電源品質の影響で、なぜ現場の機器は止まるのか?

PLC、PoEスイッチ、Wi-Fiアクセスポイント、インバータ、サーバなどの機器は、 入力される電圧や周波数が一定の範囲にあることを前提に動作しています。 その範囲を外れる状態が短時間でも発生すると、 機器内部の電源回路が出力を維持できなくなり、リセットや再起動、保護停止が発生します。

そのため、停電情報が出ていなくても、 PLCがリセットする、 PoEスイッチが再起動する、 Wi-Fiアクセスポイントが停止する、 インバータが低電圧トリップする、 サーバや監視装置が停止するといった事象が起こります。

原因となるのは長時間の停電だけではありません。 数十ms〜数秒の瞬低・瞬断、サージ、復電時の電圧変動、 施設内の電圧不平衡なども、機器入力端では停止要因になります。 どの程度の変動で停止するかは、機器ごとの入力仕様や電源回路、保持時間によって異なります。

現場で確認すべきなのは、停電が記録されているかではなく、 機器が停止した時刻に、入力電源へどのような変化が発生していたかです。

1. 「電気の質に関する報告書」は何を見ているのか

OCCTO「電気の質に関する報告書」は、電気の供給信頼度を把握するための年次報告書です。 報告書では、主に次の3つが扱われます。

Frequency

周波数に関する実績

標準周波数から一定の変動幅に維持された時間の比率、つまり周波数時間滞在率を確認します。

Voltage

電圧に関する実績

100V・200Vについて、維持すべき電圧範囲から逸脱した測定箇所があるかを確認します。

Outage

停電に関する実績

事故発生箇所別の供給支障件数、原因別供給支障件数、低圧電灯需要家停電実績などを確認します。

したがって、この報告書は電力系統全体の信頼度を見るうえで重要です。 一方で、瞬低・瞬断・サージの全発生回数を直接示す資料ではありません。

2. 周波数:全体として高水準。ただし中西エリアは軽負荷期に注意

2020〜2024年度の周波数時間滞在率を見ると、北海道・東エリア・沖縄は99%前後以上で推移しています。 一方、中西エリアは97〜98%台で推移し、2023年度に97.68%まで低下、2024年度は97.99%へ改善しています。

2024年度版では、中西エリアについて、再生可能エネルギー電源の増加、同期電源の減少等を背景として、 主に軽負荷期に周波数調整目標範囲を逸脱する断面が一定程度あったことが説明されています。

エリア 2020 2021 2022 2023 2024 読み方
北海道 99.93% 99.87% 99.90% 99.91% 99.89% 高水準で横ばい
東エリア 99.71% 99.50% 99.43% 99.01% 99.35% 2023年度に低下、2024年度は改善
中西エリア 98.50% 98.12% 98.46% 97.68% 97.99% 主に軽負荷期に目標範囲を逸脱
沖縄 99.92% 99.89% 99.98% 99.97% 99.98% 高水準で推移

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表1-2〜表1-5を基に作成。

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表1-2〜表1-5を基に作成。

3. 電圧:全国測定では、逸脱箇所は5年間ゼロ

2020〜2024年度の全国電圧測定実績では、 100V・200Vともに、維持すべき電圧からの逸脱箇所はゼロです。

この電圧測定は、選定された測定箇所で24時間測定し、 30分ごとの平均電圧の最大値・最小値を用いて、 電圧維持範囲からの逸脱を確認するものです。

電圧 項目 2020 2021 2022 2023 2024
100V 測定箇所数 6,562 6,589 6,578 6,681 6,686
逸脱箇所数 0 0 0 0 0
200V 測定箇所数 6,498 6,523 6,496 6,574 6,581
逸脱箇所数 0 0 0 0 0

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表2-2を基に作成。

30分平均では、短時間の電圧変動は捉えられない

電圧逸脱箇所数ゼロは、標準電圧の維持状況を示す重要な実績です。 一方、数十ms〜数秒で発生する瞬低・瞬断・サージは、 30分平均とは異なる時間尺度の現象です。

そのため、短時間の電圧変動によってPLC、PoEスイッチ、サーバ、インバータなどが停止したかを確認するには、 より短い時間間隔で電圧変化を記録する必要があります。

