先に結論:法定停電は「予定された単一障害」— 単一障害点(SPOF)を設計で解消する
法定停電は災害ではありません。点検・切替・保守の都合で発生する運用イベントです。 そのため、ビル側が「災害時に6日間持つ」レベルまで強靭化していても、重要系が遅延・瞬停・復旧後トラブルの影響を受ける余地が残ります。
ここで言う 単一障害点(SPOF) とは、そこが止まるだけで重要業務が止まる“1点の弱点”です。 法定停電は、そのSPOFが露出しやすい運用イベントです。
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重要系(コールドウォレット周辺)は“ラストワンマイル”にSPOFが残りやすい
建物の非常用電源が強くても、運用イベント起因の単一障害点(SPOF)はテナント側の設計で解消する必要があります。 -
法定停電は3〜5時間と長時間化し得る
“数分しのげばOK”ではなく、“数時間を設計で通過する”が現実解です。 -
床荷重がUPS設計を止める(295kg/㎡)
大型UPSが置けない現場では、可搬型UPSで“守る範囲”を最適化します。
以降は、メール要旨(一次情報)→ 根拠(床荷重・重量)→ 解決(可搬型UPS)→ 導入ステップの順で、設計に落とし込みます。
1. 「停止しない予定」でも“遅延”が出る——法定停電メールの要旨(実名伏せ)
今回の案内は、「停止は予定しない」が「通常より遅延する可能性がある」という内容でした。 これは、運用イベントが重要系に影響し得る“兆候”がすでに表面化している、という読み方ができます。
メール要旨(匿名化・短縮)
- 法定停電:日曜 9:00〜17:00(予定)
- サービス停止は予定なし。ただし各種手続きが通常より遅延する可能性
- 暗号資産の送付・預入、円の入出金は余裕をもって手続き推奨
- 当日申請分は翌日以降に順次反映となる見込み
※本稿はメール本文を転載せず、「要旨(一次情報)」として整理しています。
2. 法定停電は長時間化している(しかもDX/金融ほど影響が大きい)
法定停電は、電気設備の法定点検・自主点検に伴う全館停電として実施されることがあります。 DX化でビル電気設備が複雑化し、停電時間が3〜5時間と長時間化してきているという指摘もあります。
金融・暗号資産の現場では、停止は“機会損失”に直結します。 さらに、停電や復電時の異常電圧・突入電流などで機器故障やネットワーク断が起きると、 業務停止のリスクが跳ね上がります(しかも損害が保険でカバーされないケースがあるという論点も見逃せません)。
3. 「建物が6日もつ」だけでは足りない理由
たとえば都心の大規模複合施設では、停電時にピーク時電力の100%を6日間維持できる、といった強化計画が公表されています。
参考(外部リンク): 非常用発電を6日間維持(公表資料)
一方で、ここに“落とし穴”があります。
- 法定停電は「災害」ではなく「点検・切替」という運用イベント
- 建物側の強力なバックアップがあっても、点検手順・切替タイミング・保守の都合で、重要系に影響(遅延・瞬停・復旧後トラブル)が出る可能性が残る
- 暗号資産や金融の重要系(例:コールドウォレット周辺、承認端末、監視、オペレーション)ほど、この“運用イベント”に弱い
つまり、ビルのBCPが強いほど安心し、ラストワンマイル(自社の重要系)で単一障害点(SPOF)が残りがちです。
参考(外部リンク)街・ビル側の冗長化例: 独自のエネルギーシステムで災害時も安定した電源供給を実現(公表資料)
4. 最大の盲点:床荷重で「UPSが置けない」
「では、UPSを置けばいい」と考えるユーザーは多く、各メーカー仕様を比較検討する段階で気づきます。
第一は、バックアップ時間が短すぎること。
第二は床荷重の制限があることです。
テナントオフィスでは床荷重がボトルネックになります。
事務所の床荷重制限は 2900N/㎡(約295kg/㎡) という制限が一般的であり、ここを超えると設置が難しくなります。
5. 一般的なUPSは「短時間」でも重くなる
例えば一般的な大型UPSでは、5.6kW出力で“わずか6分”のバックアップでも320kgになり、 床荷重の壁に当たりやすい——という例が示されています。
6. 解決策:可搬型UPSで単一障害点(SPOF)を解消する
そこで有効なのが、可搬型UPS(ポータブル電源×UPS運用)です。 資料例では、1セット約65kgで運用し、4セット合計で6kW出力・60分バックアップ、総重量280kgで床荷重もクリアという提案が示されています。
これは単なる“災害対策”ではありません。法定停電(点検)という「予定された停止」を、システム側から無意味化するための設計です。
7. 暗号資産・金融でのユースケース
当社では国内暗号資産取引所や証券会社などへ可搬型UPSを納入しています。
多くの目的は、法定点検時におけるコールドウォレット周辺のセキュリティ確保、金庫の常時バックアップ電源として採用されています。
同種の事態は今も起こり得ます。
「停止はしない予定」「遅延の可能性」——こうした案内が出る時点で、
運用イベントが重要系に影響する“兆候”が見えています。
8. まずは“最小構成”から(おすすめ導入ステップ)
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重要系を切り分ける
コールドウォレット周辺/承認端末・監視端末/コアネットワーク(ONU・ルータ等) -
法定停電のタイムラインを前提に、必要時間を決める
「3〜5時間化」の現実を前提に、“無瞬停で守る範囲”を先に確定する -
床荷重制限に収まる構成で、止められない系だけ無瞬停化する
大型UPSではなく、可搬型で“必要箇所に集中”させる -
点検当日の運用(切替・監視・復電時の再投入)まで含めて手順化
設備ではなく「運用イベント」を“潰す”のではなく、SPOFを解消する発想で、当日の手順を設計に含める
まとめ:法定停電を“通常運用のまま通過できる日”に変える
- 法定停電は災害ではなく、点検・切替・保守という運用イベント(予定された単一障害)です。
- ビル側の強靭化(例:6日間維持)が進んでも、重要系のラストワンマイルはテナント側で単一障害点(SPOF)を解消する必要があります。
- テナントで詰まりやすいのは床荷重(295kg/㎡)で、一般的UPSは短時間でも重量化しがちです。
- 可搬型UPSなら、床荷重を守りつつ“守る範囲”を最適化でき、コールドウォレット周辺の設計に適合します。
- また、原状復帰等の建物契約による制約を受けません。
次の法定点検日までに、コールドウォレットを含む“止められない重要系”を、床荷重制約込みで無瞬停化する最小構成の設計を行なうことが急務と言えます。
当社では、点検当日の手順(切替・監視・復電後の再投入)まで落とし込んだご提案が可能です。
Case Study
【株式会社エスカ】 想定外の復電事故対策としての可搬型UPS導入(法定停電への備え)
「法定停電は予定された停止」ですが、現場で怖いのは“復電側”です。 実際の導入事例として、どこを守り、どう運用に落としたかを公開しました。