質、設置・保守・回収
PSE 電気用品安全法の対象製品・部品の技術基準適合 対象外部分、BCP用途への適合性、全ライフサイクル責任
IEC/JIS/UL セル、組電池、機器、システムなど規格ごとの安全評価 規格の対象外となる部品・用途、実際の量産変更、運用管理
ISO 9001等 品質マネジメントの仕組み 個別製品が必ず安全であること、特定型式の試験合格
SDS 化学物質・混合物の危険有害性と取扱情報 UN38.3試験結果、製品型式の輸送適合、製品安全性能

製品ページに複数のマークや規格番号が並んでいても、 それぞれが同じ対象型式、同じ構成、同じ製造工場、同じ量産ロットを確認したものとは限りません。 「何のための規格か」「何を試験したか」「納入品と一致するか」を分けて確認します。

調達責任者が確認すべき12項目

  1. 電池の化学系:リチウムイオン、リチウム金属、ナトリウムイオンなどを特定できるか
  2. 輸送する状態:電池単体、機器と同梱、機器内蔵のどれか
  3. UN番号:実際の構成に対応した分類か
  4. テストサマリー:実際のセルまたは組電池型式と一致するか
  5. 試験報告書番号:原本や試験所へ追跡できるか
  6. セルと組電池の対応:セル合格だけで製品全体を説明していないか
  7. 充電率:航空輸送時のSoC条件を満たすか
  8. 包装・表示・書類:輸送モードと数量に応じた要件を満たすか
  9. 変更管理:セル、BMS、容量、筐体、工場変更時の再評価手順があるか
  10. 量産トレーサビリティ:シリアル、製造日、セルロット、工場を追跡できるか
  11. 国内責任主体:輸送拒否、事故、リコール時に対応する法人が明確か
  12. 回収・廃棄:故障品やリコール品を安全に回収・保管・処理できるか

調達仕様書へ入れるべき条件

「UN38.3適合」とだけ書かず、対象型式、試験報告書番号、テストサマリー、製造者、試験所、 セル・組電池・製品の対応関係、変更時の事前通知、ロット追跡、国内回収窓口まで提出条件にします。

UPS・BCP電源では、輸送後の安全性と継続責任が本体になる

UN38.3は、製品を配備場所まで運ぶために必要な確認です。 一方、UPS・BCP・非常用電源は、到着後に数年単位で待機し、 停電時に確実に動作し、人の近くや施設内で安全に保管できることが求められます。

輸送までに確認すること

  • UN38.3とテストサマリー
  • UN番号と電池の配置
  • Wh、数量、充電率
  • 包装、表示、輸送書類
  • 航空・船舶・陸上の追加条件

配備後に確認すること

  • 長期待機中の劣化と自己放電
  • BMS、温度監視、異常時遮断
  • 設置場所と延焼影響
  • 定期点検、交換、代替運転
  • リコール、回収、廃棄の責任主体

用途によっては、リチウムイオン電池だけでなく、 AGMバッテリー、 非リチウム電池、 IATA/ICAO特別規定A67 などを含め、輸送・保管・運用の制約から方式を比較する必要があります。

Procurement / Battery Safety

BCP電源を選ぶ前に、調達条件と安全性を確認する

リチウム電源、ポータブル電源、蓄電池を非常用電源として使う場合、 容量や価格だけでなく、発火リスク、リコール確認、セル・BMS、 保管条件、回収・廃棄まで確認する必要があります。

まとめ──UN38.3は必要条件ですが、十分条件ではありません

UN38.3は、リチウム電池を輸送するうえで欠かせない型式試験です。 しかし、製品の長期安全性や品質を保証する万能な認証ではありません。

  • UN38.3は輸送ストレスに対する電池型式の試験です。
  • テストサマリーは試験報告書の要約であり、製品型式との一致確認が必要です。
  • 2026年の航空輸送では、充電率、包装、表示、書類、航空会社条件も重要です。
  • PSE、IEC、JIS、UL、品質管理は、それぞれ異なる範囲を評価します。
  • BCP電源の調達では、輸送後の保守、リコール、回収・廃棄まで確認します。
「UN38.3取得」ではなく、誰が、どの型式を、どの条件で試験し、 その資料が実際の納入品へつながっているかを確認することが重要です。

一次資料・確認先

Save

この記事要約を保存・共有する

Consultation / Field Survey

ご質問・現場調査のご依頼はこちら

IEC 61000-4-30等に準拠した高分解能の電源品質調査、 既設図面のない現場での電気回路調査・回路図作成、 現象は発生しているものの原因を特定できない電気トラブルの切り分けなどに対応します。

電気設備担当がいない、設備構成や運用条件を実際に確認しなければ判断できない場合もご相談ください。

フォーム送信後、24時間以内にご連絡します。