4. 供給支障:自然災害の影響を強く受ける

全国の供給支障件数は、2021年度に11,563件まで減少した後、2022年度以降は14,000〜15,000件台で推移しています。 2022年度は大雨・台風、2023年度は能登半島地震や台風、2024年度は台風第10号や豪雨など、年度ごとの自然災害の影響を強く受けています。

年度 全国供給支障件数 主な読み方
2020年度 14,348件 2019年度と概ね同程度
2021年度 11,563件 5年間で最少水準
2022年度 14,793件 大雨・台風の影響で増加
2023年度 15,132件 自然災害影響により増加
2024年度 14,885件 前年度比ではやや減少

ただし、ここにも重要な注意点があります。 供給支障には、 電路が自動的に再閉路され、電気の供給支障が解消した場合は含まれません。

つまり、落雷などで一瞬電圧が落ち、保護動作後に自動再閉路で復帰した場合、 電力会社側の統計では供給支障として見えにくくても、需要家側では機器が止まることがあります。

5. 低圧電灯需要家停電実績:全国平均では年0.13〜0.17回

全国の1需要家あたり年間停電回数は、2020〜2024年度で0.13〜0.17回です。 年間停電時間は10〜36分で、5年間平均では年間停電回数0.15回、年間停電時間25分となります。

年度 年間停電回数 年間停電時間 読み方
2020年度 0.17回 27分 災害が少ない年でも一定の停電実績
2021年度 0.13回 10分 5年間で最も短い
2022年度 0.16回 25分 九州の台風影響が大きい
2023年度 0.15回 36分 停電時間は5年間で最長
2024年度 0.13回 24分 前年度より改善
5年平均 0.15回 25分 長時間停電は少ない

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表3-25を基に作成。

この数字は、日本の長時間停電が少ないことを示す重要なデータです。 しかし、瞬低・瞬断・サージの発生頻度を示すものではありません。 つまり、停電統計が良好でも、現場の制御機器や通信機器が止まらないとは限りません。

6. 「停電していない」のに、なぜ設備は止まるのか

この問いが、今回の分析で最も重要です。 OCCTO報告書の統計は、電力系統の供給信頼度を見るために重要です。 しかし、需要家側の設備停止を説明するには、次の現象を別に見る必要があります。

Voltage Dip / Interruption

瞬低・瞬断

落雷、系統切替、大型負荷起動などで電圧が一時的に低下する現象です。 自動再閉路で復帰しても、PLC・インバータ・PoEスイッチは再起動・トリップすることがあります。

Surge / Overvoltage

サージ・過電圧

雷や大型機器のオン/オフ、復電時の変動により、瞬間的に高い電圧が入ることがあります。 停止だけでなく、基板破損・通信機器故障・発煙リスクにつながります。

Renewables / Light Load

再エネ・軽負荷期の周波数変動

中西エリアの記述に見られるように、再生可能エネルギーの増加や同期電源の減少は、 周波数維持を難しくする要因になります。

Load Imbalance

需要家側の相バランス崩れ

系統側に問題がなくても、施設内の単相三線負荷不平衡、大容量機器の起動、PoE・DC24V制御系の設計不足で、 重要機器が不安定になることがあります。

7. 公式統計に「自社の一次データ」を重ねる

「日本の電気は安定しているか」という問いは、公式統計だけでは答えきれません。 公式統計では安定していても、自社の機器が停止しているなら、現場側の一次データが必要です。

現場で記録すべき項目

  • 停止・再起動・トリップが起きた時刻
  • 電圧低下、瞬断、電圧上昇、サージの有無
  • PLC、インバータ、PoEスイッチ、UPS、サーバのログ
  • 止まった機器と、止まらなかった機器
  • 復旧に要した時間と人手
  • 同時刻の天候、落雷、復電、設備起動、相バランス

