はじめに:停電統計で「安定」と見えても、現場では止まることがある

日本の電気は安定している。 これは、長時間停電や供給支障の統計を見る限り、今も概ね正しい評価です。 実際、OCCTO「電気の質に関する報告書」では、周波数・電圧・停電に関する実績が継続的に取りまとめられています。

しかし、需要家側の現場では別の問題が起きます。 停電情報が出ていないのに、PLCがリセットする。 PoEスイッチが再起動する。 Wi-Fiアクセスポイントが落ちる。 インバータが低電圧トリップする。 サーバや監視装置が停止する。

これらは、公式統計上の長時間停電とは別の電力品質トラブルです。 数十ms〜数秒の瞬低、瞬断、復電時の変動、サージ、施設内の相バランス崩れなどは、 需要家側の機器には大きな影響を与えます。

つまり、問いは「日本の電気は安定しているか」だけでは足りません。 「どの統計では安定して見えるのか」「どの現象が統計に出にくいのか」「自社設備は何で止まったのか」を分けて見る必要があります。

1. 「電気の質に関する報告書」は何を見ているのか

OCCTO「電気の質に関する報告書」は、電気の供給信頼度を把握するための年次報告書です。 報告書では、主に次の3つが扱われます。

Frequency

周波数に関する実績

標準周波数から一定の変動幅に維持された時間の比率、つまり周波数時間滞在率を確認します。

Voltage

電圧に関する実績

100V・200Vについて、維持すべき電圧範囲から逸脱した測定箇所があるかを確認します。

Outage

停電に関する実績

事故発生箇所別の供給支障件数、原因別供給支障件数、低圧電灯需要家停電実績などを確認します。

したがって、この報告書は電力系統全体の信頼度を見るうえで重要です。 一方で、瞬低・瞬断・サージの全発生回数を直接示す資料ではありません。 ここを取り違えると、「統計では安定しているのに、現場では止まる」というズレを説明できなくなります。

2. 周波数:全体として高水準。ただし中西エリアは軽負荷期に注意

2020〜2024年度の周波数時間滞在率を見ると、北海道・東エリア・沖縄は99%前後以上で推移しています。 一方、中西エリアは97〜98%台で推移し、2023年度に97.68%まで低下、2024年度は97.99%へ改善しています。

2024年度版では、中西エリアについて、再生可能エネルギー電源の増加、同期電源の減少等を背景として、 主に軽負荷期に周波数調整目標範囲を逸脱する断面が一定程度あったことが説明されています。

エリア 2020 2021 2022 2023 2024 読み方
北海道 99.93% 99.87% 99.90% 99.91% 99.89% 高水準で横ばい
東エリア 99.71% 99.50% 99.43% 99.01% 99.35% 2023年度に低下、2024年度は改善
中西エリア 98.50% 98.12% 98.46% 97.68% 97.99% 再エネ増加・同期電源減少の影響に注意
沖縄 99.92% 99.89% 99.98% 99.97% 99.98% 高水準で推移

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表1-2〜表1-5を基に作成。

ここで重要なのは、周波数の維持が崩壊しているという話ではありません。 むしろ高水準を維持しながらも、再エネ増加・同期電源減少・軽負荷期という新しい条件のもとで、調整が難しくなっているという読み方です。

3. 電圧:逸脱箇所は5年間ゼロ。ただし30分平均では瞬低は見えにくい

2020〜2024年度の全国電圧測定実績では、100V・200Vともに、維持すべき電圧からの逸脱箇所はゼロです。 この数字だけを見ると、日本の低圧電圧は非常に安定していると読めます。

ただし、報告書の電圧測定は、選定された測定箇所で24時間測定し、 測定電圧の30分平均の最大値・最小値を記録する方式です。 つまり、数十ms〜数秒の瞬低・瞬断・サージ・復電時変動を直接把握する設計ではありません。

電圧 項目 2020 2021 2022 2023 2024
100V 測定箇所数 6,562 6,589 6,578 6,681 6,686
逸脱箇所数 0 0 0 0 0
200V 測定箇所数 6,498 6,523 6,496 6,574 6,581
逸脱箇所数 0 0 0 0 0

