1. 平常時の稼働と非常時機能を分けて確認する
UPSは平常時にも電源系統の一部ですが、その蓄電機能や切替機能が必要になるのは商用電源を失ったときです。バッテリーが交換時期に達していても、商用電源が継続していれば接続負荷が動作し、中央監視にも異常が見えにくい場合があります。
したがって保守では、現在負荷へ電気が届いているかだけでなく、停電した瞬間に、何を何分残す必要があるかを確認します。UPSが水位計、PLC、通信、制御リレー、電動弁、発電機起動信号等を支えている設備では、停電時の保持能力そのものが非常時機能です。
| 状態 | 見える現象 | 確認する機能 |
|---|---|---|
| 商用電源あり | 負荷が通常どおり動作する | UPS異常・バッテリー状態・監視・警報が正しく把握できるか |
| 商用電源喪失 | UPS・非常用電源へ役割が移る | 保持時間、切替、計測、制御、通信、起動信号が成立するか |
| 暫定バイパス | 通常電源では負荷が動き続けることがある | UPSを外したことで失う非常時機能と、その代替手段 |
National Route 16 / Murata Underpass / 2026
2. 村田町アンダーパスでは、停電まで設備は排水を続けていた
国土交通省関東地方整備局の中間報告では、2026年8月13日20時30分に千葉市内で停電が発生し、国道16号村田町アンダーパスの非常用発電機が作動せず、排水設備等の稼働が停止したとされています。一方、停電発生までは排水ポンプが稼働し、アンダーパス内の浸水を排除していたことが道路監視カメラで確認されています。
この経過は、通常運転の継続だけでは非常時機能を確認できないことを示します。停電前までポンプが動いていた設備でも、停電後に必要となる検出、起動、切替、計測、制御の連鎖が成立するかは別の確認項目です。
3. 非常用発電機は、起動条件まで含めて成立する
村田町アンダーパスの非常用発電機は、停電検知センサーからの起動信号だけではなく、水位計からの排水水位超過信号との2つの信号がそろって起動する構成でした。中間報告は、一般的な非常用発電機では停電検知信号のみで作動することが一般的であるとも記載しています。
また、水位計は停電時にバッテリー(UPS)から給電されます。つまり、この設備では大容量の非常用発電機を起動させる条件の一部を、水位計とそのUPSが支える構成になっていました。
停電後から手動による非常用発電機の起動までの226分間、水位モニターには適切な値が表示されていなかったことも中間報告で確認されています。報告書はその後、非常用発電機と関連設備の遠隔監視、ログ保存、異常通知のシステム化、安全設計や起動条件の簡素化を検討事項として挙げています。
非常用電源システムは、電源・検出・判断・起動・切替・監視の連鎖で成立する。
発電機本体の定期点検に加え、停電時に必要な入力信号と制御電源まで含めて、実際の動作順序を確認します。
UPS内部で異常検出、切替、インバータ、バイパス、バッテリーがどのように電力経路を構成するかは、 「UPSの切替時間『10ms・20ms』とは何か」 で交流波形と内部構造から確認できます。
4. 7月24日の点検では、UPSのバッテリー交換時期アラームが確認されていた
2026年9月16日、千葉国道事務所は点検事業者からの追加報告を公表しました。報告によると、7月24日の点検時に、2回目となるバッテリー交換時期の目安を知らせるアラームを確認し、UPSダウンの懸念からUPSを停止した後、UPSを介さないバイパス給電となるよう接続替えを行い、千葉国道事務所へ報告していました。
千葉国道事務所は、当該処置が関連設備の作動に与えた影響と、非常用発電機不作動の原因について調査を継続しています。2026年10月4日時点で、関東地方整備局の公表一覧では9月16日以後の原因確定資料は確認できません。
点検事業者からの報告を公表した千葉国道事務所の資料では、UPS停止とバイパス処置の内容を確認できます。
5. バッテリー交換警報を、交換完了までの管理トリガーにする
バッテリー交換時期アラームの判定方法はUPSごとに異なります。経過年数、内部診断、容量推定、電圧、抵抗値等、メーカーごとに条件が設定されているため、アラームだけから残寿命を一律に判断することはできません。