公式統計は「外から見る電気の質」です。 現場ログは「自社設備が実際に受けた電気の質」です。 両方を重ねて初めて、系統側の問題か、施設内の電源設計の問題かを切り分けやすくなります。

まとめ:公式統計と現場の一次データを分けて確認する

OCCTO「電気の質に関する報告書」からは、 周波数時間滞在率、電圧測定実績、供給支障、低圧電灯需要家停電実績など、 日本の電力供給に関する継続的な実績を確認できます。 2020〜2024年度を見ると、周波数は高い水準で推移し、 100V・200Vの電圧測定でも逸脱箇所は確認されていません。

一方、瞬低・瞬断・サージ、復電時の電圧変動など、 数十ms〜数秒で発生する事象は、これらの統計とは観測する時間尺度が異なります。 PLC、PoEスイッチ、サーバ、インバータなどの停止原因を確認するには、 設備側で短時間の電圧変化と機器の動作を記録する必要があります。

設備停止を切り分けるときは、 停止時刻、電圧・周波数の変化、UPSログ、PLC・PoE・インバータ等のイベント履歴を 同じ時刻軸で照合します。 公式統計と現場の一次データをそれぞれの観測範囲に応じて使うことで、 電源側の変化と設備停止の関係を確認できます。

関連ページ:停電統計から、瞬低・電力品質の対策へ進む

公式統計を確認した後は、瞬低・瞬断・サージ・相バランス崩れ・制御電源UPSの順に切り分けると、 現場で止まった原因に近づきやすくなります。

Official Report

電気の質に関する報告書とは

OCCTO公式報告書で見えるもの、見えにくいものを整理します。

用語を見る →

Voltage Dip / Surge

瞬低・過電圧・サージの違い

電圧が低くなる問題と、高くなる問題を分けて考えます。

用語を見る →

Hold-up Design

瞬停対策と保持時間設計

PLC、PoE、通信機器、制御電源を何秒守るかを整理します。

用語を見る →

Primary Data

瞬低・瞬停はなぜ増えたのか?

停電統計では見えにくい電力品質を、一次データで確認します。

記事を読む →

Load Imbalance

相バランス崩れ・負荷不平衡

系統側ではなく、施設内の電源条件が原因になる場合を確認します。

記事を読む →

Control Power UPS

0.07秒の瞬低から制御電源を守る

DC24V制御系、PLC、IPC、I/O、通信ユニットを保持します。

記事を読む →

8. 本記事で参照した公式資料

本記事では、OCCTOが公表している「電気の質に関する報告書」2020〜2024年度実績を横断して整理しました。

公式報告書の読み方については、用語ページでも整理しています。 電気の質に関する報告書とは も参照してください。

改訂履歴

条件更新
公式統計と需要家側一次データの観測対象・時間尺度を分離し、周波数・電圧・停電統計の読み方と設備停止時の確認方法を改訂。
初版
初版公開。

瞬低・瞬断・電力品質を記録し、止まった原因を切り分ける

当社では、工場、物流倉庫、医療機関、通信設備、自治体施設向けに、瞬低・瞬断・サージ・UPSログ・PoE電源・制御電源の切り分けを支援しています。

停電情報がないのに設備が止まる、PLCやPoEスイッチが再起動する、UPSログに保護動作が残る、電力品質を一次データで確認したい場合は、 発生時刻・設備ログ・負荷構成を含めてご相談ください。 → 電力品質について相談する

Save

この記事要約を保存・共有する

Consultation / Field Survey

ご質問・現場調査のご依頼はこちら

IEC 61000-4-30等に準拠した高分解能の電源品質調査、 既設図面のない現場での電気回路調査・回路図作成、 現象は発生しているものの原因を特定できない電気トラブルの切り分けなどに対応します。

電気設備担当がいない、設備構成や運用条件を実際に確認しなければ判断できない場合もご相談ください。

フォーム送信後、24時間以内にご連絡します。