結論:オフグリッドは“電気代”ではなく“停止コスト”で回収する投資

6kW規模の業務電力を、電気料金(例:30円/kWh)だけで評価すると、削減額は小さく見えます。 一方で、瞬低・瞬停で業務が停止し、復旧に人手が発生し、さらに機会損失が乗ると、 「たった一度」の停止で損失が大きくなり、投資回収年数は短くなります。

平時は気づきにくい構造ですが、電源品質の劣化(瞬低瞬停ノイズ)を前提にすると、 「何も起こらないこと」へのコスト負担は、国やインフラ側だけでは吸収できず、 企業側へ寄ってくる設計になりつつあります。

1. 電気代削減だけを見ると、確かに回収は弱い

例として、業務時間中の消費を6kW × 12時間 = 72kWh/日とします。 仮に単価を30円/kWhと置くと、電気料金は 72 × 30 = 2,160円/日 程度です。 これが“削減できたとしても”、投資判断の主軸にはなりにくいのが実態です。

この章のポイント

  • 平時の電気代削減は、規模が小さいと“弱い指標”になりがち
  • 一方で停止が絡むと、損失の桁が変わる(人手・復旧・機会損失)

2. しかし“業務継続(損失回避)”で見ると、回収年数は一気に短くなる

ここでは、 当社の停止コスト試算(PPBB)を用いて 、 「停止が1回起きたときの損害」と「回避額」を、あくまで概算として示します。 (※数字は、前提条件の置き方で上下します。重要なのは構造です。)

停止時間(例) 600分(10時間)
合計損害(1回) 17,879,553円
年間損害(年1回想定) 17,879,553円/年
回避率(仮置き) 50%
回避額(年1回想定) 8,939,776円/年
投資額(例) 10,000,000円
単純回収年数 約1.12年

※上記はPPBBの前提値に基づく概算の一例です(業種・売上・従業員数・影響率・違約金などで変動します)。

「電気代」では弱かった投資が、“停止の損失回避”で見ると 1回の停止(年1回想定)でも回収が成立する構造になっていることが分かります。

感覚のズレが起きる理由

  • 平時の電力コストは“連続”で小さく見える
  • 停止コストは“離散”で、しかも人手・復旧・機会損失が乗る
  • よって、評価軸を間違えると投資判断が逆になる

3. なぜ今「停止が前提」になりつつあるのか(瞬低・瞬停の現実)

瞬低(瞬時電圧低下)は、体感としては「一瞬」ですが、制御・通信・計測にとっては致命傷になり得ます。 そして厄介なのは、頻度がゼロではないこと、さらに継続時間が短いことです。

  • 瞬低の発生率は 3〜6回/年(多雷地域では 10〜20回/年)が目安
  • 発生した瞬低の 95%以上は0.2秒以内

※電気協同研究 第67巻2号の調査として紹介されている資料・解説ページより

0.2秒以内の事象は、一般的な「停電情報」では拾えないことも多く、 しかし現場のPLC・インバータ・通信は“落ちるときは落ちる”領域です。 つまり、現場の停止リスクは、統計的に“既に存在している”と捉えるのが実務的です。

電源品質の議論(瞬低・瞬停・ノイズ)と一次データの重要性は、 瞬低・瞬停はなぜ増えたのか?――1次データが証明する電源品質 でも整理しました。 本稿では結論だけ言えば、“何も起こらない状態”はタダでは維持できないという話です。

4. 日常と非常の境界を“消す”──Engineering Universality(工学的普遍性)

オフグリッドの価値は「非常時にだけ役立つ装置」ではありません。 重要なのは、非常(非日常)と日常(何も起こらない状態)の境目をシームレスにつなぐことです。 “切り替える”のではなく、最初から切れない構造にしておく。 ここに工学的な普遍性(Engineering Universality)があります。

「切れない」を同時に成立させる対象

  • 通信:切れない(復旧の起点・証跡・連絡手段)
  • 業務:切れない(止めない/止まっても最小の手順で戻せる)
  • 冷暖房:切れない(居住性=継続性、現場の体力を削らない)
  • トイレ等の生活インフラ:切れない(現場の滞在・運用を成立させる)

これらは「贅沢」ではなく、継続運用の前提条件です。 停止は設備だけでなく、人・通信・判断を止めます。だからこそ“生活インフラまで含めて切らない”が効きます。

この普遍性を実装として成立させている企業は国内でも極めて少数です。 しかし政府レポートでも繰り返し示されるとおり、競争力を左右するのは「属人」ではなく標準化された構造です。 オフグリッドは単なる非常用設備ではなく、日常の延長として非常を吸収する標準構造として捉えると、 投資の意味がさらに明確になります。

5. オフグリッドの事例を「実利」で読む

タイホ防災株式会社の事例は、オフグリッドを“理念”として語るのではなく、 現場の継続性意思決定の筋の良さとして読むと理解が速くなります。

現場目線の整理(要点)

  • 「電気代が下がるか」ではなく「止めないために、何を守るか」を先に決める
  • 守る対象は“装置”だけでなく、制御・通信・記録(一次データ)を含む
  • 停止が起きたときの損失は、電気代より桁が大きいことが多い
  • よって投資判断は、停止損失(回避額)で評価すると合理的になる

事例の詳細は、こちらにまとめています: 参考事例:新社屋ビル全体オフグリッドという判断

6. 政策文脈で言い換えると:「企業が自律して守る領域」が増えていく

経営側の文脈で見ると、これは「BCP」や「企業防衛」の話でもあります。 そして、政策側の文脈で見れば「外部依存を減らし、構造を自律化する」話でもあります。

経産省レポートを読み解くシリーズ(全3回)は、一般向け要約ではなく、 政策立案と産業界対話の“ベース資料”として読むための整理です: 経産省「製造業を巡る現状の課題と今後の政策の方向性2024・2025」を読む

本稿の立場はシンプルです。
「止めない(何も起こらない)」を実現するコストは、今後ますます企業側で負担する設計になっていく
そのとき、電気代ではなく停止コストで評価し直すと、オフグリッドは“実利”として成立します。

最後に:現場から逆算する判断フレーム

  1. 止めたくない対象を決める(制御・通信・記録=一次データまで含む)
  2. 止まったときの損失を1回あたりで見積もる(人手・復旧・機会損失)
  3. 回避できる割合を仮置きして、回収年数を出す(投資判断のたたき台)

電気代が小さく見える規模でも、停止損失は桁が違うことが多い。 だからこそ、評価軸を間違えないことが最初の一手になります。