一方、公共インフラの運用では、アラームを認識した時点で次の工程を開始できます。重要なのは「交換してください」という表示を確認することではなく、交換完了日までの非常時機能を誰が、どの条件で維持するかを決めることです。
アラーム内容、バッテリー状態、保持時間、UPS本体状態を確認する。
バイパス、予備電源、監視強化等の代替措置を決める。
交換後に停電時の機能連鎖まで確認する。
赤ランプ、保持時間低下、異臭、過負荷など、交換警報と同時に確認したいUPSの状態は、 「UPSの落とし穴16選」 で症状ごとの確認手順へ接続できます。
6. バッテリー交換時期と年度予算には時間差がある
村田町アンダーパスの公表資料から、UPSの交換判断に予算事情が影響したことは確認できません。ここからは、当社が水道局、ポンプ場等の公共インフラ設備の保守・更新で経験してきた一般的な実務構造です。
バッテリー交換時期は年度初めに合わせて到来するわけではありません。年度途中に交換時期を迎えた場合、当年度の保守費・修繕費で対応できなければ、次年度予算への計上、査定、発注、製作、現地工事まで時間が必要になります。
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現地確認・見積
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予算確保
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発注
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バッテリー・UPS・盤改造部品の調達
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停電作業調整
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交換・復旧
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実動確認
一般事務所の小型UPSなら短期間で交換できても、盤組込み、特殊電圧、外部接点、長時間保持、通信、制御回路との接続を持つ産業用UPSでは、交換が設備改造工事になる場合があります。したがって、警報から交換完了までの所要時間そのものを非常用設備の設計条件に入れる必要があります。
交換品の納期や本復旧までの時間を予備系で埋める考え方は、 「公共インフラの非常用設備にN+1が必要な理由」 で、N+1、予備機、代替電源の設計条件として整理しています。
7. 暫定バイパスでは、失われる機能と代替手段を同時に決める
UPSをバイパスして商用電源から負荷へ直接給電すれば、通常運転を継続できる場合があります。この処置は設備停止を避けるための暫定手段になり得ます。
その時点で確認するのは、UPSを経路から外したことで何が変わったかです。停電保持、瞬停吸収、電圧変動対策、制御電源、通信保持など、元のUPSが担っていた機能を洗い出し、必要なものには別の手段を用意します。
| 暫定運用で決める項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 期限 | いつまでに通常構成へ戻すか |
| 失われる機能 | 停電保持、通信、計装、制御、起動信号等 |
| 代替安全措置 | 予備UPS、別電源、監視頻度増加、手動操作、事前通行規制等 |
| 監視 | 暫定状態そのものを中央監視・点検記録で識別できるか |
| 復旧確認 | 交換後に非常時の動作連鎖を試験する |
暫定運用で確認する対象は、UPSに接続された機器名だけでなく、その先で成立する業務経路です。 オリエンタルベーカリー株式会社のFAX受注センター では、複合機、FAXサーバー、ONU、ルーター、HUBを一つの受注経路として捉え、既設UPS約10分の保持時間、複合機の突入電流・変動負荷、増設バッテリー、ホットスワップ、停電・イベント通知までを一体で設計しています。 複合機やレーザープリンターなどの変動負荷・突入電流は、 「UPSの負荷故障(過負荷)はなぜ起きる?」 で実測・切り分け方法を確認できます。
8. 非常用設備は、動作連鎖で試験する