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表2-2を基に作成。

ここで読み違えてはいけない点

電圧逸脱箇所数ゼロは、標準電圧の維持という意味では重要な事実です。 しかし、現場で問題になる瞬低・瞬断・サージは、30分平均では埋もれます。 そのため、電圧逸脱がゼロでも、瞬低でPLCが落ちない、PoEが再起動しない、サージで基板が壊れない、とは言えません。

4. 供給支障:自然災害の影響を強く受ける

全国の供給支障件数は、2021年度に11,563件まで減少した後、2022年度以降は14,000〜15,000件台で推移しています。 2022年度は大雨・台風、2023年度は能登半島地震や台風、2024年度は台風第10号や豪雨など、年度ごとの自然災害の影響を強く受けています。

年度 全国供給支障件数 主な読み方
2020年度 14,348件 2019年度と概ね同程度
2021年度 11,563件 5年間で最少水準
2022年度 14,793件 大雨・台風の影響で増加
2023年度 15,132件 自然災害影響により増加
2024年度 14,885件 前年度比ではやや減少

ただし、ここにも重要な注意点があります。 供給支障には、 電路が自動的に再閉路され、電気の供給支障が解消した場合は含まれません。

つまり、落雷などで一瞬電圧が落ち、保護動作後に自動再閉路で復帰した場合、 電力会社側の統計では供給支障として見えにくくても、需要家側では機器が止まることがあります。

5. 低圧電灯需要家停電実績:全国平均では年0.13〜0.17回

全国の1需要家あたり年間停電回数は、2020〜2024年度で0.13〜0.17回です。 年間停電時間は10〜36分で、5年間平均では年間停電回数0.15回、年間停電時間25分となります。

年度 年間停電回数 年間停電時間 読み方
2020年度 0.17回 27分 災害が少ない年でも一定の停電実績
2021年度 0.13回 10分 5年間で最も短い
2022年度 0.16回 25分 九州の台風影響が大きい
2023年度 0.15回 36分 停電時間は5年間で最長
2024年度 0.13回 24分 前年度より改善
5年平均 0.15回 25分 長時間停電は少ない

出典:OCCTO「電気の質に関する報告書」2024年度実績 表3-25を基に作成。

この数字は、日本の長時間停電が少ないことを示す重要なデータです。 しかし、瞬低・瞬断・サージの発生頻度を示すものではありません。 つまり、停電統計が良好でも、現場の制御機器や通信機器が止まらないとは限りません。

6. 「停電していない」のに、なぜ設備は止まるのか

この問いが、今回の分析で最も重要です。 OCCTO報告書の統計は、電力系統の供給信頼度を見るために重要です。 しかし、需要家側の設備停止を説明するには、次の現象を別に見る必要があります。

Voltage Dip / Interruption

瞬低・瞬断

落雷、系統切替、大型負荷起動などで電圧が一時的に低下する現象です。 自動再閉路で復帰しても、PLC・インバータ・PoEスイッチは再起動・トリップすることがあります。

Surge / Overvoltage

サージ・過電圧

雷や大型機器のオン/オフ、復電時の変動により、瞬間的に高い電圧が入ることがあります。 停止だけでなく、基板破損・通信機器故障・発煙リスクにつながります。

Renewables / Light Load

再エネ・軽負荷期の周波数変動

中西エリアの記述に見られるように、再生可能エネルギーの増加や同期電源の減少は、 周波数維持を難しくする要因になります。

Load Imbalance

需要家側の相バランス崩れ

系統側に問題がなくても、施設内の単相三線負荷不平衡、大容量機器の起動、PoE・DC24V制御系の設計不足で、 重要機器が不安定になることがあります。

7. 公式統計に「自社の一次データ」を重ねる

「日本の電気は安定しているか」という問いは、公式統計だけでは答えきれません。 公式統計では安定していても、自社の機器が停止しているなら、現場側の一次データが必要です。

現場で記録すべき項目

  • 停止・再起動・トリップが起きた時刻
  • 電圧低下、瞬断、電圧上昇、サージの有無
  • PLC、インバータ、PoEスイッチ、UPS、サーバのログ
  • 止まった機器と、止まらなかった機器
  • 復旧に要した時間と人手
  • 同時刻の天候、落雷、復電、設備起動、相バランス