村田町アンダーパスの中間報告では、事案後に停電状態を再現し、排水ピットへ水を継続注入しながら電力を遮断する現地検証を実施しています。その検証では、非常用発電機と排水ポンプが正常に作動しました。
ここで重要なのは、非常用発電機、UPS、水位計、ポンプを個別に見るだけでなく、停電検知 → 水位検知 → 起動信号 → 発電機起動 → 切替 → ポンプ運転 → 監視までを一つの動作として確認していることです。
中間報告も、手動切替訓練・実動訓練、遠隔監視、ログ保存、カメラ、異常通知、安全設計、計画的な設備更新を今後の対策として挙げています。非常用設備の点検では、本番と同じトリガーから必要な機能が最後まで成立するかを確認します。
法定停電・停電点検を、停止前、停電中、復電、再投入までの時系列で確認する手順は 「停電点検のトラブル事例」、 復電時の突入電流、サージ、同時起動、本体老朽化は 「法定停電の復電時にUPSが壊れるのはなぜか」 で確認できます。
エスカ地下街の導入事例 では、法定停電に対して通信・電話・ネットワーク機器を重要負荷として切り出し、停電中の継続だけでなく、復電時の突入電流やサージ、手動再投入による不安定化まで含めて無瞬断で通過させる構成としています。
9. 交換費用をライフサイクル予算へ組み込む
UPSのバッテリーは消耗品です。交換時期が到来すること自体は、設備の異常というよりライフサイクル上予定される事象です。それなら、交換が必要になってから予算を探すより、導入時点から交換費用と作業条件を計画へ入れる方が非常時機能を維持しやすくなります。
公共インフラでは、定期交換込み保守、長期保守契約、リース、消耗品費込み調達、交換期限を含むSLA、予備機・予備バッテリー、遠隔監視等を組み合わせることで、年度途中の警報を突発費だけで処理しない構成を作れます。
保守契約、保証、遠隔監視、交換部品の手配を一つの運用として組み合わせ、警報が出た日から交換が終わる日まで、非常時機能を維持するための費用と責任範囲をあらかじめ決めます。
新長田眼科病院のUPS導入事例 では、白内障手術装置を保護するUPSを、0ms無瞬停の電源機能だけでなく、5年保証と24時間365日の遠隔監視を含む長期運用として構成しています。交換や異常対応を導入後の運用まで含めて設計する実例です。
10. 設置場所と復旧時間を同じ設計条件に置く
前稿「排水ポンプの電源喪失と建築物における電気設備の浸水対策」では、水系、主電源系、非常電源系、制御・計装系を同じ浸水故障領域へ置かないことを扱いました。
本稿で加わるのは時間です。浸水リスクに応じた配置と、交換警報を認識してから正常構成へ戻るまでの時間を同じ設備条件として管理します。高所配置、保守契約、予備電源、監視は、それぞれが同じ非常時機能を支える設計要素です。
非常用設備では、どこに置くか、何がトリガーで動作するか、その機能を失った場合に何へ切り替えるか、何時間・何日で正常構成へ戻すかを一つの設計条件として扱います。
設計・保守で確認する条件
- UPSは何を給電しているか。負荷機器名だけでなく、計測・判断・制御・通信・起動信号の役割まで確認する。
- バッテリー交換警報が出たとき、誰へ通知され、何日以内に状態確認・交換判断を行うか。
- 交換までバイパスする場合、失われる非常時機能と代替安全措置を記録する。
- 暫定運用の終了日、責任者、復旧条件が決まっているか。
- バッテリー、UPS本体、盤改造部品、停電作業の標準納期を把握しているか。
- 定期点検で、商用電源喪失から非常用設備の最終動作までを実動確認しているか。
- UPS異常、バイパス状態、発電機状態、計測値を遠隔から識別し、ログを保存できるか。
- 交換費用を年度途中の突発修繕だけに依存せず、保守・消耗品・長期更新計画へ含めているか。
異常認識から正常構成への復帰までを管理する
UPSのバッテリー交換警報は、非常時機能を再確認し、交換完了までの管理を開始するタイミングです。商用電源で通常運転が継続している期間に、停電時の保持、計測、制御、通信、起動信号を確認し、必要な代替手段を準備します。
交換期限、暫定運用、代替安全措置、監視、予算、調達、復旧試験を一本につなぎ、異常認識から正常構成への復帰までを管理することで、非常用設備の機能を継続できます。