公式統計は「外から見る電気の質」です。 現場ログは「自社設備が実際に受けた電気の質」です。 両方を重ねて初めて、系統側の問題か、施設内の電源設計の問題かを切り分けやすくなります。

8. 本記事で参照した公式資料

本記事では、OCCTOが公表している「電気の質に関する報告書」2020〜2024年度実績を横断して整理しました。

公式報告書の読み方については、用語ページでも整理しています。 電気の質に関する報告書とは も参照してください。

まとめ:日本の電気は安定している。しかし、瞬低・瞬断は別に見る

OCCTO「電気の質に関する報告書」を見る限り、日本の電気は長時間停電や供給信頼度の統計上、今も高い水準を維持しています。 周波数時間滞在率も高く、電圧測定実績でも100V・200Vの逸脱箇所は5年間ゼロです。

しかし、これは「現場の機器が止まらない」という意味ではありません。 30分平均では見えにくい瞬低・瞬断・サージ、自動再閉路で統計に出にくい短時間事象、復電時変動、施設内の相バランス崩れは、需要家側で設備停止として表面化します。

したがって、これからの電力品質対策では、公式統計を読むだけでなく、自社設備の一次データを記録することが前提になります。 停止時刻、電圧変動、UPSログ、PLC・PoE・インバータのイベント履歴を重ねることで、初めて「うちのせいか、電力側か」を切り分けられます。

関連ページ:停電統計から、瞬低・電力品質の対策へ進む

公式統計を確認した後は、瞬低・瞬断・サージ・相バランス崩れ・制御電源UPSの順に切り分けると、 現場で止まった原因に近づきやすくなります。

Official Report

電気の質に関する報告書とは

OCCTO公式報告書で見えるもの、見えにくいものを整理します。

用語を見る →

Voltage Dip / Surge

瞬低・過電圧・サージの違い

電圧が低くなる問題と、高くなる問題を分けて考えます。

用語を見る →

Hold-up Design

瞬停対策と保持時間設計

PLC、PoE、通信機器、制御電源を何秒守るかを整理します。

用語を見る →

Primary Data

瞬低・瞬停はなぜ増えたのか?

停電統計では見えにくい電力品質を、一次データで確認します。

記事を読む →

Load Imbalance

相バランス崩れ・負荷不平衡

系統側ではなく、施設内の電源条件が原因になる場合を確認します。

記事を読む →

Control Power UPS

0.07秒の瞬低から制御電源を守る

DC24V制御系、PLC、IPC、I/O、通信ユニットを保持します。

記事を読む →

FAQ

Q. 日本の電気は本当に安定していますか?

長時間停電や供給支障の統計で見る限り、日本の電気の供給信頼度は高い水準です。 ただし、瞬低・瞬断・サージなど、需要家側で設備停止につながる短時間の電力品質トラブルは、停電統計だけでは判断できません。

Q. 電圧逸脱がゼロなら安心ですか?

低圧の電圧維持範囲としては良好です。 ただし、報告書の電圧測定は30分平均での確認が中心です。 数十ms〜数秒の瞬低・瞬断・サージを確認するには、現場側で電力品質を記録する必要があります。

Q. なぜ停電していないのにPLCやPoEスイッチが落ちるのですか?

電路が自動再閉路で復帰した短時間事象や、瞬低・瞬断・復電時変動は、統計上の停電として見えにくい場合があります。 しかし、マイコン制御機器や通信機器は短時間の電圧低下でも再起動・トリップすることがあります。

Q. 現場では何をすべきですか?

公式統計を確認したうえで、発生時刻、電圧変動、停止した機器、UPSログ、PLC・インバータ・PoE機器のログを記録します。 そのうえで、UPS、DC保持、PoE保持、SPD、相バランス確認を検討します。

瞬低・瞬断・電力品質を記録し、止まった原因を切り分ける

当社では、工場、物流倉庫、医療機関、通信設備、自治体施設向けに、瞬低・瞬断・サージ・UPSログ・PoE電源・制御電源の切り分けを支援しています。

停電情報がないのに設備が止まる、PLCやPoEスイッチが再起動する、UPSログに保護動作が残る、電力品質を一次データで確認したい場合は、 発生時刻・設備ログ・負荷構成を含めてご相談ください。 → 電力品質について相談する